2023年11月23日木曜日

矯正歯科医の引退

 



この11月から新規の患者さんはお断りしている。というのは2年後、70歳になる頃には引退したいと考えているからだ。弘前市内の歯科医も最近では、70歳くらいで引退する先生が多くなっている。私の父親は85歳くらいまで現役で歯科医をしていたが、次第に患者が少なくなり、歯科医院を開けているだけで赤字になってきたので、閉院し、引退した。その後、3年ほどで亡くなった。こうした姿を見ていると、死ぬまで仕事をするのはどうかなあと思い、また多くの知人の海外の矯正歯科医も早く引退して、リタイヤライフを堪能しているため、70歳くらいでの引退を考えていた。

 

アメリカの矯正歯科医の多くは、60歳くらいになると、もう一踏ん張り頑張り、患者数を増やして、若い矯正歯科医にできるだけ高額で売ろうとする。若い矯正歯科医も、早く収入を得たいので、全く新規に開業するよりは、古い矯正歯科医院を継承した方が、経費がかからないので、医院を買い取って開業する。患者数が増えれば、近くに新しい医院を開業する。日本の場合は、こうした継承制度もないので、子弟が継承しない場合は、そのまま閉院になる場合が多い。ただ東京、神奈川、名古屋、大阪、福岡などの都市部では、若い矯正歯科医が継承することがあるが、青森県のようなところに来る先生はいない。

 

閉院する場合、一般歯科医院であれば2ヶ月の準備期間があれば十分だが、矯正歯科医院では一人の患者の治療に平均して2年間はかかるので、少なくとも閉院するためには2年前から準備期間を要する。この期間は、新規の患者を取らずに、治療中の患者をなんとか終了させる。本来なら2年間の保定も含めると4年間の準備期間がいるが、実際、私の知る事例では2年間の場合がほとんどである。すでに4年前から治療期間がかかる子供の矯正治療は原則的に断っていて、ほとんどの患者は中学生以上で、特にここ2年間は高校生以上の患者、すなわちすぐにマルチブラケット装置での治療を開始する患者しか受け入れていない。

 

開業して28年間になるが、この24年ほどは子供の患者が多く、70%くらいを占めていて、成人の患者は少なかった。そのため、子供の患者を断れば、かなり患者数の減少が見込まれたが、コロナバルブでマスクをしているうちに矯正治療をしようと思う成人患者が増え、かえってここ2年間は患者が多かったが、今年になるとようやく例年並みになった。今いる患者にできるだけの治療をして何とか全ての症例を終了したいと考えている。保定に関してはできれば2年間は見ていきたいが、無理な場合は、知人の矯正歯科医にお願いすることになろう。これは継承がない矯正歯科医院の宿命で、子供が矯正科に残っても、閉院する場合もある。知人の矯正医は子供二人を矯正歯科医に育てがが、後は継がないようだし、もう一人の矯正歯科医の子供さんも矯正歯科医になったが、他県で開業した。アメリカのような継承制度があればいいのだが、どうも日本人は中古住宅よりは新築住宅を好むように、開業についても、そこそこ新しい歯科医院をただであげると言っても断る先生が多い。私の場合も近所で勤務している矯正歯科の先生にタダであげると言ったが、軽く断られた。あまり前医の手あかのついた医院は嫌がられるのであろう。

 

こうしたこともあり、当院での矯正治療を希望している患者さんにはご迷惑をお掛けすることになるが、弘前市内はまだ恵まれていて、日本矯正歯科学会の認定医が3名いるので、一般矯正患者さんについては特に問題はなかろう。ただ年間15-20名くらいいる顎変形症患者、弘前大学医学部病院形成外科より紹介される数名の唇顎口蓋裂患者さんについては、他院ではあまり治療していないので、青森市、盛岡市、仙台市に行くことになり、大変恐縮している。28年前に開業した時は、患者は一週間で数名であったが、今度閉院するためには、逆にこの状態に戻すことを意味し、診療日や診療時間も徐々に減らして行くのだろう。患者さんが減って行くというのは収入も減るわけで、といって従業員の給与などの固定費は変わらず、確実に赤字状態となるのは覚悟しているが、その期間や赤字額については皆目分からないので不安である。

 

11月からは医院のホームページも閉鎖した。すると“弘前 矯正歯科”で検索しても、グーグルはじめ全ての検索エンジンで表示がなくなった。そうすると、それまで月に20件くらいの新規患者の予約電話があったが、すぐに電話が掛からなくなった。そのあまりに早い反応に驚き、今時の患者はネットで医院を検索することがよくわかった。


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