2024年5月25日土曜日

歯科矯正相談料 新設

 



今年の6月かの診療報酬改定で、矯正歯科相談料という項目が新設された。これは学校歯科検診で不正咬合を指摘され、顎変形症が疑われる子供が歯科医院を受診した場合、取れる点数である。420点に初診料267点が加算されるので計687点(6870円)なので、これは高い点数である。私のところの矯正相談料が自費で3300円なので、よほど良い。さらにパントモやセファログラムも加算されるので、間違いかもしれないが、これにパントモの340点とセファロの300点、計1327点(13270円)となる。

 

もちろん矯正治療そのものは、顎変形症やその他の先天疾患を伴う症例以外は保険適用のない自費診療である。そのため、患者に提供する文書には診断結果は記載しないといけないが、治療法について必ずしも記載する必要はない。例えば、反対咬合患者であれば、上あごに比べて下あごが大きく、将来的に外科矯正の適用になるかもしれない程度の記載でいいことになる。具体的な治療法、下顎を何ミリ下げる手術をする、高校1年生頃に上顎の小臼歯と下顎の第三大臼歯を抜歯して、一年半から二年の術前矯正をしてから、弘前大学医学部病院などで手術するといった細いスケジュールをあげる必要はないだろう。

 

ただ問題となるのは、中学2、3年生以降であれば、成長がある程度終了しているので、手術を併用した顎変形症の診断は可能であるが、それ以前の小学生では診断が難しい。ここでは将来的には手術が必要な場合もありますよということになる。親からすれば、なんとか手術を回避できないかとなるが、その場合の早期治療は自費という説明となる。

つまり、診断は保険でできるが、治療するのは自費でということになり、これはおかしな、あるいは片手落ちの制度といえよう。小児で将来的に顎変形症、手術を併用する手術になりそうと診断されても、治療は保険がきかない、自費治療になるということである。患者の親にすれば、将来手術になるまでほっておけというのか、相談だけ保険が適用され、治療するなら自費というのはおかしいというと文句も言いたくなる。医療は、早期発見して、重篤にならない前に治療をするのが鉄則であり、早期に発見しても治療できないのはこの鉄則からも外れる。

 

もちろん厚労省のこうした矛盾点はわかっており、今回の矯正相談料の利用度により将来的な子供の矯正治療の予算を予想しようと思っているのだろう。利用度が多く、予想される矯正治療費が莫大なものになるなら、そのままにするし、それほどでなければ、例えば反対咬合に診断、治療については保険適用にするといった流れかもしれない。先日も学校歯科医になっている郡部の中学校に歯科健診にいった。生徒数は述べで90名くらいであったが、う蝕はほとんどなく、治療すべき歯数は10本くらいであった。不正咬合については、主として顎の変形のある生徒、ひどい不正咬合の生徒に、要精査をつけたが十数名いて、う蝕歯より多い結果となった。このままでは、学校歯科健診も不正咬合をチェックする場になるかもしれない。

 

イギリス、フランス、ドイツや北欧では、重度の小児の不正咬合については、保険適用になっている、それでなくても若い世代にとって、あまり利用しないのに高額な健康保険の負担については、不満が多く、それに対応する形で、市町村も高校生までの医療費無料化などの政策を行っている。老人ばかり医療費を使うなということである。その流れからすると、子供の矯正治療費が保険適用できるなら、若い世代にとっては、これは大きな朗報となる。保険適用というのは、すべての人に可能性のある病気について、その費用は等しく負担するという趣旨であり、不正咬合についてもその可能性はすべての子供にある。それゆえ、今回の矯正相談料の新設は、将来的な矯正治療の全保険化の一歩として捉えていきたい。

 

矯正歯科医院側の問題点としては、これまで相談および検査、診断はすべて自費で行ってきたが、今回の矯正相談料の新設で、保険医療機関であれば、学校検診の通知書を持ってきた場合は、保険で検査、分析、診断までする必要があるかということだ。私のところで言うなら、一般的な流れでは、まず相談料3300円、治療をするならパントモ、写真、セファロ、模型をとり、検査料の33000円、そしてその結果を説明する、トータルで36300円かかる。これを保険でするなら、まず初診料と矯正相談料、さらにパントモ、セファロ、スタディモデルで1377点となる。ここで問題になるのは、顎変形症では顎口腔機能診断料2300点、口蓋裂では歯科矯正診断料1500点が取れたので、ほぼ自費料金と同じ収入となった。相談料とこの診断料との整合性が問題となろう。もう一度詳しく見ないといけないが、新設の矯正相談料は確か診断結果のみを文書で提供すればいいようで、詳しい治療方針は必要ないことになる。さらにここまで保険で検査して、実際の治療を自費でするとなると、これは混合診療ではないかという疑問も生まれる。細かいことを言うと、自費治療になった場合は、初診に遡って全額自己負担となり、具体的に言えば、自費治療になった段階で、これまで保険費用を返却して(支払基金、市町村)、新たに自費での診断料を取るという流れになる。これはこれで手続きはかなり難しそうだ。逆に保険療養が認められている相談料を自費にするのは保険医療機関では禁止されている。おそらく厚労省の見方としては、治療が自費診療ということになっても、診断だけであるので、混合診療に当たらないという解釈だと思う。一般的な流れとしては、まず生徒が学校健診の通知表を持って近くの歯科医院を受診する。おそらくセファロ撮影機はないので、パントモと視診だけで重度な不正咬合かを判断し、場合によっては矯正専門医を紹介する(歯科矯正相談料2)。紹介された矯正歯科専門医院では、さらに必要な検査(セファロ)を行い、診断結果を説明する(歯科矯正相談料1)。18歳以下の子供の医療費は多くの市町村で無料なので、ここまで費用はかからない。治療の希望があり、顎変形症と診断されたなら、さらに必要な検査を追加し、口腔外科を受診させて、顎口腔機能診断料2300点をとり、経過観察するか、実際の治療に入る。一方、小学生では手術がどうか確定できず、自費でも早期治療を受けたいという患者には、平行模型などの追加検査をして、今後の治療計画を説明して、自費治療による矯正治療が開始される。

 

 


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