2017年2月2日木曜日

矯正歯科における感染予防対策

左は短時間オートクレーブ、右は乾熱滅菌器
(三沢米軍基地の歯科診療所を参考にしました)

アメリカのA-decの歯科用ユニット、水はすべてボトルから供給されます
(これも三沢基地はじめ、多くの米軍基地で使われています)


 35年ほど前、大学の外来長をしていた時に、教授の命令で、診療科の感染予防対策を立てたことがあった。当時から鹿児島大学矯正歯科では全国の矯正科に先駆け、矯正用プライヤーの滅菌など、かなり感染予防対策をしていたが、もっと徹底的な対策を押し進めようとしたものだった。結論からすれば、オペ室のようなシビアな感染予防対策は金銭的にも、器材的にもできないということになった。すなわち使用する器材が一つでも汚染されていれば、他のすべての器材が滅菌されていてもダメとなる。矯正器材の中には、例えば、印象材や接着剤などどうしても滅菌できないものもあり、また矯正治療そのものが観血的処置でないため、そこまで感染予防対策する必要はないことになった。

 ただ、どこまで感染予防するかの線引きは難しく、当時、多くの大学の矯正科では矯正用プライヤーをアルコール綿で拭くだけだったが、これでよいのかとなると疑問である。一つの指針として、「傷をぜったいに消毒するな」などの著書で有名な夏井睦先生は、「本質的に無菌の部位」について、“使いまわされる器具、材料”および“使いまわされない器具、材料”とも“滅菌が必要”。「本質的に無菌でない部位」については、“使いまわされる器具、材料”は“滅菌が必要”、使いまわされない器具、材料“は”滅菌は必ずしも必要でない“としている。

 矯正治療の対象は細菌だらけの口腔内であり、“本質的に無菌でない部位”に相当する。そのため、直接口腔内に入る“使いまわされる器具、器材”としては、矯正用プライヤー、タービン、エンジン、シリンジ、ミラー等の基本セット、口腔写真用ミラー、口角鉤、トレーなどは滅菌が必要である。一方、“使いまわされない器具、材料”としては、印象材、接着剤、矯正用ワイヤー、ゴム、ブラケット、結紮線は“滅菌は必ずしも必要ない”。

 当院では、こうした指針のもと、使い回される器具については、乾熱滅菌とオートクレーブで対処しており、それ以外はすべてディスポーザブル、使い捨てのものを極力使っている。バンドに関しては、試適したものについてはオートクレーブにかけて箱に入れている。もちろんうがい用のコップやエプロンは使い捨てのものを使用しているが、観血処置がないためにチェアー全体を包むようなカバーはしていないし、滅菌手袋を使っているわけではない。

 つまり矯正治療では口腔内からの出血はほとんどないことから、唾液が触れたものは滅菌あるいは使い捨てで対応し、前の患者の細菌を次の患者に移さない、水平感染をできるだけなくそうとしている。空気感染については、どうしようもないが、3台の空気洗浄機で気休めだが対処している。接触感染についてはどうしようもなく、前の患者さんが触ったものをすべて消毒、滅菌することはしていない。これをやりだすと、待合室のチェアーからドアの取手、患者さんが触れるもの、すべてカバーして使い捨てにする必要がでていくる。これは感染患者の多い病院でも難しい。

 以前は、矯正歯科ではタービン、エンジンの使用はほとんどなかったため、これらの滅菌は行っていなかったが、Statim2000という短時間で滅菌できる装置を購入してからが、数を揃えて何とか対応できるようになった。またプラスチックでできた器具は薬液で消毒し、水道水で薄めて捨てていたが、これは廃液汚染に繋がるため、薬液消毒はほとんどやめて、できるだけオートクレーブ可能なものに変更した。また歯科用ユニット内での水の汚染については、アメリカで認められているA-DECの歯科用ユニットのボトル給水方式を使っている。歯科用ユニット内の配給水チューブには水が停滞し、そこに細菌バイオフィルムが形成されることがある。定期的に消毒剤をボトルに入れ、それを循環することで汚染を防いでいる。ボトル式の利点には機械の故障を少なくさせる。冬場、北国では水道凍結防止のために止水するが、解除する際に配管に錆が出てくる。数分流して使用してもタービンなどの詰まりを招くが、ボトル式ではこうした詰まりはほとんどなくなり、タービンの故障も減った。



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