2023年6月7日水曜日

アジアの中の日本

 



先日、東京都美術館にアンリー・マティス展を見に行った。ポンピドーセンターなどフランスの美術館の収蔵品を集めたものである。日本にも26のマティスの作品があるが、不思議なことにあれほど近年、経済成長をしている韓国、中国などアジア諸国にはマティスの作品はない。それどころか、ゴッホ、ルノアール、ゴーギャン、あるいはピカソなどの作品も日本には多くあるが、マティスと同じく韓国や中国の美術館にはない。もちろん、中国の大金持ちは一種の投機として有名作品を購入し、個人蔵としているが、それを博物館に寄付する段階までは行っていない。欧米のほとんど作品は、美術館自体が購入したものもあるが、多くは個人の寄付によるもので、日本を除く、韓国、中国では、こうした西洋絵画の収蔵、展示についてはかなり遅れている。

 

おそらく明治から大正の頃に、ヨーロッパを訪問した日本の金持ちが、当時、人気のあった印象派、キュビズムの作品を購入して、日本に持ち帰ったのだろう。こうした作品は今では市場価格が途方もなく上昇して美術館では購入できない金額になっている。明治、大正、すなわち19世紀後半から20世紀初頭にかけて、西洋絵画に関心のあるアジアの国は日本以外にはない。中国は辛亥革命などの混乱、韓国に至っては日本の植民地となっており、もちろんタイ、ベトナム、インドネシアでは、それどころではない。アジアでは最も早く、西洋化し、産業革命に伴うブロジョア階級が出現した国であった。ようやく中国の近代化、あるいは西洋化が始まったのは、1980年以降、韓国でも朝鮮戦争の終結した1953年以降であり、金持ちが西洋絵画をコレクションし、私設美術館を建てるようなことはできなかった。

 

これは一例であるが、音楽でも、ビートルズは、フィリッピンや香港などアジア公演をしているが、多くのロックバンドは日本以外の国には演奏しておらず、同様にクラシックにおいても名指揮者、名ピアニストの多くは日本で公演したが、韓国、中国では公演していない。音楽分野でも西洋化という面では日本はアジア圏では歴史が古く、圧倒的に強い。こうしたこともあり、最近でこそ韓国出身の音楽家やエンタテイナーが活躍しているが、その歴史は新しい。またスポーツにおいても、サッカー、野球、ラグビー、陸上、水泳、それこそあらゆるスポーツのアジアでの嚆矢は日本である。日本が最初にオリンピックに参加したのは1912年のストックホルム大会からであるが、韓国が参加したのは1948年のロンドンオリンピックから、中国は1984年のロサンジェルス大会からで、アジア初の陸上、水泳のメダルも日本が取ったと思う。さすがに文学では、インドのダコール、中国の魯迅という偉大な文学者がいるが、それでもノーベル文学賞という観点では日本には川端、大江の二人がいる。

 

日本はアジアの近代化、西洋化の最先端を走っていたのは間違いなく、その範囲は、あらゆる領域に含まれ、逆に言えば、日本以外のアジアの諸外国が初めてというものはほとんどないと言ってもよい。現在、日本のGDBは世界で3位、中国は世界で2位、韓国は13位、インドネシアが16位、台湾が21位、タイが27位、シンガポールが34位、マレーシアが36位、ベトナムが37位となっている。フィリッピンを除くと日本に近い国、戦前、日本が占領した国のGDBが高い。ちなみにアフリカでトップのGDBはアラブ首長国連邦で30位、南米のトップはメキシコの14位、コロンビアの44位となる。

 

さらに考えると、中国の近代化の始まり、辛亥革命などにも日本は影響力を示しており、同様に韓国、朝鮮王朝の崩壊については直接、日本が関与した。中国、韓国側からすれば、日本が両国の近代化を阻害したとするが、もし日本という国がなければ、東アジアあるいはアジアはどうなっていただろうか。おそらくアフリカまではいかないが、南米、中南米くらいだったのかもしれない。中国の清王朝は、領土のあちこちを欧米に植民地化され、朝鮮李王朝は、ロシアの領土となったであろう。さすがに第二次世界大戦後の民族運動の高まりに伴い、中国でも朝鮮でも独立運動が起こり、独立国となろう。ただ欧米人にとっては、白人の住まないアフリカ、アジアはあくまで搾取する場所であり、自分たちと経済的に競合するような国にはしないと思われ、今日のような中国、韓国の発展になったかは疑問である。

 

模倣するのは創作するよりよほど簡単で、この百年間、全て日本を模倣してきたアジア諸国は、ある意味、経済的には日本と肩を並べるようになったが、創作の難しさに直面する。すでに家電業界ではサムソンが松下など日本家電企業を追い越した時点から、ほとんど画期的な新製品を作れないまま、中国のハイアールに抜かれ、ここも既存製品の改良にとどまっている。これまで日本のコピーで成長してきたアジア諸国が、画期的なもの、シャネルのようなブランドを作るにはまだまだ難しい。


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