2024年8月11日日曜日

矯正治療のゴール アライナー矯正が認められるためには

舌側面観が重要となる







上記二症例とも小臼歯の咬合が甘い、合格は厳しい?




多くの医療では、治療の最終目的があり、それに達するように治療をしていく。ただ治療のゴールというと、ある程度の幅があり、全て同じゴールということはない。例えば、がんの治療の最終的なゴールは寛解ということになるが、もちろん手術に伴う傷跡あるいは傷の引きつりなど、さまざまな問題は残り、がんになる前の状態に完全になることはできないし、それほど問題視しない。また形成外科においても、豊胸手術のゴールはなく、患者の希望によって決められる。

 

こうした点では、矯正治療のゴールはただ一点だけで、良好なオーバジェット、オーババイト(約2mm,大臼歯関係、緊密な咬合、正中の一致、良好な顔貌、などである。全ての不正咬合の最終目標はここなので、以前、2010年度に開始した症例の治療終了時の写真をまとめたことがあるが、全て同じ咬合状態であった。もちろん多少は正中がずれていたり、オーバーバイトやオーバージェットが大きい症例もあるが、概ね同じである。

 

こうした歯科矯正の特殊事情により、日本矯正歯科学会の認定医や専門医(臨床指導医)の試験も、理想咬合を100点として、そこから減点方式をとる。これを厳しくするとほぼ100点でなければ、合格させないということになる。もう二十年前のことなので時効であるが、当時の専門医試験では、二人1組で審査を行い、大体5−7人の先生の審査を行うが、合格者は通常その半分くらいであった。お亡くなりになった東京の近藤悦子先生は厳しく、合格者0ということも珍しくなかった。最終的な合格率は30%程度で、この種の矯正歯科の専門医試験では世界でも最も難しい試験となった。

 

まずオーバージェット、オーバーバイトが一例でも理想的になっていなければ、不合格だが、これはほとんどの症例で問題ない。問題は緊密な咬合関係が達成されているかという点であり、審査では模型を舌側から見て、大臼歯、小臼歯がきちんと噛んでいるかを調べる。抜歯ケースでは上顎第二小臼歯の舌側咬頭が下顎第二小臼歯の窩にきちんと噛んでいるか、第一大臼歯、第二大臼歯がどうか、という点が重要となる。認定医レベルではここが甘い症例でもOK であるが、専門医の試験ではここの咬合が甘いと不合格となる。そのため症例選択にあたってはここがきちんと噛んでいるかがキイとなる。さらに上顎前突では、トルクコントロールも厳しくチェックされる。唇側矯正でもツイードテクニックに近い仕上がりを求められる。

 

ここまで書いていて、こんな些細なことは無意味でアラ探しではないかと言われるかもしれないが、実際に提出される症例は、そこの医院で治療された最もいい症例であるので、他の症例はそれ以下という前提で審査する。自分が審査した症例で、かなり難しい症例をリンガル矯正で治療していて驚いたことがあるし、実際に10症例全てリンガル矯正で提出し、こうした厳しい審査に合格した先生もいる。リンガル矯正の方が舌側咬頭を噛ませやすいようだが、それにしてもすごい。これ以降、リンガルは難しいが、ほぼ唇側矯正と同じレベルの治療ができると思った。

 

現在、新しい専門医制度ができて、ここでの課題症例は7つか8つのカテゴリーから5つを選ぶというものである。インビザラインをしている先生の中には、インビザラインで治療した症例も専門医試験に使用させてほしいという声がある。ただ個人的には、唇側矯正でも合格率30%のレベル、緊密な咬合を重視した昔の専門医試験のレベルに、インビザラインでは無理ではないかと考えている。もしこれを完全に達成できていれば、これまで否定的であったインビザラインの治療についての考えを改めるつもりである。そもそもインビザラインをしている先生は治療前後、保定2年後の平行模型をとっているだろうか。デジタル印象はコンピュータで加工ができるために、審査には認められていない。インビザラインに対する否定的な学会や私のような昔ながらの臨床医に対して、YouTube で盛んに宣伝している先生は、是非、一度、日本矯正学会の専門医試験のカテゴリーにそった症例を学会の症例展示で発表してほしい。

 

日本矯正歯科学会、臨床指導医の課題症例は、1, Class I、2.Class II div1 high angle, 3. Class II div1 (Ext)4. Class III5. 過蓋咬合、6. 開咬、7. 早期治療、8. 顎変形症、唇顎口蓋裂、9.10. 術者の技能が十分示されているものの10症例であり、インビザラインのレッドダイヤモンドプロバイザーは年間1000症例以上、10年間で一万症例以上を治療しているわけであるので、これだけの症例数があれば、むしろ課題8を除いても、合格基準に達していないと、治療法自体に疑問が残る。是非、私の挑発に乗っていただく先生が現れ、矯正学会で展示してほしい。


*なぜ小臼歯の咬合を重視するかというと、小臼歯抜歯ケースではすでに4本の歯がなく、残りの4本の小臼歯が噛んでいないのであれば、形態機能的には8本の歯がなことになるからである。





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