2022年7月6日水曜日

口腔機能発達不全 ?

 

数年前から小児の口腔機能の発達不全に対する治療を行った場合、保険点数がつくようになった。具体的には18歳以下の口腔機能発達不全を認める患者に、正常な口腔機能の獲得を目的として医学管理や指導をした場合、小児口腔機能管理料100点がとれるようになった。

 

離乳完了後の小児の「口腔機能発達不全症」について具体的に述べると、咀嚼機能(歯の萌出の遅れ、咬合の異常、咀嚼に影響するう蝕がある、強くかみしめられない、咀嚼時間が長いあるいは短すぎる、偏咀嚼がある)、嚥下機能、食行動(食べる量、回数が多すぎたり少なすぎたりムラがある)、構音障害(構音に障害がある、口唇の閉鎖不全、口腔習癖がある、舌小帯に異常がある)のうち2つ以上に該当するものを「口腔機能発達不全症」と診断する。そして管理計画を立案し、患者(保護者)に同意を得てから訓練、指導を行い、改善が少ないか、ほとんどない場合は6ヶ月後に管理を中止する。他には小児口唇閉鎖力検査をおこなった場合は一回につき100点(3ヶ月に一回)、また写真撮影を初回時、その後は3ヶ月に一回以上行い、チェックシート、管理計画書、写真、指導記録、検査値などのコピーを患者に提供する。

 

口腔機能検査としては、口唇測定装置(りっぷるくん)、咬合力測定装置(デンタルプレスケール)、舌圧計(JMS)、咀嚼能率検査(グルコセンサー)などがあるが、小児の口腔機能不全の診断に用いられるのは口唇測定装置のみで、他の装置は装置そのものが高額で、100点の保険点数では合わない。他には鼻閉を調べるには鼻腔通気道計、咀嚼運動を調べる顎運動測定装置、筋電図などがある。こうした機能検査は色々あるが、いずれも小児を対象としたきちんとした研究はなく、その測定値についても必ずしも客観的なコンセンサスがあるわけではない。こうした機能については、何が異常、あるいは不全とするかは難しい。例えば50m走で見ると、学校6年生男子の平均値は8.8秒で、標準偏差が0.8秒である。一般的な異常値とは2SD以下、5%以下、この場合、50m走るのに10.4秒かかれば問題あると言うのか。医療的に問題あるのは、50mを走れない、歩けない人であり、仮に50m11秒で走っても医療的には問題ない。ここでの「口腔機能発達不全症」は、こうした意味ではかなりうさんくさいもので、脳性麻痺などの障害児に見られる摂食嚥下障害などと比較すれば、果たして“不全”と言えるほどのものか微妙である。

 

ただ保険での「口腔機能発達不全」に対する指導は、50m走の場合、フォームを修正する、あるいは練習方法を教えて少しでも早く走れるようにするくらいのものであり、あまり意味はない。機能チェックを口腔内写真で示すのは、こうした口腔機能発達不全が、開咬や交差咬合に繋がると言う理由からで、機能検査と言いながら機能検査の数値結果から判定していない。

 

ただここまでは、保険点数も100点、患者の支払いは300円なので、少し問題があれば、まあ指導してもらって損ではないが、問題はこうした機能不全を大げさに捉えて、それを自費収入にしている歯科医院があることである。矯正歯科の先生は、舌機能を中心とする機能的問題に昔から悩まされ、機能訓練など取り入れてきた。ところがこうした機能訓練だけで咬合が治るケースがほとんどないため、次第に指導は熱心ではなく、二次的なものとなった。まず形態を矯正装置でなおし、その後、途中で、機能訓練をする。矯正治療の基本治療費にこうした機能訓練料を含む。

 

最近、小児歯科を標榜する歯科医院で、既製品のマウスピースなどを使い、機能訓練に自費で、数十万円とるところが出てきた。開咬の一部が治ることがあっても、最終的にはマルチブラケット装置による仕上げの治療が必要なことが多い。ところがこうした歯科医院では、患者があまり熱心に練習をしてくれないと言った理由で、これ以上治らないと患者も放り出す。むしろ子供が真面目に練習する方が珍しい。機能訓練だけで、我々矯正歯科医が理想的と思える咬合になることは99%ないと断言できる。機能不全症と呼ばれるほどでないたいしたことないことを大げさに騒ぎ立て、それを治せば、咬合も良くなるような幻想を抱かせ、大金を払わせ、最終的に患者が指導に従わないとして、それ以上の治療を行わないのは、問題である。



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