2020年4月12日日曜日

新型コロナウイルス と歯科診療 3

 連日、弘前歯科医師会から新型コロナウイルスのファックスがくる。厚労省からの通達、連絡をそのまま流しているだけで、歯科医師会独自の解釈、説明はない。一番、笑ったのは日本歯科医師会のHPを見るとN-95マスクの再利用のことが挙げられていたので、開くと英文のかなり長い論文をそのまま掲載していた。忙しい最中、誰がこんな長い英文論文を読めるか。仲間内のメーリングリストやフェイスブックでこうした英文の論文を紹介するのはまだいいとしても、仮にも日本歯科医師会のHP、全国の歯科医に流す情報としてはあまりにお粗末である。厚労省からの通達をそのまま流すのでなく、金があるのだから、少なくとも日本語訳あるいは日本語の抄録を掲載すべきであり、こんなことからも日本歯科医師会の上層部のレベルが思い知らされる。

 さらにこうした通達の中に上記の医療従事者の暴露のリスク評価と対応表が載っていた。これを見ると、歯科医院にくる患者は治療中、必ずマスクを外すので、この表の“マスクを着用していない”ケースとなる。患者が新型コロナウイルスに感染していないかはわからないので、標準感染予防策の原則に従えばすべての患者は感染しているとする。また長時間接触とは数分以上とされているので、通常の歯科診療はほぼ長時間接触となる。したがって歯科診療はこの表の“マスクを着用していない新型コロナウイルス感染者と長時間の濃厚接触”とみなせる。

 通常の歯科医の感染防御は、サージカルマスク、手袋となるため、この表の中の”サージカルマスクは着用しているが眼の保護ない(注4)”になり、中リスクとなる。万が一、患者に感染者がいれば、14日の就業制限となる。さらにゴーグルなどの眼の保護を加えると“医療従事者のPPE:ガウンまたは手袋の着用なし(注3、4)”で、低リスクとなり、就業制限はないことになる。少し説明するとガウンをしていなくてもサージカルマスク+手袋+ゴーグルは”ガウンまたは手袋の着用なし“になり、サージカルマスク+手袋+ガウン+ゴーグルあるいはフェイスシールドが”すべて着用“となる。注3は体位変換など広範囲の身体的接触のあった場合は中リスクとあるが、歯科医師では関係ない。注4はエアロゾルが発生する場合は中リスクとなり、歯科医院の場合、タービン、超音波スケーラーの使用の場合にエアロゾルが発生する。つまりタービンを使う場合は、これ以上の防御策を講じるべきであり、N-95マスク(またはDS2など、それに準じるマスク)+手袋+ガウン+ゴーグルの使用を勧めている。

 この通達にはこうした意味があり、タービンを使った通常の歯科診療をするなら完全防護で診療をせよということになる。もちろん歯科用バキュームや口腔外バキュームによりタービンによるエアロゾルの発生はかなり抑えられるし、換気を良くすれば、かなり拡散する。それでもこの通達に従えば、通常の防護対策、サージカルマスク、手袋、ゴーグルだけで、タービンを使えば、もし無症状の感染者の治療をしたなら、14日間の就業制限が必要となる。もちろんこうしたことは歯科医のみならず。衛生士などの介保者にも適用されるため、タービンを使って通常通りに診療を行うためには、患者ごとにN-95マスク+手袋+ガウン+ゴーグルをして治療に当たらなくてはいけない。感染予防製品が欠乏してほとんど買えず、またタービンを使用しない歯科治療は難しい状況では、一方ではすべての患者は感染者とみなす標準感染予防策の徹底を唄いながら、歯科医院にくる患者は感染者でないと思えと言っているようなものである。

 歯科医院でタービンの使えない状況はかなり考えにくいことであり、仮に緊急性のある処置のみ診ると絞っても、歯が痛くなってくる患者には、歯髄処置が必要となり、タービンを使う。となるとこの通達は、完全防護できる体制の歯科医院以外は休診せよと言っているのに近い。実際に感染者の多い東京や横浜などの歯科医院では、こうした対応が取れないために休診するところも増えていると聞くが、休診する歯科医院が多くなった場合、歯の痛みのある緊急の患者はどこに行くのかという問題が生じる。当番医を決めて診療するにしても無防備では診療できない。地区の中心病院歯科、大学病院、市立病院歯科などで対応するにしても、そうした話し合いが歯科医師会とできているか疑問である。

 今のところ、あくまで個人的な見解だが、N-95マスク+ゴーグルあるいはフェイスガード+手袋+(ガウン)で診療すべきで、貴重なN-95マスクは5枚ほど用意して、汚れが目立つまで72時間以上経ってから使い回しで使用するのが良いように思える。雑菌は付くが、コロナウイルス自体は紙の上で3日しか生きられない。使い捨てガウンも同様に使いまわしてよい。従来の手術着は術者から患者への感染を配慮したものだが、今回はそうしたことは配慮する必要はない。

ただNー95マスクは全く買えない状況にある。上記の暴露リスクによればエアロゾル発生の環境でない場合は、サージカルマスクで十分であり、一般人が大量の購入したN-95マスクは是非とも医師会あるいは歯科医会に寄贈、あるいはサージカルマスクとの交換するようなシステムが欲しい。また歯科医師会には高い会費を払っているのだから、政府と交渉して、各歯科医院へ優先的にN-95マスク、フェイスガード、アルコール消毒液の配布を何とかできないだろうか。

 なお歯科医師会の通達より、補綴臨床の論文の方がよほど理解しやすので、一読を勧める。

https://www.ishiyaku.co.jp/pickup/20200225_info_01.aspx

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