2021年2月3日水曜日

弘前市森町の忍者屋敷について その3

奥行きが広すぎて物置になっている

弘前市仲町の旧岩田家 床の間の仕様に注目

 床がなれば、鶯張りか



これまで何度か、弘前市森町にある忍者屋敷について考察してきたが、忍者屋敷とされる最大の根拠、床の間裏の隠れ部屋についてさらに考察する。

 

最初のブログでは、この部屋は物置と、2回目のブログでは便所でないかとしたが、今回は床の間の構造から考察してみたい。

 

床の間は客間に設けられた一定の空間で、ここには掛け軸や生け花を飾る場所で、日本家屋では欠かせられない空間であり、昔の家ではほとんどの家にあった。我が家も一応、八畳の日本間を作り、そこには床の間も作ってもらい、掛け軸や陶器を飾っている。伝統的なものであるが、なかなか良い空間であり、気に入っている。

 

正式な床の間は、床の間、違い棚、付け書院の3要素が揃ったものであるが、よほどの大邸宅以外、こうした3要素が揃うことはなく、せいぜい床の間と違い棚のセットが限界であり、多くの家では床の間の横には押し入れや仏壇が置かれることが多い。そこで問題になるのは床の間の幅と奥行きであり、押し入れ、仏壇は収納を考えるとかなり奥行きが必要となり、半間(90cm)は欲しいところである。ところが床の間の横幅が広い場合は、奥行きが90cmあっても、床の間を二段にすることでなんとかなるが、幅が狭い場合、奥行きが広いと、全く掛け軸や生け花が見えなくなる。そのため、床の間の幅が狭い場合は、奥行きも狭くし、30cmからせいぜい60cmくらいが適切で、下に板を張り、生け花を飾り、掛け軸をかけるといい塩梅となる。そこで押し入れ、仏壇との奥行きの差を埋める方法として、家の側面から押し入れが外に出るようにする方法と、逆に床の間の裏に空洞を設ける方法がある。押し入れが90cmとし、床の間が30cmとすれば、その差の60cmが外に出るか、空洞となる。例えば、弘前市仲町の旧岩田家の床の間を見ると、西の座敷では押し入れが後ろに出ているが、奥座敷では床の間の裏に空洞を作っている。奥座敷の横の縁側は床の間手前で終わっている。

 

こうした例を見ると、森町の座敷、床の間はかなり幅が狭く100cmくらいしかなく、奥行きも30cmくらいしかない。ただ掛け軸、生け花を置くことを考えれば、このくらいの奥行きで十分である。旧岩田家では床の間の裏をただの空洞にしたが、森町の忍者屋敷では縁側を伸ばし、そこに開口させ、掃除道具などちょっとしたものを入れる押し入れとして活用したのではないだろうか。旧岩田家の例で言えば、床の間の奥行きが30cmくらい、その裏の空隙の幅は60cm

くらいで森町の忍者屋敷と一致する。ただ旧岩田家のほうが床の間の幅が広く180cmくらいあるのに対して、森町の忍者屋敷は100cmくらいとなっている。

より奥行きの少ない床の間が望ましい。

 

弘前市教育員会では、昭和60年頃に弘前市内の武家屋敷を調べ、かなり詳しい報告書をまとめている。この本に記載されている建物もここ3040年でかなり無くなっているだけに、今では貴重な報告書となっている。ただこの報告書では森町の忍者屋敷については記載されていない。調査で見つからなかったという解釈もあるが、前の戸主、相馬貞三さんは弘前市文化財審議委員を務めており、自分の住まいが江戸時代のものであれば、当然、この報告書でも取り上げられたであろう。おそらく仮に江戸時代といっても幕末に近い頃の建物かもしれない。

 

鶯張りの廊下についても、京都の知恩院の鶯張りの廊下は修理をすると鳴らなくなり、今まで鳴っていなかった廊下が老化のために鳴り出し、鶯張りはただの劣化によるという説がある。それでも金具「目かすがい」などの構造はやや意図的に鳴るようにしているのかもしれない。忍者屋敷の鶯張りの板も実際に分解すれば、すぐに意図的に鳴るように作ったが分かるであろう。

 

考察として

1.     床の間は幅が狭い場合、奥行きはせいぜい30-40cmくらいであり、横に押し入れを作れば、床の間裏にスペースができる。忍者屋敷の隠れ部屋とされるところは、このスペースを物置に活用したものと思われる。

2.     専門家の分析が必要であるが、文化財審議委員が住む家が江戸時代の武家屋敷のカテゴリーから漏れる可能性は少なく、そもそもかなり新しい建物の可能性がある。

3.     忍者屋敷とされるもう一つの根拠、鶯張りの板についても、単純な劣化、経年変化の可能性がある。この板がオリジナルなものか、あるいは音が鳴るような構造になっているか、分解し、専門家が見れば分かるだろう。

4.     現状では、こうした疑問点を考えると、森町の古民家が実際に忍者が利用した日本では唯一の忍者屋敷とする根拠は少ないように思える。

 

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