2016年11月25日金曜日

ズムウェルト級駆逐艦とモニター装甲艦




 自分でも驚くのは、乱読という癖であろう。本好きな人は多いが、私の場合は“君の名は”から“虚空の守護神 ゴールキーパー進化論”まで、すべてのジャンルに興味がある。本棚を見れば、精神的におかしいと思われるほど種々雑多な本で埋め尽くされている。

 例えば、最近買った“軍艦と装甲 主力艦の戦いに見る装甲の本質”(新見志郎著、光人社NF文庫、2016)は、木製汽船に鉄板を貼った黎明期の装甲艦から大和までの、攻撃と防御、矛と盾のうち、軍艦の防御、盾の歴史を語ったもので、面白かった。

 南北戦争当時、弾丸は丸いもので、木製の外板に10cmほどの鉄装甲を付けるだけで、ほぼすべての攻撃が防御できた。弾が当たっても外板がガーンと響くだけで、内部はほとんどダメージがなく、戦闘艦同士の海戦でもおたがい100発近くの弾丸を浴びても勝敗はつかない。その後、砲弾の進歩により矛の部分の威力は増したものの、装甲の発達に伴い、大口径の砲に対しては、より装甲を強固にすることで対処してきた。その最終計が戦艦大和であったが、この時代になると航空戦力の発達によりもはや装甲が役に立たなくなり、戦艦の終焉を迎えた。

 現在の戦闘艦といえば、装甲はぺらぺらでほとんど防護機能をもっておらず、対艦ミサイルに対して、それを撃ち落とす防御用ミサイルで対抗し、船体そのものの防御能力はない。アメリカ海軍の最新鋭戦闘艦に“ズムウォルト級”が完成したが、まるで潜水艦のような奇妙な形をしており、「軍艦と装甲」に載っているモニター級装甲艦(1862年)とそっくりである。南北戦争での湾岸部、河川で使われた戦闘艦で、吃水は低く、とても外洋では運行できないような形である。最新のズムウォルト級は先祖帰りしたような形態であり、表面の特殊な処理をしており、形状とともに高いステルス性をもっている。

 「軍艦と装甲」の著者のあとがきでは、装甲艦時代においてもバラストで海水を入れ、吃水を下げて攻撃面積を減らそうとするものがあったようで、ズムウォルト級も潜航できれば、飽和的に来るミサイルに対して、デコイを撒けば、ほぼ攻撃はかわせるとしている。確かにステルス形態とともに、煙突のごく一部を海面上に残すくらいの浅い潜航でも十分にミサイル攻撃はかわせるし、さらにこの艦は将来、レールガンが搭載されるといわれている。レールガンとはリニアモーターの原理を応用して、音速の数倍の弾丸を200km以上の範囲で打ち出すという革命的な技術で、1分間に10発以上の弾丸を発射でき、1発当たりの単価もミサイルの数十分の一となる。今騒がれている、中国軍による飽和的ミサイル攻撃もこれによって対処できるし、さらに北朝鮮による核ミサイル攻撃に対しても、撃墜できる確率は飛躍的に高まる。

 こうして見ると、レールガンを搭載したズムウォルト級は、かっての装甲艦と同じような、矛に勝つ盾の時代を到来となるかもしれない。レールガンを日本全土に配置し、周りの海にレールガンを搭載したステルス性の高い戦闘艦、原子力潜水艦、B35などのステルス戦闘機を配備すれば、ICBMなどによる核攻撃や外的に対する高い防御性を持つ。

 ペリー来航、たった四隻の軍艦により江戸幕府が屈服したのは、来航前の情報で、江戸湾防御の三十三ポンド以上の砲が全部で三十二門、それ対してペリー艦隊の砲は六十三門、移動砲台になる軍艦に対して江戸最大の砲台である千代ヶ崎砲台でも三十三ポンド以上の砲が五門しかなくなかったことによる。こうした圧倒的な軍事力の前にペリー来航の前に幕府は開国を決意した(“日本開国 アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由”渡辺惣樹著)。この砲はペクサン砲と言われ、ペリー艦隊は10インチのものを装備した。逆に幕府がより口径の大きいペクサン胞を砲台に多数設置しておれば、その情報はアメリカ政府にも伝わり、ペリー来航もなかったろう。

 軍備とは、戦争だけでなく、こうした外交面での政策にも関わり、アメリカ国防省はレールガンを戦争の様相を決定的に変える“ゲームチェンジャー”とするのは位置づけており、日本政府でも開発を始めたのは正しい。近代戦は膨大な費用を要し、兵器の価格高騰は、戦争の趨勢を決める。砲弾<ミサイルの価格差は、そのままレールガン砲弾<核弾頭ミサイル<ミサイル防衛システムに繋がり、今後の核保有を根底から覆す可能性を持つ。

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