2015年6月10日水曜日

技術継承会社


 最勝院近くの餅屋が、後継者がいないため閉店となった。ここは“うちわ餅”が名物で、甘いタレにつけた柔らかい餅は弘前市民に親しまれ、その閉店を惜しむ声が多い。こういったお菓子屋、食べ物屋は、労力の割には収入が少なくて、子供が後を継がない場合が多く、そのまま終了となる。実に残念なことである。

 他にも、近所にリンゴの木の作業用の脚立を作っているところがある。年配のおじさんが一人でやっており、このおじさんがやめれば、そのまま廃業となり、こうした特殊な脚立を作る職人はこの世からいなくなる。弘前だけでなく、後継者不足により、しかたがなく廃業する職種は全国的にも多いと思われる。

 先日のテレビで、折れないチョークで有名な会社が、経営者が高齢のため、その会社の畳むことになり、世界中から、このチョークがなくなると困る、黒板を使って考えをまとめる数学者からはトン単位の注文が入ったというニュースがあった。幸い、韓国の予備校教師が、資材を買い、韓国で生産することになった。

 ラーメン屋、定食屋、お菓子屋から、津軽塗、下川原焼土人形など伝統的工芸品まで、いろいろな分野で、後継者不足から絶滅するものは意外と多い。とくに若者の数が減少している現在ではこうした問題は、深刻であろう。

 ここで一つの提案である。伝統的な工芸品に関しては、国、県、市などで保護がなされ、伝統がついえないようにされているが、お菓子屋、食堂やもっと低級といっては誤解されるが、庶民的なものの保存を企業が乗り出したらどうであろうか。社員を派遣し、そこで半年、1年学ばせ、レシピや作業工程をビデオで撮影し、記録する。もし再開ができれば、全く同じような品、味を再現できる。これを会社の資源とする。

 お菓子屋、食堂でも何十年、場合によっては100年以上続く店には何らかの人を引きつけるものがあり、それはその地域だけでなく、全国、あるいは世界でも通用する可能性がある。十分な資源としての価値がある。それを売るのである。すべての行程、味、レシピを希望する人に売り、利益を挙げる。一度なくなると、それを復活するのは何倍もの労力と費用がかかることを考えると、こういった会社の価値は高く、単にお菓子屋、食堂だけでなく、さまざまな分野でも、技術遺産を保存し、活用することは大事だし、今後とも大きな価値を産むように思える。昔と違い、技術を保存する手段も増えている。

 さらにいうと、技術継承の役目を担う社員は、その道のエキスパートであり、自分で開業してもよいし、教室を開き、教えてもよい。「津軽百年食堂」のサバ定食を東京のお店でメニューに載せたければ、マジシャンがそのネタを買うように、この会社から買ってもよいし、そこの会社が主催する料理教室で習っても良い。飴屋から箸屋、包丁、提灯、藍染め、ランプなどいろいろなものがあり、その修得にはかなり時間、期間がかかるものもあろうし、こうした職人は継ぐ気もない第三者に教えるのを拒むであろう。それをいかに説得し、短期間で学び、教えるのも会社のノウハウーで、これもアイデア次第でかなり実行できるかもしれない。またこうした職業はあまりコミュニケーションが必要としないので、引きこもりの子供たち、大人には国が助成金を与えて一本立ちする手伝いをする。その収入は当然、この会社のものとなる。

 インターネットの氾濫する世界にあっても、重要なことはそこの載せる情報であり、文字、画像で表されないものをいかに保存するか、特になくなりつつある無形の技術、味をいかに継承するかが、今後大きな価値がでるものと思われる。民間企業、あるいは市町村でも後継者問題も含めて真剣に検討してほしい(後継者を市町村が斡旋する)。さらに誇張して言うと、国が“後継者を残そう”運動といったスローガンを挙げ、後継者に悩む会社、店と人を仲介し、場合によっては低利で融資するような積極的な運動をしてもよかろう。


0 件のコメント: