2023年4月6日木曜日

歯科医の引退

 






先日、診療終了後の6時半頃に近所を散歩していると、知人の歯科医とその診療所の前で会った。なんでも今日で、診療所を閉院するというこことであった。体の調子が悪いのかと聞いたが、特にそうした問題もないが、そろそろ引退かと思い、思い切って引退したようだ。私の診療所の壁には、20年ほど前に弘前市歯科医師会で作った市内の歯科医院の場所を示す地図がかかっている。閉院した歯科医院はその都度、サインペンで消しているが、すでに30件以上の歯科医院が閉院している。もちろん新たに開業した歯科医院も書き込んでいるが,せいぜい15件くらいで、閉院する歯科医院の方が多い。

 

一般企業では、60歳定年が80%65歳定年が16%くらいであり、近年、定年退職年齢は上がっているとはいえ、70歳まで働くとことはない。歯科医院では、こうした定年制度はないので、体が元気なうちは働こうという先生もいて、私の父も歯科医であったが、85歳まで現役で歯科医をしていたし、兄も70歳を過ぎてもまだまだ歯科医をしている。ただ弘前市の歯科医に聞いてみると、70歳で歯科医を辞めたという先生が多く、最近では65歳くらいで辞める先生もいる。とにかく老後の資金があれば、一刻も早く辞めたいという先生が多い。

 

私の友人の歯科医、多くは66歳前後であるが、皆会えば、早く辞めたいという。その理由を尋ねると、まず仕事がきつい、とりわけ患者との応対に苦労するという。具体的に言えば、患者からのクレームが多く、その対応に苦慮する。私のところの矯正歯科でも、患者さんからの治療へのクレームでへこたれることが多い。数は少ないのだが、それでもこうしたクレームがあると、つい早く引退したいと思ってしまう。昔はこうしたクレームがあってもそれほど落ち込まなかったが、年齢をとると、体力的な疲れ以上の、こうした気苦労によるストレスがきつい。子供の頃から父親の仕事を見ていると、朝9時から夜の10時まで働き、体力的にはきついとは思ったが、それほど患者からのクレームがなく、むしろお中元、お歳暮を送ってくる患者が多く、毎回20-30件あったし、それ以外にも患者さんからのお礼として作った野菜をくれたり、大相撲や野球のチケットをくれたり、一番驚いたのはロレックスの時計をくれた患者もいた。私の場合も、小児歯科にいた1980年頃は、修学旅行に行ったと言ってはお土産を買ってくれた子供がいたり、1985年から矯正歯科にいたときはお礼の現金を持ってくる患者がいて困ったことがあった。開業した1995年頃もまだ、患者からケーキやアイスの差し入れがあったが、ここ10年ほどはほとんどこうしたお礼もなくなった。別のお礼が欲しいわけではないが、こうした患者から医師、歯科医への感謝が実感として感じにくくなった。

 

矯正治療の場合は、自費で高額な費用がかかるために、お礼どころでないことはわかるが、保険を主体としている友人の歯科医でも、患者からお礼の品を受け取ることは少なくなり、一方、治療の方でうまくいかないとクレームが来ることが多い。作ってきた補綴物の適合が悪く、もう一度、再製作する場合があるが、わざわざ来たのに補綴物が入らないのはそちらの責任だから、ここまでの交通費を払えという患者がいる。こうした患者はもちろん例外的あるが、こうしたクレームが多いと歯科医、あるいは医師もだんだんやる気がなくなり、引退を考えるのは事実である。

 

近所の安くて美味しいレストランが閉店するという。残念だ、続けてほしい、閉店日には多くのお客でごった返す。テレビや新聞で毎日のようにこうした報道があるが、閉店を残念がる前に、どうしてその店で食べにいかなかったのか。みんながしょっちゅうそのレストランに食べに行き、いつも混雑して、収入も多ければ、息子も後を継ごうと思ったかもしれず、閉店しなくてもすんだかもしれない。同様に、歯科医院、医院も患者がクレームばかり言っていると、いつの間にか近所に歯科医院、医院がなくなったということになる。昔の人は料理がうまかったら、美味しかったと支払いの時に言っていたが、こうした言葉はお店の人や料理人にとっても気持ちのいいものである。食べログで、低評価をして、いろんな注文をつけるよりよほど建設的である。

 

弘前市内で言えば、後10年で、歯科医院は、20年前のほぼ半分になることが予想されており、郡部では無歯科医となるところも出てくる。最近の患者は医療を受ける場合、他の商売同様に金を払えば、それに見合うサービスを受けると割り切って考えている。別にそれは構わないが、逆に言えば医師、歯科医側も、無医地区になって、住民が困ってもそれは関係ないという理屈となるし、自費の患者と保険の患者では費用が違うのだからサービスにも差があって当然となる。これで本当にいいのか。


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