2024年1月7日日曜日

高校サッカー選手権

 



毎年、冬に行われる高校サッカー全国大会では、全国から優秀な選手を集めてチームを作るのは卑怯で、県内選手で戦えという声を聞く。実際、青森県の常勝チームの青森山田高校も、ほとんどの選手が県外出身で、それも山田中学の段階で全国から集まってきている。過去、冬の高校サッカー選手権には3回の優勝、同じく中学校の全国大会の優勝は5回あるが、県民からの応援は少なく、まあ県南のチームということもあるので、弘前市民からはほとんど注目されない。個人的には、ものすごく強いものの、高校生のプロといった感じで、強い当たりや、反則スレスレの行為、ロングスローイングなど、はあまり好きでない。

 

一方、進学校の灘中学校には全国から受験するのに、なぜサッカーで県外から山田中学、高校に行くのはよくないかという声も多い。高校野球やバレー、バスケットなどでも名門高校があり、全国から優秀な選手が集まる。ただ勉強とスポーツを単純に比較するのはおかしいことで、灘中学、高校の生徒200名のうち、国立医学部、東京大学、京都大学に入学するのが150名いるとするなら、山田中学、高校のサッカー部からJ1リーグのプロになる選手がどれくらい、いるかということになる。例えば、2023年度の山田高校の卒業生のうち、プロになった選手はおらず、大学も明治大学、法政大学がトップで、残りは常葉大学、立正大学、新潟医療福祉大学、城西国際大学、関西国際大学、中央学院大学など別にスポーツ推薦でなくても多少の学力があれば合格できる大学である。2022年度の卒業生、松木選手と宇野選手がプロになり、町田ゼルビア、FC東京に入った。他は2023年と同じような大学に進学している。2021年度は、一人がJ1の浦和レッズに、もう一人がJ3のいわてグルージャ盛岡に入った。他の年も調べたが、プロになるのは毎年1、2名でそんなに多くはない。それでも他校では数年に一人くらいなのでかなり多い方である。日本代表となると山田高校出身は室屋成選手と柴崎岳選手の2名である。歴代サッカー日本代表選手出身高校ランキングでは、1位が神戸高校で21名、これは古すぎるが、10位の長崎国見高校でも10名、神戸で言うなら28位の滝川第二高校でも4名、青森山田高校は49位となる。

 

実際、この10年で日本代表が最も多く輩出しているのは、川崎フロンターレU18で、三苫選手など6名、次が東京ヴェルディーユースと柏レイソルズU18が同じく5名、FC東京U18とガンバ大阪ユースが3名、2名のところが青森山田高校、市立船橋高校、大分トリニータU18、大津高校、サンフレッチュ広島ユース、清水エスパルスユース、セレッソ大阪U18、山梨学院高校、四日市中央工業高校、となる。日本代表で言えば、Jリーグのユース組織出身が多くを占めるようになっている。J1の新人の履歴を見ても、ユースから上がった選手は多い。むしろ高校サッカーはJ2より下のリーグあるいは大学サッカーを支えているといっても過言でない。プロになれないアマチュアトップ選手の試合とも言える。

 

今年で全国高校サッカー選手権は102回となる。確かにこの大会から多くの優れたサッカー選手を輩出しているが、それでは最近のサッカー日本代表の強さがこの大会によるかと言えば、そうではなく、一番大きな理由はプロサッカーリーグができたことで、これによって日本代表が強くなり、ワールドカップに普通に出られるようになったし、そこでも勝つようになった。前述したように日本代表においてもクラブのユース出身者が多くなり、思ったほど全国高校サッカー選手権が関与しているとは思えない。全国の高校サッカーの頂点である青森山田高校でも卒業生でプロになる選手は少なく、さらに日本代表になる選手はもっと少ない。最初の話に戻るなら、東京大学に入りたいので遠くても灘中学に入学するというのはわかるし、入学すればかなりの確率で実現できる。一方、遠方から山田中学高校に入ってもプロになることはほとんどできない。

 

厳しい言い方になるが、青森山田中学、高校の選手プロファイルを見ると、中学、小学生の頃にJリーグのユース組織に属していた選手が多く、そちらで無理なため、山田中学、高校に入ってきたのかもしれない。おそらく他の強豪高校もJリーグのユース組織からの流出した選手が多いように思える。プロを目指す選手からすれば、高校選手権の勝ち負けは意味がなく、Jリーグのプロ選手になるにはまずユースチームに入ることが求められる。これは完全なヨーロッパのシステムである。つまり日本でサッカーがプロ化した時点で、ヨーロッパ型の選手育成組織を目指し、ようやく本格的になってきて、日本代表が強くなったのである。むしろ高校サッカー選手権こそがこうしたシステムが普及するのを阻害したといえよう。

 

長々と書いたが、トップ選手の育成にはトレセンのような優秀な選手を若いうちから一か所にまとめて指導するのが優れており、サッカーにおいてはJリーグの下部チーム、ユースチームがそれに相当し、ここで将来的に日本代表となる選手を育てる。またプロのサッカー選手を目指す選手はここを入るべきであり、無理なら早い時期で趣味のサッカーに変える。選手育成という点では、中学、高校でのサッカー全国大会を開催する意味は少ない。実際に、卓球やバトミントンのトレセン選手は高校の大会などには出ないので、高校日本一といっても実態とは異なる。

 

プロになろうとは思わないが、全国大会に出たい、そこで優勝したいという選手もいよう。ただそのためには、各チームの条件がある程度は公平であってほしい。全国から優秀な選手を集め、多くのコーチに指導させ、長い練習時間、芝生のグランド、など半分プロのようなチームに他の高校が勝てるわけがない。青森山田高校は青森県代表で26年連続全国大会に出ているが、これでは山田高校が経営破綻するか、選手の不祥事(昨年の飲酒事件)がない限りは他校が全国大会に出るチャンスはない。強すぎて、青森県でサッカーをしている子どもたちは全国大会出場という夢は持てない。まだ高校野球の方がマシなくらいである。今年の青森県予選決勝は、青森山田―八戸学院野辺地西、9−0となっている。例年、準決勝からのシード権があり、2試合勝てば全国大会に行ける。サッカーのエリートは、Jリーグやヨーロッパリーグの下部組織に入り、そこからプロになるが、プロになれない選手同士の全国大会が、サッカーの全国大会である。必要ない大会だし、どうしても開催したいなら、3年連続出場は禁止すべきである。


最近の日本代表の強さ、その主力、堂安立はガンバ大阪ユース、富安健洋はアブスパ福岡ユース、遠藤航は湘南ユース、三笘薫は川崎フロンターレユースなどによるところが多く、20年前に比べてユース代表の多くなったことが、代表のレベルアップにつながっている。選手育成もドイツ、イギリス、ブラジルなどのサッカー先進国並みになった。今後、この傾向はさらに強くなり、もはや高校サッカー選手権の選手からは日本代代表は滅多に出ないであろう。


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