2023年12月18日月曜日

指揮官の実戦経験

 



山本五十六大将が亡くなったのは59歳、真珠湾攻撃を指揮した南雲忠一中将がサイパンで玉砕したのが57歳、インパール作戦を主導した牟田口廉也中将が第15軍司令官としてインパール作戦を立案、指揮したのが56歳、この時の南方軍総司令官の寺内寿一元帥が最高齢で65歳であった。終戦時、参謀総長、第一総軍司令官であった杉山元元帥が自決したのが65歳、旧軍の退官年齢(停限年齢)は、陸軍では少将で58歳、中将で62歳、大将で65歳、海軍では少将が56歳、中将が60歳、大将が65歳となっている。

 

本来戦争は多くの兵士の生死が関わるもので、その指揮官は、アレクサンダー大王、ジンギスカン、ナポレオンなどの世界史の残るような人物から日本の戦国時代、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康のような人物まで、数々の戦争を経験した戦上手な人によって戦われた。近代になると専門学校、士官学校が世界中にできて、プロの指導者を育成したが、実際の戦争指導となると、日露戦争の立見尚文大将のような戦場の嗅覚に優れた人が戦上手の名将と呼ばれた。問題は、戦争という非常時に、実戦経験豊かな優れた指導者をどれだけ揃えられるかということになる。ビルマ戦線では、牟田口廉也中将が第15軍司令官としてインパール作戦を立案、指揮した。この人物に10万人もの兵士の生死を任せた。結果は大失敗し、3万人の犠牲者が出たが、牟田口中将は1966年まで生きた。軍の規模で言うと、アレクサンダー大王、織田信長、徳川家康の軍と同等であり、かわいそうな言い方だが、牟田口廉也中将にアレクサンダー大王や織田信長に匹敵する能力があったのか。もちろん彼にはそんな軍事的な才能はなく、普通のおじさんである。彼の作戦に許可した上司、具体的に言えば、寺内寿一元帥の責任でもある。この元帥も親が首相、寺内正毅で、いわばボンボンである。育ちが良いだけで、ほとんど戦歴はない。さらに酷いのはノモンハン、ガダルカナルなど散々な作戦計画を提唱した辻政信大佐は、作戦の神様と称せられたが、ほとんど実戦経験はない。こうした普通のおじさん、金持ちのボンボン、頭でっかちの見栄っ張り、などが戦争を指導したのが、太平洋戦争で、怖い話である。

 

まず日露戦争で日本がロシアに勝利したのは、戊辰戦争での戦争経験が大きい。この戦争で作戦に従事し、その戦歴から上の地位に昇進し、日露戦争では指導者として活躍した。実際の戦いの経験が数万の兵士を指揮するのに役立つ。例えば、立見尚文中将は桑名藩の雷神隊の隊長としてゲリラ戦に従事し、西南戦争では大隊を指揮、そして日清戦争では旅団長、日露戦争では師団長として黒溝台会戦で活躍した。常に実戦の中にいた将軍である。同じく野津道貫大将も鳥羽伏見の戦いから、会津戦争、箱館戦争と参戦し、西南戦争では旅団参謀として、日清、日露戦争に参戦している。実際に立見も野津も自ら実戦に参加して、戦っており、その戦功により出世していった。これが戦国時代からの戦争のプロのあり方であった。ところが太平洋戦争では、士官学校、大学校を優秀な成績で卒業した軍人が階級を上げて、参戦した。戦功ではなく、成績で昇進した。太平洋戦争に参戦した日本軍の指揮官(大将)で実戦経験のあるのは、海軍では山本五十六大将、及川古志郎大将、塩沢幸一大将、吉田善吾大将、陸軍では岡本寧次大将、多田駿大将、板垣征四郎大将、杉山元元帥くらいである。

 

それに引き換えアメリカ陸軍の将官について調べると、パットン大将は米墨戦争を皮切りに、第一次世界大戦の戦歴を経て、第二次世界大戦に参戦した。同様にマッカサー元帥は、メキシコ革命におけるベラクルス占領に参加し、その後、第一次世界大戦では二回負傷し、15の勲章をもらった。イギリス軍の名将、モンゴメリー元帥も、第一次世界大戦に参戦し、肺と膝を撃ち抜かれる怪我をし、勲章をもらったし、インパール作戦の寺内元帥に対応するインド駐留軍司令官、ウェーヴェル元帥も第一次世界大戦では片目を失い、アラブ人反乱の鎮圧に参戦し、第二次世界大戦に入った。いずれも第二次世界大戦が初めての参戦ではなかった。

 

欧米では第一世界大戦(1914-1918)を経験した将校がそのまま第二次世界大戦に将軍として参戦したが、日本では日露戦争(1904-1905)を経験した将校の多くは太平洋戦争ではすでに退役しており、実戦経験のない多くの将軍が参戦した。日本軍で唯一、第一次世界大戦に参加したのはマルタ島での連合国艦艇の護衛任務で、日本海軍からは山口多聞中将や田中頼三中将が参加し、いずれも優れた指揮官となる。この10年の差が結局、太平洋戦争の勝敗の差になったのかもしれない。

 

おそらくの話ではあるが、今、行われているウクライナ戦争においても、各国は秘密裏に有能な士官を送り込み、実際の戦争を体験させていると思う。武器供与には、それを指導する兵士も必要で、各国はそれを口実に優秀な士官をウクライナに派遣し、実際の戦争を経験していると思う。平和主義者からすれば、ひどい話であるが、軍隊というのは経験値が必要である。太平洋戦争以来、全く実戦経験のない自衛隊に日本の防衛を任せるのであれば、将来的に自衛隊の指揮官になる人物には、是非ともウクライナ戦争を経験してほしい。

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