2022年2月5日土曜日

外科的矯正の適用

 



最近も、歯科雑誌を見ていて、本来、外科的矯正の適用であったが、患者がどうしても手術をしたくないと、歯の移動だけでうまくに治したいという症例が載っていた。

 

上下の顎の大きくズレが大きく、歯の移動だけでは治らない外科的矯正の適用症例には、歯の移動だけでも治るし、手術を併用しても治る、いわゆるボーダラインが存在する。下顎が大きい反対咬合の場合、歯の移動で治しても、下顎が出ているのは治らず、口元、特に下唇が少し変化するだけである。逆に上下の顎がズレがあっても、標準値に比べてそれほど大きくなければ、仮に手術をして標準値まで下顎を後退しても顔貌に大きな変化はない。

 

私の場合、ウイッツの評価で外科矯正の適否を決めることが多い。上顎のA点、下顎のB点から咬合平面上に垂線を引いた線の距離をWits appraisalというが、反対咬合では、この距離が-10mmを超えると外科的矯正、—510mmをボーダラインとしている。なぜなら、上下の顎のズレが5mm以下では、手術をしても手術前後で顔貌の大きな変化はないからである。一方、上顎前突の場合では、同様に+10mm以上なら手術の適用、5〜10mmならボーダラインと考えて良いかもしれない。少し厄介なのは、中心位と中心咬合位が一致せず、そのズレが5mm以上ある場合である。多くは下顎骨が後方回転している症例だが、こうした場合、上顎の上方への移動も必要となり、上下顎同時移動術の適用、大掛かりな手術が必要となることだ。患者からすれば、いつも顎を前に出しているので、そんな手術が必要と感じないだろう。


正面からのズレも、上下の顎のズレが5mm以上あり、どちらかの大臼歯が交叉咬合となっていれば、手術の適用とする場合が多い。というのは、こうした症例では前後的にも5mm以上のズレがあることが大きく、複合で手術の適用となる。

 

外科的矯正を適用すると、ほぼ全てに不正咬合の治療が可能であるが、最近、初めて治療を勧めなかった症例がある。中心位と中心咬合位が5mm以上ズレ、ウイット評価で+10mmの上顎前突で下顎の後方回転を伴う。上顎の上方への5mmの移動と下顎骨の10mmの前方移動とオトガイ形成術を計画した。ただ左の下顎頭が吸収しており半分くらいしかない。こうした場合、手術した方が下顎頭の吸収を防ぐという意見と、逆に吸収を増加させるという二つの意見があり、迷った。大学病院へ紹介しようかといったが、結局、そこまでして治療したくないということになった。手術の適用となる上顎前突でも、本人はいつも顎を前に出しているケースも多く、外科的矯正を勧めても拒否されることがある。

 

日本人では、反対咬合で手術を希望する人が多いが、一方、上顎前突で手術を希望する人は少ない。矯正歯科医にとって、反対咬合については手術を勧め、受け入れてくれる患者も多く、楽であるが、上顎前突では本来、反対咬合と同数、手術をするケースがいるはずだが、なかなか勧めにくい。ことに中心咬合位と中心位のズレが大きい場合、当初の計画より治療中に下顎が後方に移動することになり、厳しい症例を無理に手術なしで治療開始した場合、さらに難しくなり、結果、満足な結果とならないことが多い。

 

最近では、積極的に上顎前突でも手術を勧めるようにしているが、どうしても下顎骨単独の移動のケースは少なく、上下顎同時移動術+オトガイ形成術の術式を選択することになり、大掛かりな手術となる。

 


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