2022年9月23日金曜日

「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」 弘前レンガ倉庫美術館

 

明治初期 地図 レンガ倉庫美術館周辺、代官役所が堀越、和徳役所になっている

レンガ倉庫美術館周辺(1972)

明治2年弘前絵図 美術館周辺


弘前レンガ倉庫美術館に来た。65歳以上は無料ということもあり、開館以来、新しい展覧会があれば、見にいくようにしているが、正直に言って、あまり面白い、ウキウキするような企画はなかった。どうも美術館としてはサイズが小さいためか、あるいは映像や立体美術を主体とした展示のせいか、入場して、出るまでの時間が早い。ひどい企画となると入って、出るまで15分もかからない。現代美術が既成概念の打破を目指すのであれば、別に面白い、感動する、印象に残ると言ったものを作家は意識する必要はなく、そこに観客の眼を考慮することもない。ただこれはあくまで作家本人の言であり、美術館自体は、それをいかに一般市民の眼を意識して、面白くするかは重要で、その目的は入場者数で表される。

 

先日、青森県立美術館で「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」は、展示構成を建築家の田根剛がしていたが、展示方法が大胆で、かつカメラ撮影も許されていたので、多くの観客が盛んに写真を撮っていた。見応えのある展覧会で、何度もリピータする人もいる。電車で弘前に帰ったが、車中に新青森駅で降り、新幹線で帰る観光客数名がこの展覧会のグッズを持っていた。おそらく県外からこの展覧会をわざわざ見に来たのであろう。

 

弘前レンガ倉庫美術館で開催中の「もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?」奈良美智弘前2002-2006ドキュメント展」は、ようやく、おそらく初めて弘前らしい展覧会であった。これまで三回、弘前で行われた奈良さんの展覧会を見たが、その時の、雑然とした、おもちゃ箱をひっくり返したような、ウキウキ感は少ないが、それでもようやくという感がして、個人的には嬉しかった。同時に、当時のポスターや展示物などを見ると、既視感を強く感じ、あたかも20年前に戻ったような不思議な感覚を持った。建物は全くリニューアルされたが、そこに潜む建物の主のようなものが働きかけているのかもしれない。展示は来年の3月までなので、外が雪に時期に来れば、また印象は変わるかもしれないし、あるいは進化する展覧会を目指すなら、例えば、奈良さんの愛した古いレコードジャケットを展示している空間で、当時のレコードを古いオディオシステムで流す、あるいは一階の広いスペースで愛した映画上映会を開く、あるいは募集した若者の企画を実際に行うなども考えられる。

 

雪の季節であれば、広い芝生の敷地を生かし、子供達がプラスティックのソリで遊べるようなコースができないか、クリスマスに野外でフランス映画「ロシュフォールの恋人たち」の上映できないか、あるいは子供達や養護学校の生徒たちの作品も一緒に展示できないか、などいろんな取り組みが考えられる。そうした進化、発展する展覧会も面白そうである。

 

芸術には解説はいらないという人もいる。作品そのものを感じてもらえばよく、解説は必要ないと。一方、文字、あるいは解説も一種の芸術と考えるなら、文字の持つ意味を作品に反映させればよい。今回のレンガ倉庫美術館の展覧会では、文字情報が適切に活用されていて、それも面白かった理由である。県立美術館の「ミナ ペルホネン」でも最も観客の注目を浴びていたのは、皆川の服そのものを着ている人の感想を展示したエリアであり、服と人の関係を強く印象付けられた。今回の「もしもし、奈良さんの」でもボランティアで協力した人々の記念写真が多く展示されていたが、その中にも見知った人がいて、写真を見て、知った人を探すという行為自体が、この展覧会の弘前との結びつける強い要素となっている。実際、私のところの受付は、奈良さんと家が近く、同級生で、また私も一度、奈良さんが土手町の中土手魚菜センターで、何か買っているのを見たこともあり、テレビで喋る津軽弁とともに、身近な存在である。

 

会期も長いことから、企画展覧会ではあるが、中身をどんどん変えていって欲しい。今回の展覧会では、奈良さんの本格的な絵画作品は、高松市美術館の(milky lake)くらいであったが、できれば個人コレクションも含めて絵画作品をもっと見たい。会期の終わる来年の3月には、今の展示とは全く違うような内容となってくれることを期待したい。



リニューアル前





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