2022年8月21日日曜日

子供の矯正治療は必要?

 



現在は、子供の矯正治療はしていないが、それまでは患者の3/418歳以下で、さらに一期治療の対象となる小学生の患者が半分くらいであった。つまり患者の半分が小学生、1/4くらいが中高校生、そして残りの1/4が成人という構成であった。

 

一期治療では、反対咬合では上顎骨前方牽引装置とセクショナルアーチによる被蓋の改善と上顎骨の前方への成長促進を狙った。上顎前突では、機能的矯正装置、主として佐藤式FKOか、ツインブロックによる下顎骨の成長促進を、稀にはユーティリティーアーチとヘッドギアによる上顎骨の成長抑制を行うことがある。叢生では、基本的には永久歯が完成するまで経過観察するが、これも稀には急速拡大装置あるいは拡大床とセクショナルアーチにより混合歯列で整列することもある。

 

ここからは私のあくまで長い臨床経験からの私見である。いわゆる理想咬合を治療の目標とした場合、一期治療のみでこの目標に達する確率は1/5くらいで、また患者の親がこの程度でいいと、来院しなくなる確率が1/3くらいで、実際に二期治療をする患者はほぼ半分くらいである。さらに一期治療で効果があり、二期治療はすごく簡単になった、あるいは抜歯しなくてすんだ症例は、その内のほぼ半分で、残りは二期治療の効果が少ないか意味なかった症例である。

 

不正咬合の種類別に見ると、反対咬合ではほぼほとんどの症例で、一期治療は効果があり、一期治療の効果がなく、手術になった症例はおそらく数パーセントくらいであった。成人の反対咬合患者の80%が手術の適用であり、それを考えると反対咬合の一期治療は意味があると思われる。また下顎骨が小さい上顎前突では、機能的矯正装置の効果があり、二期治療がいらなくなった、あるいは叢生のみの治療になった確率は半分程度で、残りはほとんど効果がなく、二期治療が主体となる。叢生については、叢生がひどい、あるいは切歯がもともと飛び出ている症例は、将来的に小臼歯の抜歯症例になるために、一期治療は何もしない症例が半分くらいいる。残りの1/4は拡大床や急速拡大装置により叢生が改善して二期治療が必要なくなったが、そして1/4は上の前歯を一期治療で、セクショナルアーチにより整列、リンガルアーチで保定しても、最終的に二期治療を必要とする、すなわち叢生の場合は一期治療で終了できる確率は1/4位と思う。すなわちこれはあくまで私感であるが、反対咬合ではほぼ100%は一期治療をした方がよいが、上顎前突では50%、叢生では25%しか効果がない。

 

子供、特に一期治療の対象者である小学生で、矯正治療を自分からしたいと子供はほとんどいない。子供にとって矯正治療は苦痛でしかない。ある知人は、小学生の6年間、ずっと下顎の成長抑制のためにチンキャップをしていたが、50歳になった今でも嫌な思い出だったという。またうちの衛生士の娘さんは子供のころ数年にわたり床矯正装置による治療を受け、友達から“入れ歯女”と言われ、からかわれた。歯磨きがひどく、ブラケット周りにう蝕ができることもあり、子供にとって矯正治療は基本的には嫌なもの、避けたいものと考えた方がよい。いくら親が早期治療の効果を説明しても、そんなものは子供には理解できず、結局は親のいうことをよく聞くかどうかにかかっている。

 

結局、子供の矯正治療は、親がするものであり、最終的にはあまり効果の少ないものを長期に使うことは考えものである。そのため反対咬合の上顎骨前方牽引措置や上顎前突の機能的矯正装置は、長くても2年間、効果がない、あるいは本人が使わなければ、すぐにやめるようにしている。叢生に関しては、床矯正や急速拡大装置で凸凹が治っても、口元で出ているということで、成人になって治療を希望する人が多く、上記のように叢生の早期治療の成功率は1/4だが、実際、口元の突出感も含めれば、もっと成功率は低いと思われる。

 

日本矯正歯科学会のガイドラインによれば、反対咬合に対する上顎骨前方牽引装置や上顎前突の機能的矯正装置、ヘッドギアの効果はエビデンスが少ない、すなわち治療してもあまり意味がないが、反対咬合の被蓋の改善はした方がよいということになっている。叢生については、まだガイドラインは出ていないが、おそらく早期治療には否定的な見解となろう。早く叢生の早期治療のガイドラインを発表して欲しいところである。ただアメリカでは、そもそも日本で行われている叢生の早期治療、床矯正、急速拡大装置などを使った小学生の治療はあまり行っておらず、ある意味、日本での子供の矯正治療、特に叢生の治療については、少し特殊である。

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