2024年10月3日木曜日

始皇帝と中国人の国民性


「始皇帝 天下統一」というドラマを見ている。同じ時代を扱ったアニメ、映画として「キングダム」があるが、これは完全なフィクションなので、登場人物をいちいち調べることもしないが、ドラマ「始皇帝」に関してはほぼ司馬遷の「史記」に準じた内容になっている。これをじっくり見て、勉強すれば戦国時代の東洋史はまちがいない。昔、東北大学を受験する前日、部屋で同室の人と、いまさらジタバタしてもしょうがないということで、一緒に映画「ベンハー」を見たが、次の日の世界史の試験に同時代の問題が出て、大喜びした記憶がある。

 

司馬遷の史記については大学生の頃に一度、読破しようと平凡社の全3巻のものを購入したが、半分くらいでギブアップした記憶がある。歴史書でこれほど面白いものがないのは、単なる歴史でなく、本当に色々なエピソードが散りばめられているからであろう。人間ドラマである。あれだけ広い中国なので、いろんな人物がいる。

 

昨今、中国で日本人男子の殺害という痛ましい事件があり、中国政府による排日教育のせいであるとネット上で炎上している。さらに、あれだけネット規制が厳しい中国で、この事件を肯定するような酷い中傷をいまだに野放しになっていることも批判されている。酷い殺害状況に、よく幼い子供にこんな残酷なことができるなあと我々日本人からすれば思うが、中国の長い歴史を見れば、不思議でない。中国人はいいにつけわるいにつけ振幅の大きい国民なのである。

 

最近といっても1950年代の中国大躍進のことである。二千万人以上の人が犠牲になった大惨事である。飢えのためにジャガイモとサツマイモをいくつか盗み食いしたため、公社幹部で拷問され障がい者となり、1歳の子供は川に落とされ溺死させた。ある女の子はトウモロコシ一本を持ち去ったために指を一本切り落とされた。貴州省ではささない窃盗行為でも、手の指をキル、口を縫い合わせる、耳や踵に針金を通す、布を巻いて油を注ぎ逆さに吊るして火をつける、赤く焼いた火バサミを口に突っ込む、生き埋めするなど、前代未聞の残酷行為が行われた。こうしたことが普通の役人により全土で普通に行われた。今から60-70年前のことでそれほど古いことではないし、いまだに中国人はこうした状況は覚えている。毛沢東の命令に従って、その下、さらにその下、次第に命令は厳しくなり、役人も上の命令に従わないと、拷問されて、殺されることになる。ここでまた振幅の大きな中国人である。自分を犠牲にして飢えた人民を助ける義人が登場する。城関公社の崖日堅は、民衆が餓死するのを見るに忍びず、倉庫を開けて食料の飢えた民衆に配った。その結果、一切の職を解かれ、県や村を引きずりまわし、批判闘争にかけ、食事も与えられなかった。34歳で餓死した。張愷帆は1927年から革命に参加した古参幹部であったが、多くの民衆が餓死する現状を知ると、党中央部に強く抗議し、全国の倉庫に保存されている食料を病人や児童に供給するように提案した。結果、彼は党籍を剥奪され、副省長の職をとかれ、200日以上投獄された挙句、家族ともども鉱山に送られた。また甘粛省の鎮原県の県長、許国和は民衆の食料不足とそれによる困窮を知ると、食料買上げを中止したが、これが反革命行為として批判され、逮捕、家族も逮捕、6歳の息子は真冬に家を追い出され路頭に迷うという事態になった。そして周囲の人物も逮捕され、全県で1650人が獄に入り、333人が獄中で亡くなった。青海省の生産大長であった馬賢珍は多く隊員が餓死するようになると、隊に残っていた食料を公社員に分け与えた結果、彼を五年の監獄行きとなった。

 

とんでもない残酷な役人がいる一方、自分を犠牲にして抗議する役人もいるのが中国で、こうした振幅の幅は日本人に比べて中国人の方がはるかに大きい。日本は恵まれた自然と豊な土地に恵まれ、江戸時代を通じて長らく平和が続いた結果、温厚な民族となったのに比べて、中国はある意味、戦国時代からずっと戦乱であったともいえよう。自分の家族、親類、そして親しい友人しか信用しない国民性ができたのであろう。中国人ほど現世主義者はなく、多くの人にとって、極楽、地獄という観念、あるいは悪いことをすれば神に裁かれるという意識はなく、そのためには金儲けをして、豊な暮らしをするのが一番と考える。まあこうした考えは日本人だって一般的であるだろうが、ただどこかに金だけでなく、他の人の役に立ちたい、いわゆる善行をしたいという気持ちはある。これは平和で余裕があってのもので、戦国時代からずっと、そんな呑気なことを言いていられない中国世界では、今でも日本以上の弱肉強食の社会なのだろう。

 

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