矯正歯科の院内感染対策は、一般歯科とは若干異なります。抜歯などの観血処置がないため、処置自体に滅菌環境が必要ありません。患者さん同士、患者さんとドクター、ドクターから患者さんなどの交差感染が主体となります。
当然、矯正治療に使われるプライヤーなどは処置ごとに滅菌されたものが使いますが、それ以外のワイヤーやブラケットなどの矯正器材は滅菌されていません。これらは使い捨てなので他の患者に感染させないからです。以前のブログ、「傷はぜったいに消毒するな」でも述べましたが、夏井睦先生の意見によると、本質的に無菌でない部位、組織(口腔内は肛門同様に非常に汚い場所です)では、使いまわされる器具、材料は滅菌が必要、使い回さない器具、材料について滅菌は必ずしも必要でないとなっています。この基準に沿って院内の感染対策を考えています。
矯正用のプライヤーのうち、刃物類、ピンカッター、エンドカッターは非常に高価なため、当院では滅菌装置としてはDentoronix(USA)のDDS5000という乾熱滅菌器を使っています。200度以上の高温で滅菌します。プライヤーをラックに入れたまま、超音波洗浄機、滅菌器にそのまま移動でき、大変便利なもので、三沢の米軍基地でもこれを使っていました。オートクレーブは刃先を傷つけやすいので、こちらの方が刃物類の滅菌には適しています。ただハンドピース、エンジンでは、内部のゴムが焼けるために使えません。他の器材は薬液消毒(ディスオーパー)で何とかできますが、アルコール綿で表面を拭くだけでは消毒になっていません。
今回の歯科用タービン問題をきっかけにもう一度、院内の感染対策を検討しました。一般的なオートクレーブを購入する場合、滅菌時間が1時間以上かかるため、最大で一日で2回転しかできず、多くのタービンが必要となります。タービン用の小型のオートクレーブは、専用機種なので他の矯正器具の滅菌はできません。そこで以前から気になっていたカナダのScicanという会社のStatimという7分で滅菌できる製品を検討いたしました。
短時間小型オートクレーブでは世界で最も売れている商品でこれまで20万台が売られています。機種には20年前から出ているStatim 2000と5000、それと最近でたG4 2000と5000があります。他にも超小型の900という機種もあります。G4は滅菌記録をインターネットで送信できるようになっています。ヨーロッパでは滅菌記録を提出する義務があるようです。日本ではこういった法律はないので、旧型でも十分です。性能自体は両者とも同じです。2000と5000ではカセットの容量がだいぶ違い、5000は2000の倍くらいになっています。5000ではかなり大量の器具の滅菌ができるので、多くの歯科医院ではこれを使っています。私のところでは乾熱滅菌がメインで、オートクレーブの対象はハンドピース、エンジン、そして急いでいるときの器具の滅菌ですので、2000にすることにしました。
本日、このStatim2000が届きました。代理店は歯科通販で有名なFEEDですが、この商品に限っては歯科材料店経由となります。値引きはほとんどなく、蒸留器がおまけについていますが、これが大きく、場所をとります。また蒸留水を作るには6時間かかり、部屋がむっとします。カセットにハンドピースを並べると、裸のままであれば10本くらい、滅菌袋に2本入れると6〜8本、1本だと3本くらいが7分で滅菌できます。ただ袋に入れると、乾燥時間がかかるため、裸のままの方がいいかもしれません。予備のカセットも買いましたので、前の患者でハンドピースを使ったら、その治療時間を利用して次の患者さんの器材の滅菌ができるわけです。滅菌性能は、最も感染しやすい眼科領域でも使われているため、全く問題ないと思います。
ジェットウォシャーという93度の高温水で10分以上洗浄できる機械があります。ドイツのミーレのものが最も定評があり、芽胞細菌を除く、高水準の消毒がこれでできます。矯正治療のような観血処置のない分野ではこれで十分ですが、代理店の白水貿易の方に診療所を見てもらったところ、水圧不足で設置できないとのことでした。残念です。
Statimという機種もそうですが、アメリカ、これはカナダですが、同じ機種をしつこく生産します。20年の間に内部は改良されていると思いますが、信頼性と安全性を重視した結果なのでしょう。故障は少ないでしょうし、パーツも十分にあると思います。使用した感想はまたの機会に述べます。
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