西山翠嶂の贋作 |
根本雪蓬の贋作 |
翠嶂の贋作 拡大 |
雪蓬の贋作 拡大 |
京都画壇を代表する文化勲章受章者、西山翠嶂の掛け軸については以前のブログにも書いた。オークションで購入した彼の作品は、かなり偽物の可能性が高いとしたが、今回、ほぼ同じ作品が根本雪蓬の作品としてオークションに出ていたので、偽物であることが確定した。
軸装はほぼ同じ、構図、絵もほとんど同じである。ただ細かく見ていくとススキや全体の縮尺が異なる。おそらくはもともと偽物作りを企画して、一枚の絵を描き、それを手本に手書きでコピーして偽物を作ったものと思われる。本物そっくりに巧藝画と言うものがある。これは作家の了解を得て、実際の作品を本物そっくりにコロタイプ多色印刷し、それに職人が手彩色して、作成したものである。複製画として楽しむのであるので、それはそれで問題ないのだが、本作品は同じ構図の絵を手書きでコピーし、それに署名、落款、そして箱を作ったのである。これでは巧藝画でなく、贋作である。
私も当初、印刷物を考えたが、画をよく見ると明らかな塗料の厚みがあるため、肉筆と判断した。ただ秋草の色が少し派手で違和感を持った。また西山翠嶂の署名や印もかなり研究しており、今回の根本雪蓬も同様である。同じ作品を多く出すとすぐに偽物と断定されるため、画風の近い作家の署名や印、さらには箱書きも含めて作ったのだろう。箱も二重箱になっており、かなり手が込んだ贋作で、少し骨董好きな客を騙そうとしたのであろう。手元に2018年に発行された“西山翠嶂 知られざる京都画壇の巨匠”(海の見える社美術館)がある。この本を見ると翠嶂の絵自体はもう少し精緻であるが、それでも商売用の作品としては、この秋草之図のような絵を描いても不思議ではない。
こうした贋作づくりの前提には、贋作を高く売って儲ける必要がでる。今回の絵にしても、まず誰かそこそこの日本画家に京風の雅な秋の情景を描いた下絵を書かせる必要があり、この絵の場合は、ススキの綺麗な線を描くのは技術がいる。これらの費用もかかる。さらにこの作品では西山翠翔と根本雪蓬の署名と印が入っているが、資料を集め、それを真似する必要がある。今のようなインターネットのない時代ではこれも大変である。こうした費用をかけて上、どの程度の製作したとかなると数部ぐらいではなかろうか。
日本画、それも掛け軸の偽物は非常に多く、円山応挙や谷文晁の絵の本物は100に一つくらいで、ほとんどは偽物である。一方、あまり有名でない作者の場合は、そもそも本物でも高くないので、その偽物を作る意味は少ない。ただこの絵、秋草之図あるいは武蔵野之図はまず2019年6月13日に出品し、35800円で落札され、その後、2019年6月27日に出品し、27060円で落札された。そして2019年12月22日に8000円スタートで始まったが、落札されず出品中である。そして西山翠嶂の名にした絵が出品されたのが2019年の7月頃なので、同時期に相次いでヤフオクに出品されたことになる。表装のコンデションなどから製作されて数十年は経っていると思われ、昭和にある時期、全国の骨董好きの金持ち相手に、同様な手口でこの絵を売ったのであろう。おそらく数十万円以上の価格で売りさばき、今でも騙されたと思っていない人がいるかもしれない。その一部がようやくネットに出てきたのだろう。現在では、こうした贋作情報もネットで出てくるために、費用をかけて贋作を作っても、なかなか価格がつかず、商売的には厳しい。これから贋作が多そうなのは、奈良美智や草間彌生などの現代絵画であるが、はっきり言ってこれらの作品はヤフオクにでることはなく、出ればほぼ100%偽物となる。
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