2023年11月8日水曜日

矯正歯科治療の健康保険化

 

 



前のブログで、日本でも各界から子供の不正咬合(18歳以下)に対する矯正歯科治療についての健康保険化を求める声が強く、また政府でもそうした方向で承認されている。あとは厚労省が予算化し、歯科医師会でも承認されれば、実際に矯正歯科治療を健康保険でできることになる。

 

今のところ全ての不正咬合について健康保険の適用にするのではなく、一部の重度の不正咬合について保険適用しようという考えで、これは野党、与党とも賛成している。実際にどのくらいの患者がいるのか、予算は、誰が治療するのかなどの実務的な問題が残っており、日本矯正歯科学会や日本小児歯科学会でもこれから議論されていくであろう。

 

今、叩き台として今回の日本矯正歯科学会でも発表されたのが、すでに保険適用されているイギリスの不正咬合の分類なので、これを提示する。

 

グレード1:問題なし

グレード2:マイナーな問題がある。少し歯並びを悪い、上顎前歯は少し前突しているなど

グレード3:不正咬合ではあるが、必ずしも矯正治療を必要としないもの。4mm以下のオープンバイト、4mm以下の前歯の前突、重なりが2mm以下の反対咬合など。

グレード4:よりシビアな状態、6mm以上の上顎前歯の前突、2mm以上の反対咬合、4mm以上のオープンバイト、機能的な問題を有する過蓋咬合、過剰歯を伴うケース

グレード5:とてもシビアなケース、シビアな叢生、数多くの欠損歯、9mm以上の上顎前突、-3.5mm以上の反対咬合、頭蓋顔面骨の形成異常を伴う症例、唇顎口蓋裂症例

 

このうちイギリスではグレード4と5が健康保険の対象となる。ただ実際の判定となると、重複しているものも多く、どの症例が保険適用となるかの区別が難しい。このためイギリスでは、矯正専門医がこの判定を多なっているが、保険による収入が低いため、多くの矯正歯科医は自費治療を重視している。

 

日本での実際の実施方法は、これまでの健康保険制度との整合性が重視される。まず保険点数については、これまでの口蓋裂、顎変形症のものがそのまま使えるので、問題はないが、おそらく小児に矯正治療の保険導入にあたってはかなりの点数が減点されるのは間違いない。矯正治療において、セファロ検査は必須であるので、セファロ、パントモは必須の検査機器となり、小児の矯正治療をするためには施設基準としてセファロが必要となろう。セファロがなければ、矯正治療ができないことになる。また実際のグレード4あるいは5の判定については、画像を送れば自動的に判定するようなシステムも構築できようが、これまでの厚労省のやり方では、歯科医の判断に任せることになろう。

 

一番の問題は、誰が治療するのかという点である。日本矯正歯科学会では矯正歯科医が治療すべきと考えているようだが、小児歯科医や一般歯科医から多くの反対が来るであろう。現在、口蓋裂の患者さんの矯正治療は、育成・更生医療を受けるためには日本矯正歯科学会の認定医でなくてはいけないが、3割負担であれば、施設基準を満たせばどの歯科医院でも治療を受けることができる。おそらくこれとの整合性からすれば、小児の矯正治療を矯正歯科医の独占にするのは難しく、一般歯科でも治療できる制度になるはずである。一部の矯正歯科医からは、小児の矯正治療が保険に導入され、一般歯科医で治療されるようになると、結果として治療レベルが低下すると危惧する声がある。確かにそうした危惧はわかるが、現実的にすでに多くの一般歯科医で矯正治療が行われており、さらに昔と違って矯正歯科医に患者を紹介するようなことも少なくなっている。保険適用といっても患者は病院を選ぶわけで、そうなると競争原理から結果として矯正専門医での治療を選択することになろう。さらにいうと、不正咬合の分類のグレード4、5のケースはかなり難しい症例で、最終的にはマルチブラケット装置と外科的矯正の知識と技術が必要となり、矯正歯科医でなくては治療できないことになる。

 

重度の不正咬合は、咀嚼機能などの機能障害を伴うだけでなく、社会心理的障害、簡単にいうと、歯並びが悪いために笑えない、積極的になれないなどの問題を有することがある。これまで高額な費用がかかり矯正治療を受けられなかった子供さんが、保険適用で治療が受けられようになれば本当に嬉しい。早期の実現を望んでいる。


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