2015年6月18日木曜日

良い歯科医

テレビで「いい歯科医」の見分ける5つの条件というものが紹介されていた。
5位: すぐに虫歯を削ろうとしない
4位:治療前に歯科衛生士が口の中を掃除する
3位:治療のたびに歯の写真を撮影する
2位:自分の不得意な治療は断る
1位:初回の診療時間が長い

 概ね正しいのだろうが、ちょっと待て。これは自費中心の歯科医院の形態である。日本の医療は、健康保険が適用され、本人負担分は3割であるが、もとの技術料自体が低く抑えられ、欧米の数分の一の評価額である。もともとかなり低い費用設定となっていて、医科でもそうであるが、数をこなす前提である。5位の虫歯をとる場合、最小限の削除量にとどめるために、マイクロスコープを使い、拡大して少しずる削除していく。できるだけ健全な歯質を残す治療法である。当然、手間と費用がかかり、通常の保険治療ではコスト的に難しい。同様に4位の衛生士による機械的清掃をすべての患者にするためには、多くの衛生士を雇う費用が必要であるばかりか、厳密に言えば予防的な処置には健康保険が適用できない。さらに3位について言えば、すべての患者の処置について写真を撮ることは技術向上には大切なことであるが、果たしてそれが生かされているのか。例えば、患者が転住した時に転医先を探し、そうした資料一式を持参させるのか。2位についても、不得意な治療を避けるなら、はっきり言って、一般歯科医で矯正歯科専門医の経験、技術に及ぶことはあり得ず、矯正歯科を標榜している時点でアウトである。1位についても、これは全顎の治療、すなわち主訴でない歯、あごも含めた総合的な治療法を知るためのものであり、保険の基本的な姿勢、必要でない治療はしない、に反する。

 日本の健康保険制度は、コスト的にも世界的にも最も優れたものであるが、その前提には医師、歯科医師とも低い診療報酬でがまんし、数多くみて経営を何とかしてほしいというものである。もし国民がアメリカ式の一人一人に時間をかけ、最高の治療を求めるなら、保険制度は破綻し、すべて高額な治療費がかかることを覚悟しないといけない。社員食堂の料理は安くて、うまいのがよいのであり、それに対して、従業員のサービスがなっておらん、フルコースの料理を出せと言っているようなものであり、「いい歯科医」という設定自体がおかしい。さらにこういったニュースがでると、それに便乗した歯科医やHPでそれを宣伝する歯科医もでてくる。

 私自身、尊敬する歯科医の一人に鹿児島で開業している白石豊彦先生がいる。鹿児島大学歯学部の矯正科にいた時に、一般歯科医向きの矯正コースを担当した時の生徒の一人であった。非常に器用な先生で、歯科医に向いた先生であると思ったが、どうしてこのコースを受けたかと聞くと、自分ではしないかもしれないが、一応、知識として矯正を習いたいとのことで、その謙虚な姿勢と、雑談の中で、歯科医の基本的な態度に教えられることがあり、こちらこそ非常に勉強になった。このコースには他にも優秀な先生が多くいて、今でも思い出の深い講習会であった。その後、白石先生は主として、クインテッセンスなどの歯科商業誌で多くの症例発表をしていて、注目して論文を読ませてもらっている。矯正も含めた非常にレベルの高い治療をしているにも関わらず、高いプロフェッショナリズムを有し、志は高い。最新号のクインテッセンスでは患者が死ぬまで、自分が死ぬまで、力の及ぶ限り、何とか手伝いたいという志を持ち、実践している。

 悪評高いデンターネットの順位で示すと、この白石歯科は鹿児島、378医院中の172位で、いかにこういったインターネットのランキングがいいかげんか、よくわかる。当然、白石歯科でも、症例を多く、雑誌に発表していることから「いい歯科医」の5つの条件に十分に当てはまると思うが、本人はそうしたことはしていないと言うのだろう。こうした真面目できちんとした考えの先生は全国にもたくさんいる。

 最近も矯正治療後、18年フォローしている患者が東京に転居した。口腔管理のため、近所の歯科医院に行くと、かなりしつこく矯正治療を勧められたという。確かに多少の後もどりがあるので、より完璧にするなら矯正治療をした方がいいであろうが、経過を知っての勧誘であろうか。矯正治療するなら、こちらのすべての資料を送りますと患者には返答したが、果たしてその歯科医はこれを上回る治療結果、経過を得る自信があるのだろうか。また長女も大阪の歯科医に虫歯を直してもらいに行くと、下の前歯に少しのでこぼこがあり、これもしつこく矯正治療を勧められた。親が矯正専門医で、こうしたわずかなでこぼこを直すのは簡単だが、それをずっと維持するのは大変難しいので、矯正専門医はこうした点を確認した上で、どうしても治療したい場合は治療をすると言えと、娘に言った。その後、勧誘はなくなった。東京、大阪など大都市の歯科医院は、親が歯科医とわかっていても、こうしたことを平気で言う輩が多く、都会の歯科医院に行くにはよほど覚悟がいるし、白石先生のようないい先生を見つけるには地方にいるより難しい。歯科医院も競合が激化して、患者獲得、それも「いい歯科医」の条件をうたう歯科医院に限って、矯正治療やインプラントの自費治療を熱心に勧める。私の勧める「いい歯科医」とは、患者のライフスタイル、年齢に合わせた適切な指導と治療を行う先生であり、問題があれば、その都度直してもらい、死ぬまで何とか美味しいものを食べられるようにしてもらう。そんな先生がいい歯科医なのだろう。最初にがっちりした家を建ててもらったら、定期的にペンキを塗り、屋根をふき替え、足腰が弱ったら、手すりをつけ、車いすになればスロープを付けてもらえば、死ぬまで十分に快適な生活ができるのであり、やれ風呂や台所をリフォームしろ、家を新築しろというのはどうかしている。

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