2020年9月5日土曜日

所得税と歳出

 



 前回の続きだが、明治20年、初めて所得税が始まった頃、300円以上の収入のある人が対象であった。明治20-30年ころの物価は、木村屋のあんぱんが1個、1銭、うどん、そばは2銭、カレーライスは5-7銭であった。一円は、今の2万円から3万円の価値となる。そうなると所得税を納める人の年収は600-900万円くらいとなる。300円以上の所得のある人の数は、全国で12万人、当時の人口、3900万人の約0.36%となる。詳しく見ると一等、3万円以上の所得のある人は東京で42名、最高は三菱財閥の岩崎弥太郎の長男、久弥で申告額は70万円となる。

 

 少し古いが2018度の所得者構成比で見ると900万円以上の所得のある人の割合は6.81%、明治時代、所得税は一家全体の収入にかかることから、今のように夫婦で共稼ぎの場合は、この比率はもっと高く、年収1000万円以上の世帯割合は平成12年で12%となっている。ちなみの2018年で見れば2500万円以上の割合が0.33%であるので、明治20年の300円以上の所得の人と同じような比率となる。

 

 明治23年の巡査の初任給は6円、小学校教員は5円、東京の大工の日当は50銭、日雇い人夫の日当が20銭くらいである。現在の警察官、教員の給与はボーナスも含めれば30万円くらい、大工の日当は13000円くらい、日雇いは最低賃金だとしても東京で8000円くらいである。給料から見ると一円の価値は4-5万円くらいと高くなる。これで換算すると、うどん2銭が1000円、カレーライス5銭は2500円とかなり高い。これまで明治20年の一円の価値は2-3万円くらいとされているが、むしろ今は大量生産により物の価値が全て下がっていると見ると、一円の価値はもっと高く45万円くらいと考えた方が良さそうである。明治の300円以上の所得のある人は今の1500万円以上の収入がある人だと見なされ、そうした人だけが所得税を払っていたことになる。多くの人々にとり税金はそれほど多くはなかったのではなかろうか。所得税は3円、高めの換算をしてもたった15万円しかなく、実収入は1485万円となる。現在では例えば1500万円の収入で、所得税が33%と地方税が10%の計44%で、収入の55%が本当の所得となり、825万円となる。1485万円稼ぐためには、今では3000万円近く稼ぐ必要がある。

 

 こうした税収の少なく財政的に厳しいのが明治の政府であった。日清、日露戦争など、軍備への支出が多かったが、社会保障費はほとんどなく、さらに文教費、公共事業費もかなり少ない。こうした歳入も少ないが歳出も少ない時代がかなり長く続き、明治20年の歳出が8000万円(今の4兆円)であったが、明治37年で2.8億円、さらに日露戦争で増え、明治44年には5.9億円、昭和に入り少しつつ増えたが、昭和12年で27.1億円となった。当時の一円の価値は今の2000円くらいなので、これでも5.4兆円くらいの財政規模であった。インフレを考えると明治20年とそれほど大きな変化はない。小さな国家であった。

 

 戦後になると、昭和23年の歳出は4620億円なので、一円は今の10-15円として換算すると6兆円くらいで、これも大きくはない。歳出が極端に大きくなったのは、昭和43年頃からで、昭和43年で5.9兆円、昭和53年には34.1兆円に、さらに昭和63年には61.5兆円に、そして平成26年には実に100.2兆円となった。昭和43年の物価は今の半分なので、当時の歳出5.9兆円は今に換算すると12兆円、まだ少ない方である。昭和63年の初任給は15万円、今は20万円くらいなので、1.3倍くらいになったとすれば、昭和63年の61.5兆円は今の80兆円くらいとなり、ほぼ今の水準となった。

 

 明治からの歳出の変化を見れば、昭和45年頃が、佐藤栄作から田中角栄の頃が、近代日本の大きな分岐点、すなわち小さな国家から大きな国家になったのだと思う。

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