2020年3月11日水曜日

貨客船 はくおう を病院船に

医療モジュール

貨客船 はくおう


 横浜港に寄港したダイヤモンドプリンセ号の新型ウィルス対応については、船内で多くの感染者が出たことから疑問の声が多い。同様の事例であるアメリカのグランドプリンセス号では全乗客の下船を予定しており、その乗客は軍の施設で二週間隔離することになった。アメリカでは2000人以上の乗客を収容する軍の施設があるということだが、日本ではそうした施設があるのだろうか。

 今回のダイヤモンドプリンセスの対応では、自衛隊のチャーター船である“はくおう”が活躍した。“はくおう”は当初、武漢からのチャーター機乗客の隔離に使われることになっていたが、最終的には千葉のホテルでの隔離に決まった。そこで横浜港に回航、ここを拠点に自衛隊員がダイヤモンドプリンセスの船内の消毒、乗客の生活支援を行った。隊員は、万一の感染を恐れ、はくおうで生活した。ただ“はくおう”は17000トンの大型客船であるが、隊員相互の感染を防ぐために、客室を個室として活用しなくてはいけないために、80名の隊員しか宿泊できなかった。“はくおう”は、熊本震災では避難所生活の人への宿泊、食事、風呂などに活用され、最大500人の宿泊は可能だが、感染隔離となるとこうした客船も活用は難しい。

 “はくおう”は全長200m29.4ノットを誇る大型客船で、トラック122台、乗用車80台、515名の乗客を乗せることができる。陸上自衛隊の普通科連隊の大隊が定員805名、特科連隊の大隊が609名なので、ほぼ特科連隊の大隊規模の部隊が運べる。2014年の北海道演習では戦車、大砲、重機など130台が名古屋から送られたというから、その輸送力が半端でない。2014年から自衛隊のチャーター船として活躍していたが、主だったものでは、2016年の熊本地震では自衛隊員、車両、物資の運送に使われ、また一泊二日のホテルシップとして2600人の熊本市民が宿泊、食事、入浴のサービスを受けた。また2018年の中国地方の集中豪雨でも支援物質の運送や入浴サービス、ミニコンサートなどを行った。2018年の北海道胆振東部地震でも入浴支援などで活躍した。まだ海外への派遣はなく、また航続距離など不明であるが、東アジアの国くらいは高速でいけると思う。自衛隊は民間船のチャーターは双胴船の“ナンチャンワールド”とこの“はくおう”があるが、ここ六年の運行実績からすれば“はくおう”に方が使いやすいのだろう。海上自衛隊の補給船、輸送船に比べて設備が充実しており、一般市民の使用には向いている。最近では何か災害があれば、“はくおう”の出番となり、活躍している。

 今回の新型ウィルス問題から病院船のことが議論されているが、“はくおう”の医務室機能を拡大するか、ちょっとした手術や入院も可能な構造に改造するのが最も現実的な気がする。レストランや大浴場は避難民に活用されているが、サロンやスポーツジムなど災害時に活用されない空間を改造して、医療室を作り、病院船の機能も併せ持つようにできる。さらに後部甲板は一応ヘリポートとなっていてヘリコプターの離着陸はできるが、もう少し飛行甲板を広げれば、重症患者などを陸の病院に移送することが容易となる。もちろん戦時には兵士を戦場に輸送するだけでなく、負傷者の後送にも使われるためにこうした医療設備が必要となる。

 病院船については、議論も大事であるが、これまでの実績を考えると“はくおう”の改造が最も費用が安くて、使いやすと思われる。おそらく医療関係の設備はコンテナ型の医療モジュールで対応できるので、最低限の医療空間の確保、エレベーターの大型化(ストレッチャー対応)、階段の拡大、ヘリポートの大型化とそれに対応した通路などが大きな改造箇所となる。それほど大きな費用はかからず、またこうした設備は災害支援や自衛隊の演習などでも活用でき、ますます災害船としての活躍は期待できるし、できればその高速性を利用して海外での災害活動にも参加してほしい。トラックごと物品を運べることは物資の搬入の手間が省けるだけでなく、現地でもトラックですぐに救援物質を救援地へ運べる。また災害援助に必要なブルドーザーやクレーン車もそのまま運べる強みもある。他の大型カーフェリーについても、大災害時の緊急輸送や海外からの邦人避難などにも活用される可能性があり、そうした可能性も考えて、国も新造船には何らかの補助を出して、無線などの設備については非常事態に対応できるようにしてもらいたい。

0 件のコメント: