2026年1月7日水曜日

宮越家の襖絵

 



中泊町の宮越家の襖絵が話題になっている。中泊の旧家、宮越家の9代目の宮越正治が収集したコレクションの中で花鳥図と言われる襖絵が研究者の指摘で、大英博物館に秋冬花鳥画の対の作品で、非常に貴重な芸術品とされた。これまでお宝とは無縁の町としてはこのニュースにびっくりして、その保存法、展示法にてんてこ舞いである。嬉しい発見である。さらに同家に伝わる、他の襖絵、竹図、風俗山水図も桃山―江戸初期の貴重な絵画ということも判明した。

 

当初は、竹図は狩野常信、風俗山水図は岩佐又兵衛、花鳥図は狩野山楽というビックネームの作家の絵とされていたが、最近の研究ではこれらの襖絵は狩野派の狩野重信の作とされている。狩野重信については、狩野永徳の弟、狩野宗秀の門人とされているが、それほど有名画家ではない。狩野永徳の作品は国宝、重要文化財が多く、また宗秀の作品についても国宝こそないが、重要文化財が3つあるのに対して、重信でいえば、福岡市指定文化財が一点あるのみで、評価としてもこの程度と考えて良い。

 

大英博物館に所蔵されているということは、全く評価とは関係ない話で、大英博物館の日本芸術品の多くは明治時代にイギリスのコレクターが集めた日本美術で、それらが博物館に寄贈された。一括しての寄贈であるので、それほど評価されていない作家の作品も混じっているというか、むしろそれらの方が多い。以前のブログでも書いた私がシンシナティー美術品に寄贈した香川芳園の作品も大英博物館にある。

 

こうした古い絵は大変高いように思われるが、実際はそうではない。まず日本では、日本間、床の間が急速になくなり、そこに飾る掛け軸が不人気となった。そのため、ヤフーオークションなどでは信じられないような安値で売られている。さすがに桃山、江戸初期のものは少ないが、有名作家でなければ、江戸中期のものでも本物が1万円以下で購入できる。こうした掛け軸の日本画以上に不人気なのは屏風絵で、これは大きいため処分に一番困るものである。オークションで見事な作品が驚くほど安値で売っているが、いざ購入しようにもどこに置くかという点が問題となる。掛け軸であれば、箱に入れて保存すれば、それほど場所はとらない。それでも屏風はまだ畳めるが、さらに売れないのが襖絵である。これは襖のサイズが今と違うし、そもそも襖絵を飾るような家は日本には少ない。ましてや日本で最も金持ちの多い東京でも、家の大きさから襖絵を個人で購入する人は少ない。となれば、日本で購入するには、個人のコレクターというより美術館に限られ、ここも予算と収納スペースがないことから、寄贈のみ受け付ける場合が多い。それ以外となれば海外の美術館、日本美術コレクターが購入者となろう。2010年に京都竜安寺が明治の廃仏毀釈で手放した狩野派の襖絵6面をクリスティーズで落札し、買い戻したが、その時の価格は手数料込みで86500ドル(1300万円)であった。こうした例は珍しい。宮越正治は大正10年に、今に伝わる花鳥図と風俗山水図を千七百円で落札し、さらに千数百万円をかけて修復したとあり、大正10年頃の一円の価値を今の3000円とすると、落札価格は510万円くらいとなり、さらに500万円の修復費ということになる。

 

そもそも屏風、襖絵については、美術商のお客は美術館に限られる。個人で襖絵を買うような人は日本ではほとんどいない。宮越家の襖絵についてもこれだけ話題にならず、個人への売買となるとかなり安い評価であった。さらに個人で襖絵を管理するのはかなり難しく、今後、文化財指定は書類を出せば得られるだろうが、莫大な修復費については町、県、国による援助はなく、個人負担となる。弘前市の最勝院の仁王像の修復には3300万円かかり、その費用の一部はクラウドファンドで集めた。おそらく襖絵の修復費も相当かかると思わる。周りは騒ぐが当事者にとっては保管には修理も必要で、それには莫大な金がかかり重荷となる。今回のように話題にならなければ、襖絵の需要は驚くほど小さく、かなり安い評価しかなかったが、今、売れば話題性もあり、サザビースやクリスティーズでも取り上げてくれそうで、修復費も考えれば、高値で売り払った方がよい。二、三十年前なら二束三文であったが、今回の騒動はいいチャンスで、莫大な修復費を考えれば、そのままオークションに出すのが賢明であろう。作品にとっては、きちんと修復され、室温、湿度も一定の美術館で管理されるのが一番よい。

0 件のコメント: