2022年8月18日木曜日

インビザライン をする人への注意

 
日本矯正歯科学会からのお知らせ



あいも変わらず、インビザライン の問題が目立つ。先日も、成人反対咬合の患者が来院し、青森市のインビザラインで治療をしているところで相談したところ上顎の小臼歯を抜歯してインビザラインで治療するという。確かに外科的矯正をするほどのケースではないが、骨格性反対咬合では、基本的には非抜歯の治療、抜歯の場合も上顎は第二小臼歯、下顎は第一小臼歯、あるいは下顎の第一小臼歯の片顎抜歯も理論的にはあるが、上顎小臼歯のみの抜歯が外科的矯正の術前矯正以外はあり得ない。この症例は、上顎の叢生はあるが非抜歯で治療可能で、おそらくインビザラインでもゴムをうまく使えば治療可能であろう。ただ上顎の小臼歯抜歯では、治療はかなり難しい、あるいはできないであろう。検査を受ければ、治療方針を変更するだろうが、それでも担当医の診断能力は低いと言わざるを得ない。

 

矯正治療は、素人の一般歯科医は手を出すなというのが、多くの矯正歯科医の本音であり、あまりこうしたことを強く言うと反発されるので言わないだけである。少なくとも、大学病院矯正科、あるいは矯正専門医で3年以上の研修は必要であり、こうした基礎研修をした先生が一般歯科をしながら矯正歯科をするのは問題ない。基礎研修もなしで、講習会を受けただけで治療をすることが問題なのである。自分は大学に残っていないが、認定医に負けないほど勉強したし、実力もあると豪語する先生もいよう。一度、日本矯正歯科学会の臨床指導医の症例展示を見て欲しい。カテゴリーの違う10症例の提出を求められるが、同じような治療結果を提出できるか自問して欲しい。おそらく誰一人、合格できないであろう。これは外科治療で考えれば、すぐに理解できる。もし外科の基礎研修を受けていない医師がいて、この医師が胃がんの手術をした場合、他の外科専門医がどう思うのかということである。もちろんこうした先生に胃がんの手術を受ける患者はいないと思うが。

 

患者は、歯科にも専門性があるとはわかっていないようで、矯正治療をどこでも治療できると考えている。矯正歯科という看板を挙げているなら、それなりの研修を受けて治療もできると患者は思うようだ。これまで子供の矯正治療はするが、大人の矯正治療はしていないという歯科医院は多かった。リンガルアーチやチンキャップ、機能的矯正装置による治療を行い、ある程度まで良くなればと治療をした。ところがここ数年、インビザライン に代表されるアライナー矯正が登場すると、一般歯科でも成人の矯正治療をするケースも増えていき、それに伴うインビザライン による治療を行なったが、治らないといった相談が日本矯正歯科学会にも殺到し、先ごろ学会でも緊急の注意声明を出した。極めて異例の事態で、アライナー矯正の患者被害が多いことを物語っている。

 

実際、コロナ下で、マスクで口元を隠しているとかえって歯並びが気になるようで、3年ほど前から成人患者が急増した。ほぼ7割は軽度から中等度の叢生で、凸凹を取るなら簡単であるが、大部分は口元の突出も気になるようである。今年、当院で治療に入った60名くらいの成人患者でも、アライナー矯正の適用とされる軽度の叢生、非抜歯の症例は3名ほどで、他の症例は口元を後退するために、全て小臼歯を抜歯している。さらにこのうち5名ほどは、アライナー矯正をした経験がある、相談に行ったことがあるケースで、全て非抜歯での治療を勧められ、あるいは治療をした。ディスキング程度では絶対に標準値まで口元を後退できず、他の患者も、もしアライナー矯正をしたなら、ほとんど全ての患者は口元の前突に不満を持つに違いない。実際、鹿児島大学矯正歯科の同門会や日本臨床矯正歯科医会の会員アンケートでも、アライナー矯正をしている先生は多いが、適用はせいぜい全症例の10%程度、さらにほとんどのケースでワイヤー矯正を併用し、仕上げ、特に咬合の緊密性が甘いと言う回答が多かった。私はアライナー矯正をしていないが、実際にしている矯正専門医の印象である。

 

正直にいうと、小学生の矯正治療は、別に治らなくても、仕上げの治療で治れば良いと思うので、気がラクである。中学校、高校生の治療は、患者本人がそれほど仕上げに対する要求も強くなく、早く装置を外して欲しいと気持ちが強いため、これも気が楽である。さらにゴムを使ってくれない、歯磨きが悪くて装置を外すこともあり、治療結果の一部を患者の非協力のせいにもできる。一方、成人矯正については、要求も強く、細いところまで気にする人や、質問、疑問を強くぶつけてくる人も多く、神経を使う。稀に舌機能の問題などで、治療がうまくいかない場合は、患者協力がいいだけに、こちらの一方的な責任となり、謝るしかできない。本当に辛い。そのため、開業医の矯正専門医では、できるだけリスクを減らそうとする。外科的矯正の頻度が増え、30年前では、重度の反対咬合が適用であったが、最近では中程度の反対咬合、顔面非対称、重度の上顎前突にも適用が拡大され、出来るだけ、成人患者の不満を少なくしようとしている。以前なら下顎が後退した上顎前突では、なんとか上顎切歯を後退して改善したが、十分な口唇の閉鎖ができないため、最近では上顎前突、ANB10度を超えるケースは外科的矯正の適用にしている。このように成人の矯正治療は、子供、中学生、高校生の治療に比べて、精神的にもかなり気を使うため、インビザランだけで治療を行おうとする一般歯科の先生はよほど精神的にタフなのであろう。

 

どうしてもインビザライン で治療したい人は、1。“でこぼこも治したいし、口元が出ているのも治したい”とはっきりいうこと、2。セファロ写真を撮らない場合は、前歯の突出度を調べるのに必要なのになぜ撮影しないか尋ねること、3。セファロ分析で、非抜歯の治療でどれくらい歯および口元が引っ込むかシミレーションしてもらう。また“必要があれば歯を抜いてください”と言っておいた方が良い。後で文句を言っても歯を抜きたくないと言ったじゃないかと言われるからである。特に2については、横顔を撮影したセファロ写真は、矯正治療では必須の情報であり、この検査をしないでいきなり治療をしようとするところは100%やめた方がよい。多くの症例を見てきた私でも、セファロ分析なしで矯正治療はできないし、90万円といった高額な治療費をとって成人患者の矯正治療をするなら、セファロ撮影装置くらいは買えと言いたい。




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