2022年1月16日日曜日

Youtubeの矯正治療動画のアラ探し



台湾の留学生が土曜日に、矯正治療の見学に来ているので、治療の説明にためにYou-Tubeを見ることが多い。例えば、金属線で結紮する場合を見てみよう。私の場合、ホープライヤーで結紮することが多く、これにはかなりの修練が必要となる。0.010インチの結紮線でワイヤーとブラケットを結ぶのであるが、結紮線の端、34mmをプライヤーで挟み、クルクル回して縛っていく。

 

東北大学の小児歯科にいた時は、口蓋裂患者を主として診る合同外来で、矯正科の幸地先生から結紮法を習ったが、1年間では結局、できなかった。その後、鹿児島大学では教授の方針により、結紮線を使わないセルフライゲーションブラケットを使っていたために、ここでも一向に上達しなかった。結局、本格的に金属線を使って結紮するようになったのは開業後であるが、今でもそれほど早くはない。

 

こうしたこともあり、自分よりもっとうまい結紮をしている先生がいると思い、Youtubeで探してみたが、ホープライヤーで結紮している動画は結局なかった。多くの動画では、リガチャータイイングプライヤーやモジュールプライヤー、モスキートプライヤーで結紮している。これが今の主流なのかもしれないが、私が教育を受けた頃はホープライヤーで結紮するのがかっこよかった。さらに滅菌を必要とする基本セットは出来るだけ、プライヤーの数を減らしたいので、こうした結紮専用のプライヤーを1本増やしたくない。動画では衛生士、あるいは歯科助手に結紮線をさせているクリニックが多いのも気になった。個人的には、結紮線の締め具合は重要と思っている。

 

バンドの試適をする場合、歯の大きさに合わせてバンドサイズを選び、そしてプッシャーというプライヤーで合わせる。プッシャーは通常、順手で持ち、人差し指を添えて粘膜に突き刺さないようにする。ところが結構、このプッシャーをペンを持つ握り方でバンドを合わせている動画があり、驚いた。歯科衛生士あるいは助手が治療していたが、おそらく本人も歯科医も問題あると思っていないのだろう。他にもワイヤーをゴムで結紮する場合も専用の器具あるいはモジュールプライヤーで結紮しているが、逆手で持っているケースが多い。昔、矯正科の医局に入ったとき、逆手で治療していると先輩から怒られ、見つかると椅子を足でけられた。逆手で包丁を持つのは人を殺す時だけで、こうした繊細な器具を必ず包丁と同じく順手で持てとたしなめられた。

 

さらに今回、多くの動画を見て、一番気になったのは、ワイヤーの交換、結紮はほとんど衛生士あるいは歯科助手がしており、さらにブラケットの装着も先生がせず、ほとんどの作業に歯科医はタッチしない。私のところでは、ブラケットの装着はもちろん、ワイヤーを外し、調整、作製して装着まで全て一人でしており、歯科衛生士には一切タッチさせない。歯科医だった親父は、セメント練りから印象まで一人でしていたし、同じ歯科医の兄も治療はほとんど一人でしている。

 

確かに1日の患者がアメリカのように200名を超える矯正歯科医院では、こうした分業も必要だと思うが、日本で、1日の矯正患者数が200名を超えるところは大学病院も含めてほとんどなく、数が多いから助手、衛生士にさせているという論理はおかしい。また私のところでもマルチブラケット装着は上下で1時間とり、一日、最高で4件、装着したことがあり、さすがにその時はワイヤー装着を衛生士にさせた。マルチブラケット装着も衛生士にさせほど忙しいとなると、おそらく一日の装着件数が、10症例を超えるのだろうか。そんなことはあり得ず、単に歯科医が面倒臭がって、ブラケット装着をしないのであろう。ブラケットのポジショニングは治療の成否に決定的な影響を与え、これを他人にさせること自体が、矯正治療に対する軽視であるし、単純に考えて、ワイヤー交換はしない、バンディングもしない、装置の装着もしない、歯科医は何をしているのだろう。院長室でネットでも見ているのだろうか。患者もそれほど多くないのに不思議である。

 

まあこんなことにケチをつけるのは、じいさんになったということか。


上の動画はミシガン大学矯正科のものだが、20:00くらいからバンディングの説明をし、ペングリップでは滑って粘膜に大きな損傷を与えるので、絶対にするなという解説がある。下の動画は矯正用プライヤーの解説で、11:00からプッシャーの解説をし、なんとプッシャーを逆手でバンディングしている。いくら模型とはいえ、これはひどい。他にもペングリップ、逆手の持ち方の動画が多い。


歯科では、タービン、エンジン、ピンセット、ミラー、探針など、細かい作業をする器具はペングリップで、器具の太さもそれに合わせている。ついで、抜歯鉗子、ヘーベル、バキューム、ハサミ、そして矯正用プライヤーなど、力を入れながら細かい作業をするものは順手で、器具の太さも太い。歯科治療において逆手で扱う器具はないと思う。個人的には、クランプをかけるクランプフォーせプスあるいは後方から下顎大臼歯抜歯の抜歯鉗子では、逆手が許されるか。医科の手術においても、ほとんどはペングリップ、あるいは矯正治療でも使われるマチュー鉗子などは順手で扱うが、逆手はない。




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