2023年5月25日木曜日

久しぶりにキリムについて


 
今は、こんなに良品を置いているお店はトルコにもイランにもないでしょう


今から25年前、一時、平織りのラグ、キリムに凝ったことがある。「モダンリビング」という雑誌があり、そこにキリムの特集があり、西宮の“アートコア”という店が紹介されていた。家を建てたので、そのインテリアアクセントということで、尼崎に帰省した折に、阪急夙川駅から歩いて、「アートコア」に行った。広いフローリングの部屋に、数多くのキリムが積まれ、それを一つずつ広げて、店主から作られた年代、場所などの説明を受けた。その中から、気に入ったイラン、ルリ族のキリムを買った。その後数年間、二枚のセネ、アフシャールなどのキリムを買ったが、次第に良いキリムがなくなり、値段も高くなってきたので、キリムをやめて絨毯、主としてコーカサスのものに変更した。

 

それ以来、ルリ族のキリムはリビングに、アフシャールのキリムは玄関に、セネの新しいのは娘にやり、古いのは壁に掛けている。20年間で、リビングのキリムはコーヒやジュースをこぼし、専門店でクリーニングしてもらったが、数箇所の破損が出てきた。玄関のキリムは本体の破損はないものの、フリンジが何本か取れている。壁にかけたセネのキリムはコンデションが一番良い。それに比べて絨毯については、ここ10年以上敷きっぱなしであるが、あまりダメージはなく、やはりキリムより絨毯の方がはるかに堅固である。平織りの敷布は、床に敷いて使うとどうしてもダメージがかかり、破れてくるのであろう。そうした点で、絨毯よりキリムの方が状態の良い古いものは残っていないことを意味する。

 

最近、業者がトルコやイランに直接出向いてキリムを購入するYoutubeが放送されていて、そこで何百枚のキリムが紹介されているが、新しいものが多く、キリムの教科書、「Kilim the complete guide」に載るような良いキリムはほとんどない。日本にある絨毯屋のYoutubeを見ても、とにかく古くて良いキリムはほとんどない。唯一、キリムズジャパや青山キリムハウスなど、昔からお店がある店にはコレクションピースとして優れたものがある。ただ値段は高い。おそらく昔収集したものを売っているだけで、今ではイラン、トルコ中を探してもこうした名品はない。アートコアの店長が、いいラグは欧米、イギリス、ドイツ、スイス、アメリカなどで購入すると言っていたが、おそらく1970年代から欧米の絨毯業者が、トルコ、イラン、コーカサスなどを訪れ、片っ端から優品を買い漁り、2000年くらいまでには、あらゆる良品はトルコ、イランからは姿を消したのであろう。もちろん2020年頃に行っても、自然染色の1950年以前のダメージの少ないものは全くないと思う。

 

キリムは靴のまま暮らす家で使われると、すぐに破れてしまうため、欧米に渡ったキリムもかなり消失しているのだろう。さらに残っているわずかな、優れたキリムを、欧米の業者からに日本の業者が仕入れても、それに利益を乗せると、かなり高くなり、売れないというジレンマとなる。2002年の発行された「キリムのある素敵な暮らし」に紹介されている、トルコ、イランの商品を見ても、すでにこうした良品は、現地にもないし、日本で売られていたとしても、これほどの品数を用意できないし、高い。

 


一方、Youtubeに登場するイラン、トルコの業者だけかも知れないが、ラグに関する知識があまりに少なく、せいぜい2030年前のキリムを平気でアンティーク(100年以上前)と紹介するし、産地についても知らない。ことに最近は、織り手の若い人の好みを反映して、人工染料で染めた原色の派手なキリムが多く、元々、欧米で古いキリムがインテリアグッズとなった理由、素朴、経年、色落ち、グラディエーションとは逆の方向にいっている。2000年頃から、もはやまともなキリムはトルコ、イラン現地にはないと言われていたが、2023年現在、それこそ現地に仕入れに言っても、オールドと呼ばれる1960年代のものは少ないし、確実の自然染料で染められた1930-1940年代以前のコンディションの良いものは多分、ほとんどないと思われる。

 

こうしたことから、2000年頃から、古くで良質なキリムの仕入れは難しくなり、時代に合った新作のキリムを企画して、販売するところが増えてきた。また昔のデザインをそのまま真似るコピー商品も多く出回るようになり、全く評価がつけにくくなっている。おそらく家にある1940年代のセネのキリムを近くのリサイクルショップに出しても1000円くらいの引き取りで、5000円くらいの売値になるか、そもそもラグの引き取りはなく、ゴミとして処分されるかもしれない。1998年頃からコーカサス、カラバフ地方で戦争が起こり、多くの避難民がトルコ、イランに逃げてきた。その際に金目のものとして持ってきたのが、古いラグで、この時は世界中の絨毯バイヤーが、これらの商品を狙ってイラン、トルコに集まった。欧米のコレクターにとって優れたキリム、絨毯を得る千載一遇のチャンスと感じたのだろう。案外、1950年ごろに中東に勤務あるいは、生活していた日本の家に古いラグがあり、靴を脱いで生活するため、コンディションのいいラグあるいはキリムが残っているかも知れない。トルコ、イランのお店で探すより、東京のリサイクルショップで探す方は良いラグが見つかるかも知れない。




       2002年の雑誌に載っていたオールドキリムだが、本場にもすでにないでしょう

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

私も20年以上前に自宅の新築にあたりアートコアでキリムを購入しました。
アートコアでネット検索したところこちらのブログに辿りつきました。
生活様式の変化で売却も視野に入れておりますが、価値の分からない業者に安価で買い叩かれるのはしのびなく、悩む日々です。
アートコアさんも閉店されたとのこと、時の流れを感じます。

広瀬寿秀 さんのコメント...

コメントとありがとうございます。こうした上質なお店がなくなり残念です。
私も、そろそろ断捨離の年齢で、キリム、ラグの処分を考えなくてはいけません。先日、診療所でつかっていたキリムを処分しようとしました。。おそらく普通のリサイクルショップでは1000−2000円くらいの引取り価格になると思い、懇意にしているおしゃれ系の中古家具屋さんに委託して販売するとキリム好きの方に売れました。残りのキリムは2人の娘に譲る予定です。

匿名 さんのコメント...

ご丁寧なお返事ありがとうございました。懇意のショップへ委託とは良いですね。
2枚のうち1枚はアンティークキリムの域に達しているものなので、1,000円と言われたら悲しすぎます…
価値のわかる方に引き継ぎできるように頑張ってみます。