2015年2月13日金曜日

舌側矯正



 舌側矯正は開発されすでに40年近くたち、もはや最新の治療法とは言えないかもしれない。この方法は日本人の藤田欣也先生によって1976年に開発されたもので、当然、東京医科歯科大学の三浦不二夫先生によって開発されたダイレクトボンディング法、歯に矯正装置を直接、接着剤につける方法がなければ、できなかった。すべて日本人により開発され、未だに舌側矯正はおそらく日本人臨床家の症例が世界でも最も優れている。手先の器用さとさらなる改良による。

 当初から問題になっていたのは、ブラケット間の距離が唇側矯正に比べて短く、弱い力を持続的に歯にかけられない、叢生の解消が難しいといった問題があった。これに対してはブラケットのサイズを小さくして、距離の増加を図った。するとブラケットの幅が狭くなり、今度は歯の捻転の解消が難しくなった。そしてこの改善のために、最近の舌側矯正のブラケットにウィングをつけるようになった。こうした改良で、かなり叢生にも強くなったものの、未だに重度の叢生には舌側矯正は唇側矯正より時間はかかる。

 また舌側に装置があるため、操作性は著しく低い。とくに結紮が面倒であったが、これもセルフライゲーションが採用され、操作性は向上した。また舌感、発音についても、装置が小さくなり、高さも低くなったため、ずいぶん良くなった。

 こうして舌側矯正装置もここ40年間の改良でかなりよいものになったが、未だに問題なのが、トルクとデーティリングの問題である。トルクは歯根を主として舌側に動かす場合が多いが、一番得意なのは唇側のスタンダードブラケット、続いてストレートブラケット、そして舌側ブラケットが力学的にも最もトルクをかけにくい。また上下の歯の緊密な咬合には、細かな調整が必要となるが、トルクと仕上げについては、未だにかなり術者の能力による。最新の舌側矯正はコンピューターで症例ごとにオーダメイドのブラケット、ワイヤーを作製する仕組みになっているものの、臨床では70%程度の仕上げしかできず、後の30%は調整が必要となる。唇側矯正装置のストレートワイヤー法も当初は、オートマティックに仕上がるというものであったが、確かにベンドの頻度は減ったにしろ、症例による調整は欠くことができない。

 こうして見ると、舌側矯正もかなり良くなり、使いやすくなったが、それでも仕上げの段階になると、術者の力量が必要であり、唇側矯正を完璧に修得した上でも、多くの舌側矯正の経験を踏まないと、同じような仕上げにはならない。私のような経験の少ない術者では、どうしても仕上がりに難点があり、期間がかかった上、「リンガルではこんなもの」と言い訳するようになる。それでなくても矯正治療は本当に難しく、完璧に仕上げる症例は少ないのに、舌側矯正では、その比率はさらに下がるため私のようなへたな臨床医はやらない。

 さらに再治療の問題がある。いくらうまく仕上げても、矯正治療では必ず再治療がある。私のところでも年間数ケースの再治療がある。舌側矯正の場合、この再治療も基本的には舌側矯正となる。手間が大変である。また患者の都合で、転医することがあるが、基本は前医の矯正装置をすべて外し、自分のところで使っている装置に置き換える。唇側の場合はそれほど手間とは言えないが、舌側の場合は、こうした転医は大変で、断る場合も多い。私のところでは、そもそも舌側矯正はしていないので、すべてお断りしている。最近の舌側矯正装置はほぼすべて技工に出して作ってもらっているので、転医でブラケットを置き換える場合は、新患と同じ対応となるものと思われる。一般的には転医の際の料金の清算は、進行度合いにより、2/3進んでいれば、残金の1/3を返金するが、舌側矯正の場合はこの返金額では厳しい。

 もうひとつの問題は、こちらが何度説明しても頑固に舌側矯正を希望される患者さんは、かなり細かい性格のように思える。わずか0.5mmの捻転、1mmのブラックアングル、毎回の歯面研磨など、これで十分と思っても、小さな要求が出てくる。これに対処するのが面倒であり、治療後の頻回な再治療を求められる。さらに治療期間が長引くと、確実にクレームとなる。


 どうしても舌側矯正での治療を希望する方は、是非、最近仕上がった症例の模型(写真ではダメ)を見せてもらい。カウンセリング室にある理想咬合モデルと比較してほしい。素人でも明らかな差がある場合は、その先生の力量がそこまでと言えよう。基本的にうまく仕上がった症例は理想咬合モデルに限りなく近い(それを目指しているので)。

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