2017年2月11日土曜日

歯科医院に行くのが怖い

おそらく歯科医院数は戦前の10倍以上になっている

患者さんの中には、治療後に東京の大学に進学する人が多い。夏休み、冬休み、春休み、帰省に合わせて、当院に来てもらい、経過をみているが、たまに虫歯が見つかる。十分に期間があれば、地元、弘前の歯科医で治してもらっているが、東京に帰る前日に来たりする。「それじゃ東京の歯医者さんで見てもらってください」と言うと、「どこかいいところがないですか」と問われる。青森の歯医者さんについては大体知っているが、東京の歯医者さんはほとんど知らないので、結局は「東京の方に聞いて、評判のよい歯科医で治してもらってください」と答えるしかできない。
 患者さんから質問に対して、治療技術の良否についてはあまり答えることはできないが、それでも青森の歯科医院では、少なくもと費用に関する心配はない。ほぼ保険での治療が主流であり、前歯の治療で審美性を重視する患者に限って自費治療を勧める。患者からの希望がなければ、基本的には保険治療をする。
 ところが、どうも東京の歯科医院では自費診療のところが少なくなく。友人の歯科医に聞いたところ、娘さんが東京の歯科医院に行くと、奥歯の小さな虫歯、こうした治療ではレジンというプラスティックのものを充填するが、これも自費を勧められるという。保険と自費の違いは何かというと、自費では拡大鏡を使った精密な治療を行うとのことである。さらに虫歯が神経に達している場合は、神経をとる歯内療法は自費となる。何でも顕微鏡を使った治療なので保険が効かないそうだ。補綴物も当然、自費となるセラミックのものが使われる。一本の歯の治療に20万円以上かかる。保険治療と自費治療で技術を使い分けるとは器用な先生である。
 保険医療機関では、基本的には患者選択はできず、来院した患者には保険での治療をすることが求められる。ただ患者が希望した場合のみ、一部の治療、例えば前歯の補綴物、インプラントなどは自費治療が可能となる。先ほど述べたレジン充填や歯内療法は、患者から拡大鏡を使った治療を希望しない限り、保険医療機関での自費治療は認められない。歯科医療法に触れる可能性もあり、ましてや親が歯科医とわかっていながら、こうした説明をするのは、勇気がある。さらに言うなら、虫歯治療、歯内療法にしても、拡大鏡を使い、時間をかけたからといって良い結果はでるとは限らない。こうした機器は、かなりレベルの高い治療を行う先生が、より高度な治療をするために必要なものであり、もともと治療レベルの低い先生がこうした機器を使ってうまくいくことはない。また治療時間についても、私の場合でも大学病院にいたときはマルチブラケット装置装着に2時間以上かかっていたが、今では30分ほどでできるし、昔より上達している。スピードは経験を積めば早くなる。
 保険治療には多くの制約があり、歯科医がもっとよりよい治療をしたという気持ちはわかる。また診療報酬が安すぎるというのも真実である。ただ今の診療報酬の数倍にせよと政府に言っても、それは現実的には無理であり、それじゃ自衛手段として自費を勧めるしかないと言われる。経営的にはそうなのだろう。そうなるとどうしても保険治療がなおざりになってしまいがちであり、逆にあまりやったこともない新しい治療を勧める。
 自費患者を誘導する手法は、実は昭和50年ころにもあり、当時は患者が非常に多く、忙しく、自費だったら治療してやるという感じであった。さらに前歯の審美的な保険治療は限局されていたため、自動的に自費治療として勧められた。その後、前歯の審美的な治療も保険導入されていき、歯科医院も増えたため、保険治療が一般的となった。ただここ10年ほど、歯科医院の増加、患者数の減少に伴い、たくさんの患者をみて稼ぐ保険診療手法ができなくなり、東京を中心に自費誘導型の歯科医院が増えた。
 40年前も、こうした風潮が大きくなりすぎ、社会問題となり、マスコミからパッシングされた。今後、問題が拡大すると同様にマルコミで叩かれ、厚労省が乗り出し、保険医停止などの脅しをかけ、収束させるだろう。虫歯が減り、患者数も減った状況で、その打開のために自費中心で、大規模、最新の医療設備を整えた歯科医院が増えている。40年前に同様の経営形態をしていた歯科医院が、今はほとんど絶滅したことを知らないのだろうか。私の知っている自費専門医も多くは、ほとんどわからないような場所でこじんまりと開業している。最小規模の歯科経営、これは保険中心、自費専門でも、最良の選択肢であることがわかっていない。


3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

地方では無免許の歯科助手が治療行為をしても特に問題にならないので、保険治療メインの薄利多売(歯科医師1人で、一日の患者数が30人以上、月の保険請求が30万点以上)が可能ですが、東京ではそうはいきません。(東京で歯科助手に治療行為をさせたら大変なことになります。)
更に、東京では予約時間に来院した患者を長々と待たせるということも厳禁です。
そうなると、Wブッキングなどはできず、一つの予約枠に患者一人という歯科大学付属病院のような診療形態になります。
歯科大学付属病院は歯科医師養成機関であり、いろいろな補助金があるので、赤字になっても維持できるでしょうが、一般開業歯科医院が歯科大学病院のような診療形態で保険診療をすれば間違いなく潰れます。
特に東京は、経費(テナント家賃、人件費、外注技工料)がべらぼうにかかるので、自費診療率を高めなければ生活していけません。
歯科医師過剰問題で、マスコミは「歯科医院はサバイバルのために患者の奪い合いをしている」と言い、患者も「保険診療で丁寧な治療をしてもらえる」「患者が歯科医院を選ぶ時代」と思っていますが、現実には真逆で「歯科医院が患者を選ぶ時代」になっています。
ハッキリ言うと、「東京では、とうの昔に歯科保険診療は崩壊している」と言っても過言ではないと思います。

広瀬寿秀 さんのコメント...

東京では、「保険では食っていかない」、「歯科医院が患者を選ぶ」ならば、自費専門歯科医院になるしかありませんね。
私も矯正歯科ですが、自費専門で22年やってきました。当初、2、3年はきつかったのですが、技術さえあれば、何とかなります。
臨床技術を磨いて、是非、自費専門歯科医院を目指してください。実際、東京では一般歯科でも多くの自費専門歯科医院が存在しますので、こうした先生と相談されたら、どうでしょうか。財政上、歯科診療報酬の大幅な増加は今後ともありえないでしょうし、レジン充填、エンド処置まで自費を勧められるくらい保険診療が崩壊しているなら、患者さんの側からすれば、だったらなぜ保険診療機関をうたうのかということになりますし、当然、厚労省も認めないでしょう。

匿名 さんのコメント...

私が言いたいのは、
「建前論は分かりますが、現実的には難しい。」
ということです。
また、
保険医療機関だとしても、歯科医師の裁量は認められるべきと考えています。