2023年10月12日木曜日

最近の歯科医院の倒産とアライナー矯正の翳り


以前の歯科医院の倒産と言えば、せいぜい1億円程度の負債であったが、今年の9月末に倒産した「東京プラス歯科矯正歯科」の場合、全国に29店舗を展開し、2021年度の売り上げは863300万円という。主として「キレイライン」というマウスピース矯正を中心に売り上げを上げていたが、ただこのキレイラインは技工料が高く、利益率の高い自社製品「ホワイトライン矯正」に切り替えたが、来院患者が減少し、破産となった。

 

まず86億円という売り上げに驚く、いくら29店舗あるとはいえ、一軒あたりにすると3億円の売り上げはすごい。保険治療で、この売り上げをしようとすると、一日250人以上の患者を見ることになる。少なくとも歯科医10人、衛生士、助手、20名の規模であるが、とてもこれだけの集客は不可能である。経営母体の「友伸會」のホームページを見ると、マウスピース矯正とジルコニア治療に特化した歯科医院グループで、主としてこの二つの治療により売り上げを支えていたと推測される。実際のマウスピース矯正の値段を見てみると、4回の176000円から無制限の880000円まであるが、仙台で治療を受けた人によると、だいたい50万円くらいかかったという。ジルコニアのクラウン、インレーは1本、55000円で比較的安いが、口腔内にあるメタルの補綴物は全てジルコニアのクラウン、インレーに勧められたと思う。8本、治療すると44万円となる。例えば、一店舗で3億円の売り上げを矯正治療単独で達成しようとするなら、一人50万円なら年間600人に患者を見ることになる。もしこの患者数をワイヤー矯正で診るとなると、月1回の来院で、2年間かかるとすると、月の患者数は保定患者も入れると約1800人、月22日間診療すると、1日の患者は90人位となる。ワイヤー矯正の場合は、一人のドクターではほぼ不可能な数値である。この数値は、あくまでマウスピース矯正という手段があるためで、前述した仙台でキレイラインの治療を受けた患者によると、3、4ヶ月に一度、先生が5分くらい見て、あとは衛生士からPMTCなどのクリーニングを受けて次回のマウスピースを渡されて終了となる。これなら新人の歯科医でも一日20名程度の患者を見ることができるだろう。さらにこの数値を達成するためには、来院した全ての患者にマウスピース矯正を勧めたと思われる。マウスピース矯正は適用も拡大したとはいえ、全ての矯正治療をマウスピース矯正、それもキレイラインで治すのは無理であろうし、若い、経験の少ないドクターであれば尚更であり、患者との多くのトラブルを抱えていたのは容易に推測される。またアメリカでは、安くて、歯科医院に行かなくても治療ができる「Smile Direct Club」の売り上げが激減しており、株価もついに0.047ドルとなり、ナスダックから転落した。利益も4期連続赤字で、治らないという悪評による。これほどではないが、インビザラインを作るアライナー・テクノロジー社も株価は、2021.9725ドルを最高に、現在、277ドルで半分以下となり、収益は増えているものの、利益は1/5に下がっている。どうやらアライナー矯正(マウスピース矯正)自体が頭打ち状態である。

 

 

近年、こうした売り上げが桁違いの多い歯科医院が増えており、それに伴い、倒産額も多くなっているのだろう。そのツールは、ずばりインプラントとマウスピース矯正で、宣伝をバンバンして集客をして稼いでいるようだ。マウスピース矯正の場合、特にキレイラインでは、適用がかなり限られていて、例えば、当院にくる患者の多く、でこぼこで口元が突出しているケース、ほとんどは小臼歯を抜歯して、ワイヤー矯正で治すケースは、キレイラインでは治療できない。逆にいうと、東京プラス歯科矯正歯科のところでの治療は専門医からみると、かなり問題が多いと思われる。実際、他院でインビザラインの治療を2年間してうちに来た患者に聞くと、相談に行くとデジタル印象をして、セファロ写真なども撮らずに次回から治療が始まり、2ヶ月ごとに来院し、2年後、突如、手術が必要ですと言われたという。骨格性反対咬合の患者で下顎骨の前方、側方への過成長があり、インビザラインの適用でない。同じように、単純に並べただけで、前歯が開咬、前突感は全く治っておらず、再治療を希望して来院したケースもある。ドクターも次々に代わり、文句を言っても誰も責任を取らない仕組みになっている。それでいてGoogleなどの口コミサイトには、業者に頼んで、良い評価をするバイトを雇い、非常に高い評価となっている。宣伝が派手で、口コミ評価も高いとなると、多くの患者が来院し、その日のうちにデジタル印象をとり、術後のシミレーションを示して、契約させる。こういう流れで、多分、医院自体にもノルマがあったのだろう。最近、話題になっている実質〇円で矯正治療ができると宣伝し、お金だけ取って診療所を閉鎖して訴訟となっている「デンタルオフィースX」も基本的には同じ構造である。

 

ここ10年間、インプラントという武器ができ、さらにそれが陰りだすと、今度はマウスピース矯正が流行している。しばらくはこうした流れは続きそうだが、結果は患者の希望には沿わず、多くのマウスピース矯正は淘汰されていくだろう。またここ2年ほどは、マスクをしている間に矯正治療をしようとする患者が殺到する、いわゆる「コロナバブル」があったが、今年からは、普段の状態に戻り、うちのクリニックも昨年の半分くらいになった。旅行、食事、洋服など、矯正以外の出費も増えると、簡単で、手を出しやすいマウスピース矯正も急激に患者は減っていくだろう。「東京プラス歯科矯正歯科」の倒産もそれが原因で、同じようなチェーン展開しているところも、これからなくなっていくだろう。「キレイライン」、「hanarabi」、「Oh my teeth」などたくさんある同種のサービスも消えていきそうである。「キレイライン」の母体、“SheepMedical”の最新の企業情報(売り上げと利益)が分かれば動向がはっきりするが、誰か教えてください。



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

拝読しました。

以前友伸會に勤務していた歯科医師です。

自分が勤務していた頃、
キレイライン相談の受付はキレイライン社のサイトから行うようにされ、来院したら契約の有無に
関わらず一人X円(金額は申せませんが低額ではないと存じます)をキレイライン社に支払うシステムであったと記憶しています。

さらに月末には、各歯科医師ごとに、キレイライン矯正用来院者、成約者、成約率の一覧表が
各分院に送信され成約率が50%以下の歯科医師は青色表示されていました(笑)

一クリニック、歯科医師は原則一名でしたから新規顧客を獲得できたとしても日を重ねるごとに
既に獲得した顧客のフォローの負荷、とくにトラブル対応が激増するのは容易に想像できました。

今後は残存している友伸會のクリニックで既存の客のフォローを行うとHPに記載されていましたが
新規顧客獲得は期待できず、成約に伴うインセンティブ収入はほとんど期待できずフォローの負荷
は激増するでしょうからスタッフのモチベーションは急降下するでしょうし、スタッフを確保するのも容易ではないかと推察します。
今年度末にはどうなっているでしょうか。

友伸會現理事長の名前を見て大変驚きました。
驚いた理由は詳述できませんが、友伸會の仙台にご縁のあった先生ではなかったかと記憶しています。

長文失礼いたしました。

広瀬寿秀 さんのコメント...

コメントありがとうございます。矯正治療の欠点として治療期間の長さがありますが、アライナー矯正の場合、これで助かっている点があります。なかなか治らないケースでも、ドンドン治療期間を延ばしていきます。そのうち患者がギブアップして来なくなればラッキーというものです。問題の先送りです。あるいは奥歯、前歯の噛み合わせが、開いていて噛んでいないというクレームがきても、そのうちに噛んでくるといって逃げる方法もあります。患者、歯科医とも、こうした現状がわかってきたので、今後はこうした歯科医院なくなっていくと思います。
とくに今年は、コロナ矯正バブルの反動か、患者数が減っています。来年以降もそうでしょう。かなり倒産も増えるでしょう。