2022年12月1日木曜日

外科的矯正が増えた

 




ここ数年の傾向としては、手術を併用した矯正治療、外科的矯正治療が増加している。私の診療所は、比較的、外科的矯正患者の多いところで、年間10-15症例、この27年間で350症例以上の患者をみている。内訳をみると下あごが大きく、かみ合わせが逆になっている骨格性反対咬合の症例がほぼ70%(開咬も含む)、あごがずれている顔面非対称の症例が20%、下あごが小さい骨格性上顎前突の症例が10%程度である。成人で“かみ合わせが逆”という患者のほぼ80%は外科的矯正となり、残りの20%が歯の移動のみで改善する症例となる。

 

上下のあごの前後的、水平的なズレがある場合、原理からいえば、全て外科的矯正の対象となるが、程度の大小で、歯の移動の方が良いから、顎の手術をしないと治らないという重度の症例の間に、ボーダーライン症例が存在する。このボーダーラインをどうするかによって診療所の外科的矯正の数が決まる。私のところは、研修を受けた東北大学でも鹿児島大学でも積極的に外科矯正を行う方針のところなので、自然と外科的矯正を選択するが、大学によってはいまだに歯の移動により、どうしても治らない症例だけを外科的矯正にするところもあり、教育を受けた大学で、手術を併用するかどうか、かなり判断が異なる。

 

ただ最近の患者は、以前より口元への要求が大きく、単に歯並びだけでなく、口元、顔全体を変えて欲しいという要求が強い。中には咬合は正常であるが、下あごが出ている、ずれているのを主訴として来院する患者もいる。下あごが大きく、多少ずれていても歯の代償的な移動で、綺麗に咬んでいることもあり、これを治すには、一旦きれいな歯並びを崩して、例えば反対咬合にしてから手術を受けることになる。あまり積極的にはこうした治療は勧めないが、それでもどうしてもということで治療した症例もある。

 

また私たち、矯正歯科医からすれば、成人の反対咬合については外科的矯正も仕方ないと考えていたが、前歯が出っ歯になっている上顎前突、あるいは前歯の真ん中がずれている顔面非対称の症例については積極的には外科矯正を勧めてこなかった。ところが最近では、患者の要望も強く、また歯の移動だけではどうしても限界があること、安定性に欠ける、仕上げも妥協的になることから、外科的矯正を選択することが多くなった。とりわけ上顎前突については、開業した1995年から2015年の20年でわずか5例ほどしか、外科的矯正をしていなかったが、ここ7年くらいで20例近くになっている。上顎前突の症例でも重度になると、中心位と中心咬合位のずれが大きい症例が多くなり、慎重にかみ合わせを調べると、中心位と中心咬合位のずれが5mm以上の症例も珍しくない。オーバージェットが7mmであったと思われる症例の実際のオーバージェットは12mmということになる。流石に12mm以上のオーバージェットを歯の移動だけで改善するのは難しく、外科的矯正の適用となる。

 

かっては上顎前突に対する外科的矯正は白人だけ、日本人の女性は少しあごが小さい方が好まれるので、手術を希望しない、歯の移動だけで十分に改善できるとされていた。ただよく考えれば、骨格的なズレも正規分布を呈し、反対咬合となる、下あごが過度に大きい症例と同数、下あごが過度に小さい上顎前突の症例が存在し、外科的矯正の数が、反対咬合は70%、上顎前突は10%という構成にはならないはずである。当然、成人反対咬合に対する外科的矯正の適用を考えると、上顎前突に対する外科的矯正の適用も増えていくはずである。

 

反対咬合の場合、補償作用として上顎切歯の唇側傾斜と下顎切歯の舌側傾斜のため、上顎は第一小臼歯の抜歯、下顎は非抜歯(第三大臼歯は抜歯)となり、大臼歯はII級にすることが90%くらいであるが、上顎前突の場合は、補償作用として下顎切歯はほぼ唇側傾斜しているが、上顎切歯も唇側傾斜していることも多く、おそらく口唇を咬む癖による、この場合は、上下第一小臼歯の抜歯、上顎切歯があまり唇側傾斜していない場合は、下の第一小臼歯のみの抜歯で、臼歯関係はIII級にするようにしている。また上顎前突の場合は、下顎の前方移動だけでは、期待したオトガイの突出が得られないので、ほぼ100%、オトガイ形成術も併用する。

 

ただ重度の上顎前突患者では、下顎頭の変形を起こしている症例も多く、このうち多くの症例では関節円板の前方転位を起こしているとの報告もあり、関節の保護の観点から外科的矯正の適否も検討しなくてはいけない。

 



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