2023年12月10日日曜日

子供の矯正治療



今は子供の矯正治療をしていないので、全く何の束縛もなく、現時点での子供の矯正治療についての見解について考えてみたい。

 

多くの親にとって、歯科医から子供のうちから矯正治療をした方が、それも早くからした方が良いと言われ、治療を始める。ただ現時点の研究では、早期治療の効果はかなり限定的だといえよう。不正咬合別に考えてみる

 

1.反対咬合

反対咬合については、すでに日本矯正歯科学会のガイドラインが出されている。上下のアゴのずれがある骨格性反対咬合の代表的な治療法の一つに上顎骨前方牽引装置(MPA)と呼ばれる装置がある。リンガルアーチあるいは急速拡大装置などの固定式矯正装置を上の歯列につけ、ファイスマスクと呼ばれるお面のようなものを顔につけて、ゴムで上の歯列そのものを前に出してかみ合わせを治す治療法である。最近では上顎骨自体に矯正用アンカースクリューを打ち込み、上アゴ自体を前に出す治療法もある。ガイドラインによれば、初期の治療効果はあるものの、最終的には改善効果は少なくなる、つまり未治療の結果に近づくとしている(エビデンスレベル 中(B))。結論としては、患者に過度の負担をさせない範囲であれば、否定されるべき治療法でないとしている(弱い推奨)。下アゴの成長を抑えるチンキャップについてはもう少し厳しく、推奨なしに、また機能的矯正装置についてはエビデンスの質は低く(c)、弱い推奨としている。

結論としては反対咬合の早期治療については、MPAや機能的矯正装置で治療をしてもいいが、個人により治療効果は異なり、結局は成長終了後にマルチブラケット装置によるカモフラージュ治療あるいは外科手術を併用して外科的矯正の可能性がある。

 

2.上顎前突

上顎前突には、アゴの問題のある症例、上アゴに比べて下アゴが小さい、と上の前歯が飛び出ている症例がある。早期治療が必要なのは前者で、下あごが大きくなれば自然と前歯が出ているのが軽減できるので、マルチブラケット装置が必要なくなる。二つの方法がある、まず機能的矯正装置により下アゴの成長促進を狙う方法と、ヘッドギアーを併用し、上アゴを成長抑制させ、結果として下アゴを成長させる。ガイドラインによれば、機能的矯正装置については、グレードB(科学的根拠があり、行うように勧められる)となっているが、骨格系の改善への効果について科学的根拠はなく、否定的としている。ヘッドギアーによる治療でも同様である。

3.叢生

アゴの大きさに比べて歯が大きいとデコボコになるが、これを叢生(そうせい)という。これについてはまだ日本矯正歯科学会のガイドラインはないが、早期治療としては拡大治療がある。上下のアゴを横に広げて歯が並ぶスペースを作る。床矯正治療や上アゴの急速拡大装置を使ったものがある。結論は出ていて、犬歯間の拡大は後戻りして最初の幅になる。前歯部の2,mmのわずかなデコボコについては、拡大治療による治療は可能であるが、それ以上のデコボコについては安定しないとしている。さらに日本人に多い、上下の前歯が前に出ている上下顎前突を含めると非抜歯で治療可能なそうせいのケースはおそらく半分あるいは1/4以下であろう。

 

ちょっと難しい話になったが、子供の矯正治療については、早期治療(一期治療)をしたところで永久歯列完成後の仕上げの治療(二期治療、マルチブラケット装置)が必要な場合が多いということである。そのため、二期治療ができない歯科医で、早期治療をするのはやめた方が良い。通常矯正治療費は、例えば一期治療費が20万円、二期治療が20万円としよう。一期治療だけで終われば20万円だが、二期治療が必要な場合はさらに20万円、トータルで40万円となる。もし一般歯科で早期治療だけしかしておらず、その費用が20万円とする。二期治療が必要になっても治療できないので、他院で治療することになるが、その場合は、全くの新患扱いとなり、さらに40万円かかる。それを考えると最初から二期治療までしているところ、矯正歯科専門医で治療を受けた方が良い。ましてや一期治療だけで済まない場合が多いのでは。唯一、一般歯科での早期治療が推奨されるのは、料金が極めて安い場合のみである。

 

こうした一般歯科での矯正治療を否定すると、多くの一般歯科の先生から非難されるが、よく考えてほしい、早期治療の大きな目的が骨格性の反対咬合や上顎前突を治すことであり、これが治らなければ、骨格性反対咬合や上顎前突をマルチブラケット装置で治さないといけない。手術を併用した治療法や、抜歯、矯正用アンカースクリュなど多様なマルチブラケットテクニックが必要で、少なくとも日本矯正歯科学会の認定医のレベルでないと治療は無理である。一般歯科医では治せない症例である。

 

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