2023年10月26日木曜日

多様化する社会

 





 友人の歯科医が、最近、アメリカ、アトランタに行ったので、「何か“風と共に去りぬ、Gone with the wind”の関連施設を見ましたか」と聞いたところ、「“風と共に去りぬ”は何ですか」と言われ、驚いた。あれほどの名作映画を見たとこがない人がいるのは信じられなかった。家に帰り、家内に報告すると、家内も名前は知っているが、映画自体は見たことはないという。別の友人にも聞いたが、見たことはないようだし、私の二人の娘も多分、見たことはないだろう。ついでに家内はオードリヘップバーンの「マイフェアレディ」や「サウンドオブミュージック」も見たことははない。翌日、診療所の二人のスタッフに聞くと、一人はどれも見たことがないという。あの名作「風と共に去りぬ」を見たことがない人が周囲にこんなに多いとは知らなかった。

 

たまにうちの診療所に来る患者の中にも、矯正治療に保険が効かないのを知らない人がいて驚くが、「風と共に去りぬ」を知らない人がこんなに多いなら、矯正治療に保険が効かないことを知らなかったとしてもそれほど驚くことではない。本好きの人からは、本を読まない人が30%近くいるのは信じられないだろうし、私のような漫画好きの人からすれば、60歳代で月に2冊以上読む割合が5%以下、すわわち私のように5冊以上読む人は異常なのだろう。逆に子供の頃はあんなに夢中であったプロ野球でも、最近のWBCの日本メンバーのうち、大谷しか知らない私は信じられない人の一人なのだろう。それでもアメリカ人の知名度調査によれば、タイガーウッズの知名度が81%NFLのトム・フレディが77%NBAのレブロン・ジェームスが75%に対して、大谷の知名度は17%しかない。流石に日本人でもタイガーウッズは知っていても、レブロン・ジェームスはバスケットファンだけ、ましてやトム・フレディなどはほとんど知らないだろう。

 

こうして考えると、自分では常識と思っても、他人からすればおかしなことであることは数多くあり、同じように家庭での常識、職場での常識、あるいはもっと広い意味でいうと日本での常識というものは、ないと考えた方が良いのかもしれない。人というのは、つい自分を中心に考える傾向があり、それとは違った考えはおかしいと思うが、実際はその人自身がおかしいこともありうる。患者さんの中には、毎回遅刻、キャンセルする人がいて、非常識と怒ることがあるが、ADHDの傾向があり、アスペルガー症候群の人からすれば、これが常識なのかも知れない。

 

人を理解するというのは、みんな一人一人違っていて、育ってきた環境も違うし、性格、年齢、男女などの違いを認める、すなわちダイバーシティー、多様性を知ることになる。昨今、こうしたダイバーシティーを重視する考えが広まっているが、最初に述べたように、映画「風と共に去りぬ」を見たこともない人が周囲にもたくさんいる前提で、生活しなくてはいけないのだろう。ただこうした多様性をあまりに強調しすぎると、おかしなことになる。以前、郵便局で、男女か確認されたこともあるし、妻は反社かと確認されたことがある。そうした決まりなのだろうが、全てのお客さんに、あんたは男か女か、反社の人が確認するのは流石にやりすぎであろう。

 

以前は、若者と老人の考え方の違い、いわゆる世代差というのが、話題になり、「団塊の世代」、「バブル世代」、「ゆとり世代」という言葉も流行り、若い人の考えは全くわからない、新人類という言葉もあった。ところが最近では、こうした世代差より同世代の違いの方が大きく、同じ世代でも趣味、好み、考えは大きく違い、共通の話題、あるいはみんなが歌える曲というものがなくなってきている。おそらくは昔の方が、周囲に合わせる雰囲気が強く、みんなが見ているテレビ番組は見ていないと仲間はずれになるといった感覚が強かったせいかもしれない。ところが今では、ラインやツイッターなどのSNSの発達により、自分の考えや趣味とある友人を見つけ、一緒にいればよく、クラスの皆と合わせる必要もなくなったのであろう。こうした流れは、ますます多様化を強く進める結果となり、将来的には性別、人種を超えた社会になりそうで、これはこれで、ややこしい時代に入ろうとしている。


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