2012年4月23日月曜日

矯正専門医の抜歯・非抜歯2

 前回のブログで、日本の矯正歯科専門医の抜歯率は大体50-60%くらいだと述べた。私が鹿児島大学にいた30年前は多分90%近かったが、ずいぶん非抜歯の症例も増えた。
 私のところでも以前は抜歯していたケースでも何とか非抜歯にできるようになり、抜歯率は減少した。ひとつはマルチループ法、あるいはそれに準拠したゴムメタル法により反対咬合、開咬は非抜歯を選択することが多い。上記の方法によって、ゴムにより下顎歯列をかなり量、遠心に移動することができる。また上顎前突では、機能的矯正装置による下顎の成長促進やペンデユラム装置による上顎大臼歯の遠心移動で、非抜歯にできる。同様に叢生でも大臼歯の遠心移動による上顎切歯をあまり唇側に傾斜させることなく、非抜歯で改善することもできる。さらに矯正用インプラントを積極的に使用することで、非抜歯の治療を広げることも可能である。

 昨今の新技術を活用することで、以前に比べて非抜歯の頻度は増加したように思える。ただし、それでも非抜歯率は40-50%であり、半数以上は抜歯をしなくては直らない。さらに言うなら、口唇の突出感の完全に改善するとなると抜歯率はさらに上がるであろう。
先日、春の歯科検診で某中学校に行ってきた。以前に比べてう蝕は確実に減っており、昔はう蝕のない生徒はクラスで1人いるかどうかであったが、今や1/3くらいはう蝕がない。これでは歯科もきびしいなあと感じるが、郡部の中学校でも矯正装置が入っている生徒を何人か見かける。矯正治療が普及してきていてうれしいことである。ただ内容は実にお粗末で、これでは直らない。

 こういった多くの症例をみると、非抜歯でマルチブラケット装置が入っている。それもただワイヤーを入れて並べたとしか思えないもので、根本的な診断が間違っている。先に述べたように、現在の非抜歯治療を最新の矯正技術によるもので、そういった技術を使わなければ、非抜歯率は10-20%ということになろう。日本矯正歯科学会の専門医試験も主として抜歯症例を審査しているが、要は抜歯症例をきちんと治療できなければ、非抜歯症例も治療できないということである。ワイヤーを入れ、並べただけで直る症例などほとんどないと言えよう。

 それでは何故一般歯科医ではあれほど非抜歯治療を行うかというと、ひとつは抜歯治療ができないこと、あるいは抜歯してしまうと不可逆的なものになってしまうこと、あるいは単純に歯を抜きたくないという想いによるものであろう。ただこれだけは強調したいが、これらの先生は何も金儲けのために矯正治療しているわけではなく、口腔管理している患者さんからどうしても矯正治療をしてくれと頼まれると、矯正専門医に紹介すると高いため、出来るだけ患者さんの負担を減らそうと格安の治療費で治療を行っているケースがほとんどである。昔、ブラケット1100円でやっていた先生がいたが、どう考えても材料費にも及ばず、なかなか治らないと大学病院に来た患者さんの両親ともこれでは前医を責められないねと苦笑いした記憶がある。

 こういった患者さんがセカンドオピニオンを求めて来院されることがあるが、よほどのことがない限りは、元の歯科医院での継続治療を勧める。治療をする場合は、必ず前医の承諾を得て転医する。これが原則である。それ故、先の100円ブラケットのケースも患者さんから前医に連絡し、前医から大学病院に紹介が来た時点から治療を開始した。矯正治療の場合は、さらに料金の清算がこれに入るため、複雑となる。矯正治療の料金体系は請負制のため、本来なら治療の進行度合いによって料金を清算し、転医先も治療の進行程度から料金を減額する。ただ一般歯科では、請負制をとるところは少なく、装置ごとの料金をとっているため、清算は望めないし、こういった治療上に問題のあるケースでは転医先でも治療の進行はないと見なされ、料金の減額もない。それ故、検査費、治療費をすでに支払ったケースでは、返金の可能性も少ないため、治療の継続を勧めることもある。

 どこで治療するかは患者の勝手と考えかもしれないが、前医に無断で治療すると患者さんを奪ったと怒られることもあり、私のところでは面倒であるが患者さんから前医の承諾を得て初めて治療を開始する。ただこれはあくまで治療中の患者であり、昔治療を受けたが、もう何年も行っていないという場合は、完全に新患扱いで問題ない。治療中、とくにマルチブラケット装置による治療の場合が問題となるため、本格矯正を行う場合はどこで治療するかは、じっくりと検討した方がよい。不満があっても治療途中で先生を換えるのは難しく、治らなくても結局は最後まで治療し続けるしかない。

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