2021年7月8日木曜日

歯科医院が足りなくなる、矯正歯科クリニックがなくなる

 



 これはあくまで地方の話、青森県弘前市のことだと思ってほしい。実は今後、10年ほどで弘前市の歯科医院は半分くらいになる。

 

 現在、弘前市の歯科医院数は10名くらいであるが、このうち60歳以上が半分以上いて、最近は70歳くらいで引退する場合が多いので、これに従えば、あと10年くらいで50名、半分くらいになる。一方、新たにできる歯科医はここ数年、年に一軒あるいは2年に一軒くらいの割合で、10年間で多くて10軒、少ないと5軒くらいしかない。ということは差し引き、10年後の歯科医院数は55軒から60軒くらいとなる。一番歯科医の多い年代は60歳以上で、ここがピークで、年齢が下がると減っていくが、引退する先生より開業する先生の方が少なく、20年後には3040名くらいになるだろう。


 ただ患者数がどうかというと、虫歯を持つ患者数は30歳くらいを境に激減しており、20歳くらいで言えば、半分から1/3の人は虫歯がなく、それ以外の人も虫歯は少ない。現状では、虫歯が多かった50歳以上が患者の大半を占めるので、10年後でもまだこうした年齢層は残っているが、次の世代の虫歯が減っているのを見ると、歯科医院にいく患者数も減っていくだろう。

 ただう蝕は減っても、歯周疾患は高齢化に伴い、患者数は増える。大まかに言って歯科医の患者は、虫歯に関係する患者が40%、歯周疾患の患者が30%くらい、親知らず、デキモノなど口腔外科関係の疾患が15%くらい、矯正歯科関係が5%、顎関節症などその他が10%くらいと思われる。虫歯が減って半分くらいになっても、その他のものは減ることはなく、歯周疾患は増加するし、また矯正歯科関係も少しは増加する。すると虫歯が20%、歯周疾患が50%、矯正歯科が10%、その他が10%とすると、全体では90%となり、今より患者数は若干減るくらいになると予想される。


 歯科医数が60%減り、患者数が10%減るなら、一軒あたりの患者数は1.5倍になりそうだが、現状を見ているとそうはなっていない。コロナ騒動のせいで患者数が減っていることもあろうが、多いところと少ないところの二極化が以前より著しくなっている。新規開業のところでも多いところでは50人以上の患者が入っているが、少ないところは10名程度のその差が大きい。

 近年、歯科大学の入学者の半分は女性で、男性に比べて開業する比率は少なく、また結婚する場合は旦那が歯科医という場合が多い。また男性についても、開業のリスクを恐れて以前ほど開業志向は少なく、勤務のままでいいという先生も多い。東京郊外では、歯科医師が数名いる大型歯科医院が増えており、先生一人の歯科医院ではなく、何人かの勤務医を雇った従来より大型の歯科医院が今後、増えそうである。医師の場合は、給料が高くて、なかなかこうした経営も難しいが、歯科医の場合は、給与が比較的安いこともあり、経営手腕のある歯科医は、こうした若くて給与の安い歯科医を雇い、何軒かのグループ診療をしているところがある。材料の仕入れや、研修、職員の雇用など効率的な治療や経営ができるため、今後、ますます多くなると思われる。


 こうした考えを進めていくと、開業医が減るだけでなく、個人開業はさらにへり、勤務医を主体とした大型のチェーン店が多くなってきそうな感じがする。一方、矯正歯科について言えば、日本矯正歯科専門医機構が始まることで、正式に認められた矯正歯科専門医は増加するが、その資格を取るには10年くらいかかりそうなので、それほど矯正歯科専門医の数が急速に増えることはない。青森県でも日本矯正歯科学会の認定医が10名いるが、60歳以上が5名で、青森県出身の若い先生で大学の矯正歯科講座にいる人はほとんどいないので、将来的には減るのではないかと思っている。また矯正歯科医の中でも自分のオフィースを持たずに、大型の歯科医院を何軒か掛け持ちする先生も多くなり、個人矯正開業医はもっと減るかもしれない。現在、青森県で一般歯科をしない矯正専門で開業している先生は6名(弘前の田口矯正歯科、八戸の中野矯正歯科クリニック、十和田のタカヒロ矯正歯科医院、青森の板垣矯正歯科、矯正歯科Kデンタルと私のところ)いるが、ほぼ私と同世代の先生、5名が60歳以上で、残りの1名も50歳以上となる。あと十年で若い先生が矯正歯科で開業しないと、1名しかいないことになる。さらにあと20年すると0名となる(板垣先生の息子が帰れば1名)。矯正歯科の患者は、アメリカの数分の一で、今後もさらに増加することは間違いないが、青森県では矯正歯科医院で治療を受けるのはかなり難しくなるだろう。








4 件のコメント:

kuma さんのコメント...

八戸でも殆ど同じ状況なので、同じようなことを考えていました。今現在70歳前後の先生方は30年ほど前、若手歯科医師の開業を阻止する動きまであって私は非常に困惑した思いがあります。その渦中に私がいましたので(笑)。そんなとき今は亡き私の八戸のK恩師が「quantityではないqualityだ」と言っていたのを思い出します。歯科の仕事は数より質、と言う当たり前のことをわからなかったのか、目先の数にばかりとらわれ後継の歯科医業のあり方をつゆも考えず今に至ってしまったのではないかと思っています。私の息子は歯科医師になりまして、今に帰ってくると言いますが、都会の甘い水に慣れてしまえばそれもまた露と消えますか(笑)。志を持った歯科医師は減り、自己のQOL重視(笑)の若いドクターが増えてきているように思うのも気のせいでしょうか。。。

広瀬寿秀 さんのコメント...

おそらく一番の問題点は、若手のqualityの低下だと思われます。もちろん優秀な若手の歯科医はいますが、若手の平均的な治療レベルが私らのレベルより下がっています。歯科実習をなくす、あるいは減らしたツケが関係しています。欧米、あるいはアジア諸国を見ても、患者実習のない歯科大学、あるいは実技のない国試は、日本以外ありません。多分、歯科大学卒業後の日本の若手歯科医は、世界でも最低の臨床能力でしょう。大学6年間で、患者の治療をしていないばかりか、研修医になってもほとんど治療のないところがあります。
昔は学生実習のレベル、大学の担当科、補綴、保存のレベル、を実習で知ることができ、勤務先での治療を批判することもできましたが、今の若手は勤務先のレベルそのものになります。知人の歯科医の娘さんが横浜で勤務しているので、私の娘が小臼歯のレジン二次カリエスになったため、行かせたところ、露髄した場合は、顕微鏡治療となるので保険はききませんと言われました。おそらくそこの院長のやり方ですが、医療法を犯している感覚もないのでしょう。多分、顕微鏡治療をしても結果は知れています。卒業後、どこで学ぶか大事になってきました。昔は、神奈川歯科大の卒業生は、学生中のケース数が全国一多くて、卒業後、かなりのレベルで治療できたと記憶しています。

kuma さんのコメント...

変に多忙で返信コメント遅れました。先生のおっしゃる通りかもしれません。以前とある米国の臨床的国際学会の場で、卒後1年目の若手歯科医師が、プレゼンしている教授にかみついていたのを思い出します。日本ではトンとお目にかかれない光景で、非常に面白かったのを覚えています。質の低下はやはり大学教育と国試なのでしょうかね。国試さえ受かれば後は野となれ山となれという風潮が暫く続いていたのかも。だから、いかに楽をして適当に稼ぐかばかりが先行し、近隣の若手が開業した折、コンサル主導で患者管理経営が安定してきたのでそろそろ色々勉強しようと思っています、、、なんてことを言い出し、仰天したことが有ります。なんのために君は歯科医師を選択したんだ?と。
神奈川歯科大出身としては先生のおっしゃるとおり40年近く前、学生時代のケースの多さは特筆物でした。勉強苦手なんだから(笑)スキルでカバーしろと、全ての科目で相当な数のケースを経験し、そして、ライターからなかなか終了の判子がもらえないため、技工はもちろん深夜遅くまで清書を引っ張り出しケースレポートを作成していた覚えが有ります。卒直後開業という強者までいました。決して彼のレベルは低くは無かったので皆応援した記憶があります。かつてあちこちの学会やセミナーでよく出会ったのですが、30年以上経った今でも神奈川で非常に盛業な素晴らしい臨床をしています。そういえば思い出しましたが、登院実習時ライターに突然、関係ないかもしれないけど矯正マルチループを曲げる練習を10本してと言われ、徹夜で朝まで泣きが入ったのも学生時代の良い思い出です。クラウンブリッジのケース、あと、4ケース今週中に仕上げるんだけどなぁ、、と(笑)。
もう何処でも、そんな経験は無い歯科医師が新規大量生産されているんでしょうか。。。そりゃ話が合いませんね。

kuma さんのコメント...

余談ですが、ちなみに私は、卒後すぐに勤務した院長と1年後診療内容で大げんかしました。その治療は全くもって理解出来ませんと。するとその院長は、「今までこうやって来ているのはウチのやり方だ!」。私はその日の朝に退職して勝手に帰って来ました。今から考えると卒後1年の若造がと思いますが、そんな若い先生は今では皆無でしょうね。私は単に若気の至りかと(笑)。