医科の中には眼科、皮膚科、整形外科のようの分野別の専門医制度があり、筆記試験や症例数などにより専門医の資格を取る。同じようなことが歯科でもあり、口腔外科や矯正歯科などの専門医制度がある。元々は各学会で専門医制度を立ち上げたが、国民により信頼される制度として第三者機関、歯科では日本歯科専門医機構が審査を行い、これに合格すれば専門医を名称できる。
現在、歯科では口腔外科、歯周病、小児歯科、歯科麻酔、歯科放射線、補綴歯科、矯正歯科、歯科保存の8つの専門医があり、原則的にはこの8分野については、看板やホームページで資格を載せることができる。逆にいえば、これ以外の学会名を冠した名称、例えば矯正歯科学会でいえば、日本矯正歯科学会、認定医というのは原則的にはダメで、日本歯科専門医機構、矯正歯科専門医はOKなのである。現在、矯正歯科専門医の数は201名で、残念ながら青森県にはいない。私は症例審査、筆記試験など全ての試験に合格したもが、日本歯科専門医機構の共通研修というビデオを見ることをしなかったために取れていない。共通研修というのは、まず受講の申し込みをしてから、受講料を銀行振込するのだが、ネットからカードで支払ったと勘違いし、受講できなかった。今年で閉院するので、もういいやと思っていたが、こちらで世話になった先生がこの日本歯科専門医機構の矯正歯科担当の理事で、矯正歯科の専門医が都市部に集中して地方にいないと言っていたので、遅ればせながら再チャレンジして結果待ちの状態である。
実際に東北地方の矯正歯科専門医を見てみると、青森県は0、岩手県は2名、秋田県は0、山形県は1名、秋田県は0、宮城県は3名しかいない。大学の教授は研修機関長とて自動的に専門医になるために、現状では東北の開業医で矯正歯科専門医を持つのは4名しかいないことになる。今後、日本矯正歯科学会の認定医が2833名おり、専門医の試験はかっての臨床指導医の試験より簡単となるために、随時増加していくと思われるが、それにしても現状では、特に東北地方では極めて少ない。
矯正歯科学会では矯正治療をするなら矯正歯科専門医でしなさいというが、実際、青森県には矯正歯科専門医が一名もいないので、治療できないことになる。それでは認定医というと、弘前市は私を除くと3名、青森市は1名に(引退して子供が継承)、八戸市は2名、他には三沢市に1名、むつ市に1名となっているがこれは間違い。弘前市はまだ恵まれているが、青森市は1名で、木金土曜日の週3日のみの営業なので患者数は限られる。
こうした状況では、必然的に専門医のところで矯正治療を受けるのは難しく、近くの一般歯科で矯正治療を受けることになる。そうしたこともあり鹿児島大学病院にいたときは、開業医の矯正歯科治療のレベルを上げる目的で、大学主催のマルチブラケット装置の講習会をしたり、開業医の研修医を増やしたり、あるいは症例相談を受けたりしたが、結局は矯正歯科ではフルタイムでの3年以上の研修は最低限必要で、一般歯科医に一生懸命教えても無理だということになった。30年前まではこうしたマルチブラケット装置の講習会も多く行われたが、月に1回、2年間の講習会をしても、ほとんど実際の臨床に使えない。そのため、最近ではマウスピース矯正の講習会ばかり増えて、マルチブラケット装置に講習会はほとんどなくなった。実際の矯正専門医の治療の主体、90%はマルチブラケット装置による治療なのに、今の若い一般歯科の先生は全くマルチブラケット治療ができず、聞き齧ったマウスピース矯正だけしかせず、結果は以前より酷いことになっている。
歯科矯正治療の進歩は、あくまで手技の簡素化、汎用化であり、AIの進歩で誰でも簡単に診断はできそうである。一方、手技としては、例えば、AI診断で“この”上顎前突の患者の治療法は、1。外科矯正を併用した方法、2。小臼歯抜歯、アンカースクリューを併用した方法“となったとしよう。現時点でのAI判断ではマウスピース矯正は無理で、マルチブラケット装置による治療となるが、治療そのものがAIでするのはまだ無理である。個人的には今後もマルチブラケット装置による治療ができない限りまともな矯正治療はできず、AIを用いてどのように教育していくかも重要なこととなろう。残念ながらマウスピース矯正がマルチブラケット矯正治療を凌駕する可能性はかなり少なく、まだまだレベルの高い治療結果を誰にでもできる状況には達しておらず、AIが進歩したとしても今の状況は続きそうである。