2022年11月5日土曜日

インビザライン ・ファーストについて

 



インビザラインを作っているアライナー社の株の暴落は、凄まじく全米の暴落率の堂々の第一位であった(二位はネットフリックス)。一時は600ドルだった株価も今は200ドルと1/3となり、66%の資本が逃げ出した。この会社は配当金がなく、株価の高騰を見越したファンドが投資していた企業なので、これ以上の成長が見込めないとすぐに投資家は逃げ出す。

 

もともと、インビザラインは、講習会の受講資格を矯正専門医のみとしていたが、売り上げが頭打ちとなると、そうした制限を撤廃し、一般歯科医向けにも講習会を開催し、売り上げを伸ばした。“パントモ買ってハワイに行こう”ではないが、“i-tero買って、自費収入伸ばそう”キャンペーンをはり、訳のわからない歯科経営セミナーもこうした風潮を後押しした。

 

ところがここ数年、受講資格を一般歯科医まで広げたことから、うまく治らない、転医したいという患者が増加し、こうしたインビザラインの問題点も浮き彫りにされてきた。さらにインビザラインは技工料の相当する製作費は20-30万円かかるため、患者の料金もいきおい80-90万円と高額となり、値段で言えば、通常の唇側のワイヤー矯正よりは高く、舌側矯正より少し安いくらいとなった。そうなると成人患者として仕上げに厳しくなり、凸凹が治っても、口元の突出感が治らなければクレームとなり、小臼歯を抜歯しても、直してほしいということになる。歯科医は、“私のポリシーとして、健康な歯は抜かない”などと言って、それ以上の診療を拒否する。そして矯正歯科医に泣きつくが、当然、こちらも抜歯してワイヤー矯正するので、料金は新患扱いとなる。

 

2、3年前からアライナー社はインビザラインの販路を広げるために混合歯列期の小児を対象としたインビザライン・ファーストという商品を売り出した。これは専門家からすると通常の成人用のインビザラインより、より悪質なもので、決してオススメしない。まず適用はというと、上顎切歯部のでこぼこと反対咬合が挙げられる。まず上顎切歯のでこぼこについては、あまりひどい場合は、上顎乳犬歯を抜歯して上顎第二乳臼歯にチューブをつけ、4切歯にブラケットをつける2×4という方法がある。4、5ヶ月間で整列し、リンガルアーチで保定する。ただ永久歯完成後に全ての歯にブラケットを装着する本格矯正が必ず必要となる。これだけで終わる症例は数少ない。また反対咬合の場合も、このシステムにIII級顎間ゴムを使ってほとんどの症例で2ヶ月以内に被蓋の改善を得られる。その後、私の場合はリンガルアーチタイプの上顎骨前方牽引装置に移行する。これをインビザライン・ファーストで治療するとなると、少なくともいずれも6ヶ月以上はかかると思われるし、子供が一日20時間以上使うのも難しい。おそらくかなり脱落者が出よう。ワイヤー矯正の場合はそうしたことはない。またインビザラインで治療する場合は技工料が高額なので、こうした早期治療費も勢い高くなり、40万円くらいするところが多い。ワイヤー矯正であれば、材料費は数千円で、矯正歯科医でこのインビザライン・ファーストを使うところはほとんどないと思う。

 

結局、インビザライン・ファーストを使う歯科医は、ほぼ一般歯科医に限られ、それもワイヤー矯正ができない、そうした時間がないという理由から患者にこの治療法を勧める。もちろん、将来的に小臼歯の抜歯と仕上げが必要な症例などには対処できない。まるまるこの40万円が捨て金になる確率は成人より高い。前歯にブラケットをつけてワイヤーを入れるだけの簡単な処置、通常20分くらいでできる矯正技術を学ぼうとせず、全てインビザラインで治療しようとする。もちろん、セファロ分析や小児の顎骨の成長発育などの矯正治療の基本も学ぼうとしないであろう。要は楽して儲けたいといった姿勢の現れであり、患者さんのことを考えれば、信頼できる矯正歯科医に紹介するか、安い費用で矯正治療をすべきである。

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