2022年7月3日日曜日

医療はサービス業?

 


最近の患者は、怖い。私のところでも、受付の応対、言葉つかいが少しでも悪いと、グーグルのクチコミに平気で✴一つをつけられる。やれ待ち時間が長い、説明が不十分だ、愛想が悪いと言われる。金を払っているんだから、もっとサービスをしろということのようだ。

 

他医院のグーグルのクチコミを見ても、一番多いのは、受付の応対がなっていない、待たされる、説明不足、診療時間が短いなどであり、要はサービス不足ということに尽きる。患者は医療をサービス業と考え、お金を払っているんだから、もっとお客さんには丁寧に対応をしろ、時間をかけて治療しろ、待たすなということであろう。若い人には、こうした考えが多い。

 

うちは父が歯科医院をしていたので、子供の頃から患者を見てきた。今では考えられないが、昔は医師、歯科医は患者を平気で怒っていたし、ひどい場合は、出て行けと怒鳴っていた。一度は在日朝鮮人の子供の患者にそうしたことを言ったのか、あとで、親が包丁を持って診療所に殴り込んできたこともあったし、ヤクザが受付で騒いでいたこともあったが、長い待ち時間であっても、怒られても、多くの患者は我慢していたようである。さらによく来る患者からはお中元、お歳暮は当たり前であった。

 

もちろん、患者を怒鳴りつけるような診療を今時していれば、患者から嫌われ、経営が成り立たないが、それでも当時は医療をサービス業と考える人はいなかったと思う。ところがここ20年ほど、医院数の増加に伴い、医院自体がサービス合戦を行うようになり、それに伴い患者が強くなった。飲食店など他のお店と同様に、お金を払っているのだから、受付の応対、待ち時間、診療内容などにクレームが来るようになった。調査によれば(平成6年厚生白書)20-40代では、医療をサービス業とみなす人が60%いて、その半分は「医療もサービス業で患者もお客として扱え」と思っている。この調査からすでに25年以上経っており、感覚的には40歳以下の人では、半数以上は「患者はお客として扱え」と思っているだろう。

 

日本の保険制度は、仮に10割負担の費用でも先進国の中では医師の治療費は安く、実際の窓口の支払いは、さらにその3割の負担しかなく、外国人からは羨ましがられる。患者が医療をサービス業とし、受付の丁寧な対応、説明、丁寧な治療を求める一方、医師、歯科医側からすれば、そう要求するならば、日本の保険制度を廃止し、アメリカのような制度にすべきというだろう。金は出したくないが、いいサービスを受けたいというのは資本主義国では矛盾した要求であり、そうしたサービスを要求するなら金を出せということか。アメリカでは虫垂炎の手術で500万円かかる。金がかかってもサービスがいい社会を望んでいるのか。あるいは北欧のような所得の70%が税金に取られるような社会を望んでいるのか、あるいはイギリスのように医療負担は少ないが、CT検査を受けるのまで半年かかる方が良いのか。アメリカと比較からすれば、日本の医療費は立ち食いそばの価格に匹敵し、そうした場所で一流のフランス料理店のサービスを求めるのはおかしいこととなる(立ち食い蕎麦屋にもサービスが悪いとクレームをいう人がいる)。

 

こうしたことを書くと批判を受けかねないが、ただ実際、多くの医師、歯科医にとって仕事を辞めたい、負担となっているのはまさしくこうした患者のクレームであり、グーグルでのクチコミやコメントなどでかなり傷ついており、医療に対するやる気をなくしているのも事実である。出来るだけ、患者のサービスに心がけているものの、あまり過度の要求は医師のやる気を削ぐことにつながる。特にグーグルのクチコミは、予約の電話対応だけで、医院自体の評価を1にする人がいる。電話応対はその医院のサービスのごく一部であり、実際に医院にもいかず、治療も受けていないので、電話の応対だけで医院を1の評価は厳しい。クチコミをした人に聞きたいが、もしあなたが誰かに電話して、会ったこともないし、見たこともない人に、「あなたの電話応対は非常識である」と全人格を否定され、「あなたは評価1の人間です」と言われて、平気であろうか。あるいはあなたの名前がネット上で公表され、キャンセルが多い、評価1とされても平気か。

 

最近は若くして診療をやめる先生が増えており、その理由として心身の不調がある。がんなどにより体調を崩した結果もあるが、意外に多いのは鬱など精神的な不調によるものが多く、青森県でも知っている先生だけで5人くらいいる。保険の指導などがきっかけになることもあるが、背景として患者からのクレームによることが多い。弘前と同規模のアメリカ、オハイオ州のデイトンという町の歯科医院40軒のグーグルのクチコミ平均は4.6であったが、弘前の歯科医院40軒の平均は3.5であった。アメリカではほぼ5点満点の評価をする場合が多く、不満があっても3、評価1はなかったが、日本では評価が1か5に分かれる。ちょっと嫌な社会である。


結局、評価1というのは、絶対に行くな、もはや存在するな、早く辞めろという恐ろしい評価であり、患者がそう思うなら、頑張って診療をしても無意味なので、こちらもやめますということになる。それで1という評価をする人の気がすむなら、早くやめたい。

 


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