2019年9月4日水曜日

未来の地球 SF「三体」から



 お盆休み、どこも行くこともなく、家で本を読んでいた。「三体」(劉慈欣著、早川書房)、大部の作品であったが、面白く一気に読めた。内容については割愛するが、中国のSF史上金字塔となるものであるのは間違いなく、作品の規模の大きさは桁違いで、さらに後2巻あるようなので、楽しみである。

 この本の中では、異星人が地球を乗っ取ろうとするが、輸送機が地球に到達するまでの450年、地球が今の流れで急速な科学発展をすると、異星人が到着する頃には、それを阻止するだけの高度な科学発展を遂げている。そのために何とかこれ以上、地球の科学発展を阻止するために、最小単位である陽子に人工頭脳を入れる奇想天外のものを発明し、前もって光速で地球に送り込む。

 科学の発展には、ブレークスルーと停滞がある。ブレークスルーとは、これまでの概念とは全く異なる新たなもの、例えば、インターネットのようなものである。インターネットの概念は1960年代からあったが、1990年から2000年頃に一気に広まった。コンピューターや携帯電話でもそうであるが、概念と初期製品が出来てから、二十年くらいはそれこそ毎年、性能は2倍、価格は半額という急速な進歩が見られるが、その後は、停滞期となり、進歩の速度は鈍ってくる。

 船でいうと、もちろん年々新たな技術は開発されているが、タイタニック号ができた1910年頃から大きな進歩はない。タイタニック号が乗客乗員3200名、23ノットに対して。2010年に建造されたクインエリザベス号は2000名の乗客を23.7ノットで運ぶ。燃費や操船方法、レーダーなどの機器は雲泥の差があるが、それでもカタログ上の基本スペックからいえば、この100年間に大きな差はない。同様に1930年代のアメリカ車は十分に今でも使えるし、1935年初飛行のダグラスDC3はまだ少数ながら現役で飛んでいる。

 家の設備見ても電化製品以外では、床、壁、窓、屋根などの基本構造はここ数千年変わっておらず、もう少し上位の生活品、椅子、ベッド、机なども千年単位で変化していない。さらに電化製品を入れたものを見ると、テレビ、冷蔵庫、洗濯機なども発明されて数十年単位は経っている。逆にここ20年で、それまで概念もなかった新しいものといえば、コンピューターとインターネットくらいのものである。携帯電話そのものは電話の概念の延長である。それ以外は、概念、製品としては停滞したものと言えよう。

 衣料に至っては、人間が服を着るという概念自体、20003000年前からあり、ある意味、それほど変わっていないし、食にしても同じである。昔のSFでは、未来の食事は宇宙食のような液体あるいはペースト食になるように描かれていたが、何の事はない、あいも変わらず肉や魚を食い、むしろ以前より食のレパートリーは多くなった。

 こうしたことを見ると、スティーブ・ジョブスや山中伸弥さんのようなブレークスルーを作る人がなくなれば、人類の進歩はかなり緩やかなものになると思われる。人間がサルとは違うことの一つに創造的存在であることであり、世界中の情報を瞬時に見たいという欲求、想像がインターネットを生み出し、鳥のように空を飛びたい夢が飛行機を作った。ただこうした夢、想像がなくなった瞬間に、文明の発達は停止すると思われ、そうした意味では、癌の撲滅など一部の叶えない夢があるが、夢そのものがなくなる停滞期にそろそろ突入してきたのかもしれない。百年後の社会、それは今とあまり変化はないかもしれない。
  

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