2015年2月25日水曜日

後戻りと再治療



 弘前のような田舎で仕事をしていると、東京、大阪のような都会で開業している矯正医がうらやましいと思うことがある。私の診療所では、マルチブラケット法は患者の協力がなくては、うまくいかないため、患者の意志を聞いてから治療をスタートさせている。患者が治したいという気持ちが出てから治療を始める。早期治療の場合では、初診時の年齢が6-10歳ころであり、本人の意志というよりは親の意志で治療が始まる。これは仕方がない。そしてマルチブラケット装置による仕上げの治療、二期治療を行う。永久歯が生えそろうのは中学二、三年で、この年齢から治療は可能であるが、どうも中学生は精神的に不安定で過去、何度も失敗した。患者が非協力で、歯磨きはしてくれない、ゴムを使ってくれないため、治療結果がよくなかったり、虫歯が出来たりする。そのため、ここ10年は基本的には高校入学後に本人に意志を聞いてから仕上げの治療を開始するようにしている。本人があまり治療に乗り気でなければ、大学生、就職しても治療できるので、不正咬合であっても治療しない.実際、この時点で治療をやめる症例もある。

 高校一年生から治療を始めるとなると、卒業までに何とか治療は終了できても、その後の保定は、十分に見れない。弘前では大学、就職する場合も、多くは県外にいくため、その後は夏休みや、冬休みの帰省の折に見たり、県外の先生に紹介したりする。ところが、矯正治療の場合は、必ず後戻りがある。この後戻りは保定装置をきちんと使わないためであることが多いが、使っていても後戻りがおこることがある。その典型的な例は、前歯が開いている開咬という不正咬合である。後戻りの治療は基本的には費用をとらないが(調整料のみ)、県外に転住した場合はこちらまで通院できず、転住先で再治療をする場合は、新たな負担がかかる。患者にとっても私の方も、残念なことである。

 先日、7年前に治療を終了した患者の親から、横浜の歯科医院に行ったところ、矯正治療をした方がいいと言われたという。昔のカルテを探し出してみると、開咬症例で、4本の小臼歯を抜歯して治療した症例である。ゴムを使って何とか咬ましたものの、装置撤去、3か月くらいから再び、前歯が開き、後戻りをおこした。舌機能訓練をして再治療を勧めたが、当時、本人は希望せず、そのまま東京に進学、就職した。全く私の技術の稚拙なせいであり、お恥ずかしいかぎりである。ただこうした症例では、再治療しても習癖が治らない限り、再び後戻りするため、十分な注意が必要で、もし東京で再治療をする場合は、そちらの先生にこれまでの経過と資料を送る予定である。

 東京の先生に聞くと、進学、就職で東京を離れる患者は少なく、高校卒業後もそのまま都内の大学に進学し、就職する場合も多い。そのため、かなり長く患者をみていくことができる。こういった点がうらやましいところである。弘前では高校卒業後、進学、就職で県外に行く症例が多いので、高校2、3年生からの治療は基本的にはすべて断っている。それでも地元に残ると約束して高校2年生から始めたが何らかの理由で卒業後に県外にいく症例や、治療が予想以上に長引いた症例では、転医する、年間数例はあろう。治療費の返金から経過説明、転医先の了解などけっこう大変である。

 先日、アメリカに転医した患者からメールが来た。ご主人の仕事で急遽アメリカに行くことになった。1年半ほど治療をしておよそ治療の2/3は終了したと考えていたが、治療費は1/3だけもらい、英文で紹介状を書き、経過、こちらでの治療費などを記載し、模型などすべての資料を持たせた。渡米後、近医の矯正歯科を受診したところ、かなりいい治療をしており、装置もこちらで使っているのと同じで、そのまま治療できるということであった。費用も1/3の費用でよいとのことで、良心的な先生にあたり、患者は大変喜んでいた。日本臨床矯正歯科医では転医システムがきちんとできていて、素晴らしい先生も多く、これまで20年、転医でうまくいかなかったことはなく、その点では転医先の先生には大変感謝している。

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