2008年1月1日火曜日

土佐光貞???掛け軸




 お正月はこの絵を床の間に飾っています。うちの祖父が戦前に買ったもので、伊勢物語の東下りの場面です。土佐派ではこのような画題は多く描かれ、構図もだいたい似ています。「業平東下りの図」として伊万里のお皿や浮世絵などにも描かれるほど有名な場面です。業平が失恋して都を追われ、東国の境とされる駿府に来て、都から遠ざかった心情を富士を仰ぎ見て、嘆くところです。

 この掛け軸のおもしろいのは、箱に入っている鑑定書?で、そこには徳川光貞の絵だと書かれています。紀州徳川家、8代将軍吉宗の父にあたるひとです。そんなことはあり得ず、落款も「画所領土佐守光貞」となっていますので、当然土佐光貞はずです。また鑑定者は「芳翠」となっていますが、これも調べると明治近代洋画家の山本芳翠に当たります。芳翠がそもそも鑑定するはずもなく、また土佐派のなかでも光貞(1738-1806)は名手と呼ばれ、人気があったようですので、土佐を徳川に間違えるわけもありません。まったくのでたらめです。したがってこの絵も贋作ということになります。手元にある落款辞典で調べても、落款は微妙に違っているようです。また箱書きもなく、表装も貧相です。

 「開運なんでも鑑定団」という番組を見ても、掛け軸は10のうち9は偽物で、昭和の初期に景気の良かった祖父が骨董屋からだまされて買ったようです。何点かの掛け軸が家に残っていますが、ほとんどは偽物と思います。おそらく素人には土佐光貞という名前より、徳川の名前の方が売れると思い、鑑定書をつけたのでしょう。

 偽物としても手が込んでおり、結構うまい絵です。従者の白と赤、業平の青の着物、馬の赤の飾り、草木の緑のコントラストがきれいです。また業平の顔もうまくかけており、高貴な表情が感じられます。土佐派の典型的な絵で、正月に飾る絵としてはふさわしいものと思います。まあ贋作とはいえ床の間のすわりはよいようです。かって富岡鉄斎の絵は「床うつりが悪い」、「床の間であばれる」と評されていたようですが、橋本雅邦の絵や土佐派の絵はきれいでもう少し評価されてもいいかもしれません。偽物の是非は金に換えるかによります。自分で気に入っていたものであれば、たとえ偽物でも部屋に飾り、楽しめばよいと思います。近くのデパートで新春掛け軸展が行われていましたが、薄っぺらい今の絵より、偽物でも祖父が愛したという点でもこの絵の方が好きです。

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