2015年6月15日月曜日

若手歯科医に望むこと


 歯科医の臨床能力は、大きく分けて3つとなる。ひとつは患者にもわかるレベルで、あそこの歯医者はヤブで、とんでもない治療を受けたといった類いである。そもそもの基礎的な臨床技術が伴わず、素人の患者からみても明らかにひどい治療をしているところである(グレード1)。当然、口コミもあり患者は少ないが、当の本人は自分の臨床を患者が理解してくれないとぼやく。歯科医本人の技術だけでなく、歯科助手にほとんどの治療をまかせきりにするところもあり、それでも厳しく指導した上ならわかるが、こういった歯科医院では指導もほとんどしないため、当然、歯科助手は先輩のまねをして治療を行う。思わず、ぎょっとする治療を見ることがある。

 もう一つは、患者レベルではわからないが、同業者からみると、それほどでもないところである(グレード2)。歯科医は技術職と営業職を兼ねているため、営業能力が長け、やさしくて患者扱いの先生は人気がある。一方、そうでないと技術はそこそこでも患者はこない。大方の歯科医はこの範疇に入る。

 最後は、歯科医から見ても臨床技術が高いところである(グレード3)。さらに保存、補綴、矯正歯科などの各専門医からみてもすごいという先生がいる。このレベルになると専門開業か、自費中心の治療をしているところが多い。

 グレード1、2、3を見分ける方法は、症例を見るしかない。治療前後の写真、レントゲン写真、模型、治療後の経過、実際の治療手技などで判断できよう。専門医試験や教授選の場合には、こういった方法で審査されるから、ある程度の臨床技術はこれでわかる。
歯科大学の臨床講座では、各医局で、新人教育をして、さらに教授、准教授、講師などから指導を受け、手技の向上を図る。昔、鹿児島大学で矯正科の外来長をしていた時は、医局員全員(教授も含め)が終了患者すべてを毎月、医局会で報告され、批判を受けた。まあ上の先生には批判はしにくいにしても、ある程度は自分の能力が試された。

 これが開業医となると、自分の症例をひとに見せることはほとんどないまま、次第に自信過剰、天狗となっていく。ことに若手歯科医はほとんど臨床経験がない割に知識だけはあるので、天狗になりやすい。昔、アメリカの若手の矯正歯科医が日本矯正学会の特別講演の演者に質問していたが、両者の先生を知っていたので、その後に聞いてみた。若手の先生はほとんど経験はないが。著名な先生に名を覚えてもらうために質問したようで、一方、講演をした先生はああいった手合いはアメリカでも多く、ほとんど臨床経験もないのにと困った表情をしていた。

 ただレベル1から3までの道は、簡単であり、歯科医は徒弟制度であるため、優れた臨床技術と経験を持つ師匠につき、罵倒されながら励むか、スタディーグループなどに入り、積極的に自分の症例を発表して批判してもらう。なかなか大変な道であるが、これしかレベル向上の方法はなく、謙虚な気持ちで精進してほしい。一方、インプラント、矯正歯科、CAD-CAM、マイクロスコープなどの最新の治療法に目がいきがちだが、これらは基本的な歯科臨床を修得した上で目指すべき対象である。矯正歯科の分野でも若手の先生の中にも、本当に真面目に研鑽している先生もおり、頭がさがる。毎回の調整の度に、写真のみならず、模型もとり、ワイヤーベンディングやフォースシステムを検討するという先生もいる。とても真似できない。

 本日、東北矯正歯科学会(山形)から帰ってきたが、韓国のパク先生の講義、これで4回目であるが、きちんとした症例で、まじめな先生である。私のところでも、臼歯の圧下については、もう少し考えなくてはいけない。

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