かれこれ20年前だが、家を新築するときは、“モダンリビング”という建築、インテリア雑誌を1年以上購入して、最新の家具を研究した。たまに東京や大阪に行くと、CASA 、アクタスなど有名な家具屋や天童木工のショールームなど訪れ、椅子の実際の座り心地などを調べた。かなり家具通になり、いまだに知識は豊富な方である。そのため、地元に昔からある家具屋や格安店では満足できず、主として北欧の家具は東京で買おうと思っていた。ところが歯科医院からわずか20mのところにおしゃれな家具屋ができたので、そちらで色々と相談し、最終的にはほとんどの家具をここで購入した。店主のインテリアに対する知識は半端でなく、こちらも勉強になった。その後、この店は土手町に移り、ここでは家具だけでなく、ブナコや陶磁器も扱った。青山や六本木と変わらない高いレベルのインテリアショップで、宮崎椅子製作所の椅子を買った。こういっては失礼だが、田舎にはもったいないレベルの店であった。同様なことは、先日、百石町記念館で、刺し子、古布展示会があり、戦前の刺し子、古布を今風の洋服にパッチワークのようにリメイクしたものを販売していた。値段も高いが、かなりはおしゃれなもので、ニューヨークのセレクトショップに展示されていても全く違和感はないし、多分、高価でも売れるであろう。
こうした東京でも通用するような店や物があり、それを喜ぶ客もいるが、如何せん客が少なすぎて、商売にならない。開業する側からすれば、東京に負けない店を出したいという夢を持つし、またそれに賛同する人もいるのだろうが、実際、開業してみると、最初は興味のある客が多く来ても、次第に減っていく。例えば、ほとんど食材を自分で作っている、グルメの間では有名なイタリア料理店が弘前市にはあり、東京の味には決して負けないが、地元民には高すぎるので、あまり人気がない。それでも噂を聞きつけた県外からの客が多く、何とかもっている。おそらく東京に開業すれば、予約の取れない店のひとつになったと思うが、地方で開業するのは本当に大変である。
ハイセンス、モダンな店は東京のような大都市ではそれでもかなりの客数となるため商売としてやっていけるが、地方都市では興味を持つ客の絶対数が少なく、無理となる。”1970年以前のフェラーリー専門の中古店“を弘前に開業しても3か月で潰れるが、東京では商売として成り立つ。それ故、地方で新しいことをする場合は、まずパイを少しずつ増やし、さらにリピーター率を高めて、それでいて最小限の利益のみを確保する。フェラーリの例でいえば、毎年1台ずつ、5年で年間3台くらいさばけるまでにして、収益が200万円でよしとする商売であれば、何とかやれるのだろう。
地方でも商売の難しいのは、都会ではやっているからと取り入れても、もともとのパイが少なく、さらに競合店が増えると一軒当りのパイがさらに減り、経営が困難となる。鍛冶町にあるスナックなどの飲み屋は低落、もちろん個人経営の本屋、古書店、薬屋はほとんど姿を消している。それじゃ、大型店はどうかというと、ここも客は少ない。ゲームセンターも人はいないし、靴屋も厳しい。9割の店が閑散として、残り1割もそこそこという状況で、飲食店でも行列ができる店はほとんどない。いつ行ってもいっぱいというところは本当に少なく、あったとしても一時的である。逆に、うちもそうだが、あそこは何をやっているのか、お客さんが来ているのをみたことがないという店がある。案外、こうした店の方が長続きしているようで、つまり最小限の経費で、純益が出て、リピーター客がそこそこに多い商売が地方では向いている。
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