2020年5月10日日曜日

NHK BSプレミアム 静かに咲く弘前公園の名桜





 昨日、NHK BSプレミアムで静かに咲く弘前公園の名桜“を見た。本当に綺麗な映像で、番組途中に何度も涙した。弘前公園閉鎖が決定した4月10日から急遽、番組制作を決定したのであろうから、製作者とって、それは大変であったろうと想像できる。約40分の番組の中には、ドローンを使った撮影あり、弘前出身のアナウンサー、副島萌生さんの解説あり、同じく弘前出身の画家、奈良美智さんのインタビューありで、内容豊富で、編集も加えれば、ギリギリの日程だったろう。

 民法と違いNHKでは番組作りにかなりの予算と人員、時間をかける。ブラタモリのような定番番組でも制作会議で決定されてから2ヶ月以上かかり、制作会議に提出する企画書作成を考えれば、もっと期間を要する。さらにファミリーヒストリーのような調査番組では、調査期間も入れれば半年以上はかかるだろう。それをたった1ヶ月で企画、予算、撮影、編集など大変ハードな日程であったろうし、とりわけ実際の制作を担当したNHK青森支局の努力には敬服する。さらに土曜日の午後1時半からの放送枠は既に決まっていたと思うが、それを変更して、この番組を無理やりねじ込んだのは、青森県、弘前市の熱意によるものであった思う。

 ただ映像を見ていると、ものすごく綺麗な景色で、まるで天国にいるようだが、一方、奈良さんは桜にとって大きな休息と言っていたが、こうした誰一人いない弘前公園は、むしろ梶井基次郎の“櫻の樹の下には屍体が埋まっている”という有名なフレーズを思い出した。桜が美しいのは、その樹の下に屍体が埋まっていて、その腐敗物が栄養になっているからで、美と醜のコントラストが印象的である。小説家の円地文子は弘前の桜を見て「花に酔わされた気分になったのははじめて」と言った。圧倒的にリッチに咲く弘前の桜には、こうした思いを引き起こすが、誰もいない公園の姿は逆に寂しさを通り越して、むしろ怖くなる。これほど美しいものの奥には醜があるという感覚だろうか。人間が圧倒的に美しい自然に一人対峙すると、もちろん美しいという感動があるが、その恐ろしさにむしろ逃げ出したくなる気持ちにもなる。やはり隣に人がいて、その美しさを共用することで安心できる。

 流石に番組宣伝する時間まではなかったため、視聴率はあまり出ないであろうし、見忘れた人も多かったと思う。確か523日頃にBSK放送で再放送されるようであるが、見逃した人は是非見てほしい。あとは弘前市とNHKの番組、映像使用の版権交渉があると思うが、観光館、美術館での使用だけでなく、海外への観光キャラバンなどにも利用できればいいので、出来るだけ幅広い活用を考えた版権交渉を行い、さらにできればYoutubeに配信してもらうように交渉して欲しい。テレビを見ない若者や海外に住む青森県出身者には故郷の美しい景色をyou-tubeを通じて見て欲しい。

 添付した動画は、弘前大学の裏にある緑地に咲く桜である。今年、開館予定の弘前レンガ倉庫美術館はもともと日本酒の製造工場であった。ここで使う電力は、弘前市紙漉沢にある水力発電所から、この緑地にある送電所を経て福島酒造工場に送られた。今は小さなレンガ小屋があるだけで、周りはたくさんの桜の木で覆われている。弘前公園の桜とは違い、ほとんど人の手が入っておらず、ひたすら上に上に伸びており、これほど高い桜の木の林は珍しい。いつも弘前公園とほぼ同じ時期に満開の季節となるため、ここ十年ほど毎年、散歩がてらに見に行くようにしている。中には入れないために門のところからの撮影であるが、それでも弘前市の隠れた桜の名所として近所の人からは楽しまれている。弘前公園と違い、高い位置に桜があるため、圧迫感は少なく、開放的である。ここはいつもの年も誰もいないので、今年も昨年も全く同じ表情で、嬉しい。

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