2012年3月14日水曜日
須藤かく 6
須藤かく(1861年1月26日 万延元年—1963年6月4日 昭和38年)
弘前藩士、須藤新吉郎の娘として、弘前の大浦小路で生まれた(現在の弘前市大浦町8番地)。弘前城の堀から少し入った所で、現在ある弘前文化センターに隣接するところで、今も当時と全く同じ敷地の家が並ぶ。
父親の新吉郎は須藤熊三郎の二男として天保2年(1831)に生まれた。兄勝五郎は、弘前藩の西洋式帆船安済丸の船将として野辺地戦争、函館戦争でも活躍したが、長男惟一の戦死(野辺地戦争、小湊口で戦死、賞典永世15俵)もあってか、維新後は熱心なキリスト教徒となった。勝五郎の3歳下の弟新吉郎は、明治元年9月に甥の惟一とともに野辺地戦争に参戦した。その後函館戦争の折には、そこで土木工学の新知識を習得し、維新後は青森県の民政局庶務掛で、青森市の町づくりに参画する。明治に入り、名前を序と改名した(Tsuijiと読む)。須藤序がキリスト信徒になったかは、定かではないが、兄の影響から早くから西洋知識に高い関心を持ち、娘かくにも当時としては最高の教育を受けさせようとした。
明治8年(4月)に出来たばかりの東奥義塾の小学科女子部に入学した。当時の住まいは青森の作造村(青森市造道)であったので、弘前の叔父の家から通ったものと思われる。ここで西洋知識の基礎を学んだ後、翌年の明治9年には、明治4年にできた日本最古のプロテスタン系の女子教育機関である横浜共立女学校(横浜共立学園)に入学した。おそらく東奥義塾の本多庸一に相談した結果、本多の師であるバラが関係している横浜共立女学校への留学が決まったのであろう。学費は教会による援助もあったようだ。女子では日本最初の医学博士となった岡見京子は同郷であり、共立女学校には明治6年に入学、明治11年に卒業なので、須藤かつも面識はあったと思われる。後の須藤かつの進路を見ると、岡見京子の影響からアメリカに留学し、医者になろうと考えたのかもしれない。岡見京子は明治18年(1885)にフィラデルフィアのペンシルベニア女子医科大学に入学し、明治22年(1889)に卒業した。
須藤かつは、おそらく明治16年(1883)ころに共立女学校を卒業した。女学校に入学したのは、そもそも英語を勉強するためだったが、次第に強い信仰心をもつ先輩、先生の姿に感動し、在学中にキリスト教徒となった。卒業後、偕成伝道女学校に入り、教会関係の仕事を手伝っていたが、ここで生涯の恩師アデリン・ケルシー医師と出会う。ケルシー医師はニューヨークのOneida Countryで150エーカの農園をもつ熱心なキリスト教徒の名家に生まれた。1875年にニューヨークのNew York Infirmary女子医大を卒業後に最初は中国に医療宣教の目的で行き、その後1885年に日本できて、長老派の宣教医として活動した。
須藤かくと安倍はなは、1891年にケルシー医師と一緒に渡米し、須藤かく32歳の時、1893年にオハイオ州シンシナティーのLaura Memorial College(シンシナティー女子医科大学)に入学し、優秀な成績で、1896年に卒業した。その間、学費を得るために、4年間に22の州で講演を行ってきた。同時期、「武士も娘」の著者杉本鉞子も夫と一緒にシンシナティーにいたが、須藤かなとの接点はどうもなさそうである。フィラデルフィアのEastern大学で勉強しながら日本への帰国を準備し、1898年にケルシー医師、安倍はなと一緒に横浜に来た。横浜では、すでに稲垣寿恵子、同窓の二宮ワカなどが、貧しい人々のための横浜婦人慈善会を組織して活動していたが、やがて1891年に根岸町西丈丸で横浜婦人慈善病院を開設していた。この通称根岸の赤病院に来たのが、須藤かくらの一行である。しかしながら、当時官医学はドイツ学派が主流となってきており、院長との確執から、3年ほどで医療活動を中止し、その後も貧しい人々への慈善事業に従事したが、失意のまま1902年にケルシー医師の故郷のニューヨーク州、Oneidaに帰ってきた。農場の管理のために、須藤かくの姉の嫁ぎ先である成田八十吉一家も一緒に渡米した。後に子供の一人を養子にしている。
Oneidaでは農園経営をしながら、ケルシー医師とともに内科医師として医療と教会活動をしていたようだ。1920年から30年ころには、ケルシー医師に従い、老齢の恩師と一緒に暖かいフロリダに住むことにし、フロリダのSaint Cloudに移住した。1963年に亡くなるまで、そこで平穏な暮らしをした。現在、フロリダのSait cloudのMount Peace Cemeteryに墓がある。
日系人最初の女医であり、おそらく弘前出身の最初の女医でもあったろう。女性にとって困難な時代をみごとに生き抜いた102年の生涯であった。
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