2024年6月27日木曜日

わたぬき社長・アパレルの勝算



最近YouTubeでハマっているのは、「わたぬき社長・アパレルの勝算」というチャンネルで、山梨で縫製工場、Wafuを経営している綿貫社長のトーク番組である。ユニクロ、無印商品などのファーストファッションから、コムデギャルソン、ヨウジヤマモトのようなブランドや、Waiperのようなミリタリーブランド、ミネペルホネン、アークテリックスなども扱っている。

 

値段と服の原価との関係を、主として生地と縫製からチェックするような企画で、タイトルは毒々しいものの、内容は極めてまともな番組で、この番組を通じて国内のアパレルメーカーの抱える問題や世界的生産拠点との関係を知るとことができる。私の娘はアパレル商社に勤めている関係で、こうしたアパレルの裏表は側聞しているが、その彼女も内容がやばい、つまり業界のリアルを描いていると言う。

 

まず国内問題として、縫製業自体が高齢化しており、会社数自体も減少していて、プリントは和歌山、刺繍は京都などの昔は日本中にあった多くあった会社が、限定されてしまっている。そのため、沖縄でアロハシャツを作る場合でもわざわざ和歌山までプリントに出すということになる。また日本での生産コストが高いので、最初は中国に縫製工場を移転し、さらに近年は中国もコストが上がり、ベトナム、さらにはバングラデシュやミャンマーなどもっともっと賃金の安いところに移っていっている。資本主義のリアルな状況で、昔、中国製は日本製に比べて縫製の精度が落ちるとされていたが、長年、中国で工場があったので、今は日本以上に高い技術がある。

 

衣料の分野では、いまだに手作業の割合が多く、安い服を提供するためには、安い人件費のところで仕事することになり、日本よりは中国、中国よりはベトナム、そしてバングラデシュと次々と生産拠点を変更し、そのスピードも賃金上昇に伴い、早くなっている。とりわけユニクロのようなファーストファッションの会社では、より安い人件費のところで生産し、さらに大量に発注することで単価を下げる。

 

一般的には衣料品の原価は20-30%、ブランドでは10%とされているが、ユニクロは50%で、それだけ、店舗費、人件費、宣伝費の削減、さらには売れ残りを防ぐ努力も大きいのだろう。例えば、ヨウジヤマモトのシャツが10万円だったとしよう。原価は1万円、単純な儲けは9万円に対して、ユニクロのシャツは4000円で、原価は2000円、儲けは2000円となる。ヨウジヤマモトのシャツ1枚の儲けを得るためには、ユニクロのシャツ45枚売らなくてはいけない。ヨウジヤマモトが儲けているように見えるかもしれないが、デパートのショップで1日に10枚売れる日もあれば、一枚も売れない日もあろう。逆にユニクロのシャツは常に10枚以上は最低売れるであろう。強烈な信者のような客がいなくては、ブランドメーカーは成り立たず、そうした客もそう度々買うわけではない。

 

私が子供の頃は、服というのは仕立てが普通で、それ以外のものは既製服、あるいは吊るしと呼ばれていた。洋装屋に行って、採寸して作ってもらうのが一般で、簡単なものは洋服の雑誌を買い、その付録の型紙から服を作った。シャツやジャケットなどは素人には無理であった。勢い、一人一人の保有する服の数はかなり限られていて、作業着、普段着、よそゆきと別れていた。子供の頃、近所の洋装店でジャケットを仕立ててもらったが、おそらく今の感覚で言えば、一着5万円以上していたのだろう。同様なことは服だけでなく、靴も高く、何度も修理して使ったし、自転車、家電、車、食事も高かった。これは何も意味するかというと、当時は安い人件費の国で製品を作るという発想はなく、国内で自給されており、服も全て国内で作られたため、それで商売するためには、そこそこの価格で売らなくてはいけないし、客もそうした価格で買わなくてはいけなかった。

 

綿貫社長にチャンネルでハッとしたのは、スリランカの旅である。現地で売られている2000円程度の高級服を買ってその縫製などをコメントしているが、ここの賃金は2万円くらいで日本の1./20くらいである。つまり2000円の服の価値は日本で言えば4万円の服に相当するのである。それがものすごく売れている。さらにいうならユニクロや無印の商品は検査が厳しく、スリランカの同等の値段よりはるかに高い品質なのである。そうした意味では日本人は信じられないほど安い価格で服を買うことができているが、物が余った大量消費の生き方がどうかという問題も出よう。服から資本主義、グロバリゼーションの怖さが見えてくる。



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