拡大矯正治療については、小児の上顎骨の劣成長による交差咬合のついては適用となっており、上顎を横に広げて噛み合わせを治す治療は行われる。小児期であれば、上顎骨の正中口蓋縫合がまだ閉鎖していないので、それを急速に拡大することで、そこに新たに骨ができる。ただ症例はそれほど多くない。
今日、日本で行われている拡大矯正歯科治療は、交差咬合の改善というよりは叢生、歯の凸凹を改善する方法と用いられている。上顎を横に広げることで場所を作り、足りないスペースを作るというもので、上顎が広くなれば下顎も自然に広くなるという理論に基づく。下の歯列についてはポーター型の拡大装置でゆっくりと拡大する方法が取られている。ところが世界ではどうかというと、最近は訴訟、歯科医師資格の剥奪など物騒なことが起こっており、少し下火になっている。ただこうした物騒なことはどこも伝えていないので、このブログで少し伝えたい。
1.ミュー親子の歯科医師資格の剥奪
イギリスのJohn Mewは、自然成長誘導法という独特な治療法を提唱し、日本には何度か来日して講演している。バイオブロックや口腔習癖指導により口腔の機能を改善し、健康な歯列に持っていくというもので、日本では小児歯科、一般歯科医で人気があり、研究会があるほどだ。歯科矯正雑誌にも講習会の案内や、その理論などが特集されていた。ところがその経歴みると、2017年に不適切な広告活動と患者の守秘義務違反で、2017年にイギリスの歯科医師会から歯科医師資格を剥奪されている。科学的根拠は乏しいとイギリス矯正歯科学会から完全に異端視された結果である。息子のMike MewもMewingという顎をシャープにいう治療法を提唱し、父親と同じく2024年に歯科医師免許を剥奪されている。息子の場合は実際に患者に不適切な治療によるダメージを与えたことによる。親子二代にわたり歯科医師免許を剥奪されたわけである。日本に来日して講習会をしていたのは確か2017年以降であり、主催者は歯科医師資格を剥奪された先生を講師として呼んだことになるし、そのことは一切レポートしていない、これは問題である。私も今回初めて知った。
2.AGGA装置による拡大治療に対する集団訴訟
AGGAとはAdvanced Crozat and Goshgarian Applianceと呼ばれる装置で、基本的な古典的な拡大装置を組み合わせた治療法である。特に新しい治療法ではないがアメリカで一万人以上に使われた。この中で、成人に使い、歯根の露出や歯の動揺が起こった患者が集団訴訟を起こし、現在、訴訟中で、FDAによる刑事捜査も開始されている。2024-25年にかけて被害者を集めて大規模な巨額損害賠償を求めている。法律家の意見としては、典型的な欠陥製品による健康被害として大規模な(数十から数百億円)の和解金で解決するだろうと予想知っていて、さらに導入歯科クリニックにも医療過誤責任が追求される恐れもある。
3.気道拡大を謳った過剰治療への訴訟
アメリカ、カナダで2021年頃から訴訟が始まりました。この問題はAGGA装置による訴訟と関連するが、さらに科学的根拠不足という点だけでなく、医科の分野への治療として無資格診断でも問題になっている。
日本矯正歯科学会でも、デコボコを治すための拡大矯正治療は基本的には根拠が乏しいとして否定している。上顎については急速拡大装置などにより骨格性変化を起こしスペースの拡大に繋がるが、下顎については骨格性の変化は起こせず、側方への拡大は主として歯の傾斜によるもので、後戻りが強いとしている。でこぼこに対する治療としては、歯を抜いてその隙間を利用してデコボコを治す抜歯治療法と、歯列を拡大、前、横に広げて隙間を作る非抜歯治療法に分かれる。ここに口唇の突出度、上の前歯が前に出ていて、口が閉じられない、が関係して抜歯、非抜歯が決められる。
口元の突出度は審美性にも関連するので、非抜歯治療をする先生は、この点にはあまり気にしていない。患者の口元が出ている、あるいは検査の数値上、日本人の平均を超えても気にするなという。一方、矯正専門医の多くは口元が出ているのが気になるため、その改善を患者に積極的に説明する。結果として矯正歯科専門医は抜歯治療を、一般歯科医は非抜歯治療をすることになる。問題は成人患者で、拡大装置による無理な非抜歯治療をして、結果的に口元が突出しても文句は言えない。抜歯して再治療してほしいと言っても、先生によっては、私の主義、健康な歯は抜かない、でそうしたことはできない、どうしても治したいなら他のところで行ってくれと言われる。
個人的な感触で言えば、成人の矯正治療では、凸凹の改善+口元を引っ込めたい という要望が多いため、70-80%で小臼歯の抜歯が必要となる。それ故、非抜歯、拡大矯正治療を受けた時点で、ほぼ失敗といえよう。少なくとも、非抜歯治療で口元の突出感が残っている場合は、小臼歯抜歯での治療に切り替えて治療できるかは最初に先生に確認すべきである。ボーダラインのケースでは一度非抜歯で治療してみて、途中で抜歯に切り替えるという症例はままある。


0 件のコメント:
コメントを投稿