2015年7月26日日曜日

矯正歯科と特定商法取引法

 消費者庁から特定商法取引法に関するヒアリングを受けたことが日本矯正歯科学会のインフォメーションレターで報告されていました(Information Letter J June,2015).矯正治療費を全納したが、転院後矯正料金の返却に応じてもらいない等のクレームが消費者センターや消費者庁に多く寄せられ、エステなどの美容医療契約同様に、HPなどの広告規制を強化した特定商取引法の適用になるかもしれないというものです。こうした議論は、従来から美容整形で大きな問題となっており、その流れで、矯正歯科に来たようです。

 HPで調べると、東京の歯科医院が『9才以下の矯正20万円でお受けします!(特殊な症例は除きます)」、「初診料3,000円、検査診断料30,000円、管理料がかかります。」、「管理料は毎月3,000~5,000円です。」及び「今回、早い時期の9 迄のお子様に限り、20万円でお受け致します。」と記載することにより、あたかも、9歳以下の患者については、矯正治療に係る料金、初診料及び検査診 断料として記載された合計233,000円の料金並びに管理料として記載された料金を支払うだけで対象役務の提供を受けることができるかのように表示していた。』とうたい、これが景品表示法に違反する行為と認められようです。そして、この旨を一般消費者へ周知徹底し、今後同様な表示を行わないことになりました。このケースの場合、20万円以外に保定装置料32500円をとったことが問題となりました。
 これはHPでの広告の問題ですが、一番多いクレームは、転医時の料金の返却問題です。矯正治療の場合、毎回の調整料の他、基本治療と呼ばれるまとまった額の料金が設定されています。医院によっては、最初の段階で全額納入するようになっていますが、急な転居で通院できなくなり、治療方針に疑問があって転医となった場合、料金の返金がなかったり、額が少ないためクレームとなります。税務上、最初の契約時に収入とみなされるため、治療開始前に全納するように言われます(実際はそうではありませんが)。急な転医は、患者の勝手であり、その責任は持てないというのが医院側の論理ですが、一旦入金された金を払い戻したくないというのが、どうも本音のようです。

 日本臨床矯正歯科医会では、こうした問題に対して20年前から、治療経過に準じて返金する制度をとっています。最初の不正咬合の状態から治療終了の状態までの過程において、現在どの段階かを判断し、その段階に応じて返金します。基本治療費が40万円とし、半分治療が終了した時点で転医となった場合は、20万円の返金となります。こうした入金、返金額は紹介状、資料と一緒に転医先の医院に送られ、そこで継続の費用が決められます。これまで多くの患者を転医し、逆に紹介されましたが、ほとんどの先生は実際の段階より低く査定して返金額を多くし、転医先では返金額が少なくても、その金額で治療を継続することが多いようです(地方から東京の場合、基本治療費が2倍になることがあります)。こうしたシステムは、患者にとってもドクターにとってもわかりやすく、トラブルも少ないように思えます。日本矯正歯科学会でも、正式には転医システムについては決めていませんが、会員にはこうした方法をとるように勧めています。

 転医でのトラブルは、先生方が返金ということに慣れていないせいもありますが、システム自体があまり知られていないことも原因です。以前、県内の歯科医院から転医された患者から返金がないと相談を受けました。相手側に転医システムについての資料を送ったところ、制度を知らなくて、申し訳ありませんと、快く返金をしてもらえました。こうしたこともあり、数年前、青森歯科医師会報に主として日本臨床矯正歯科医会の転医システムについて解説しました。

 今はどうなっているか知りませんが、以前は国立大学歯学部矯正科では矯正料金の指標がありましたが、基本的には返金できない制度でした。国庫に一旦収められた金は返金できないということでした。今は厚労省、文科省の話し合いで返金できるようになったのでしょうか。これがクリアーできなければ、学会の中心となる大学病院が転医システムに背くことになります。またアメリカでも返金はないようですが、一般的には治療予定期間を2年とすると、24回に分割して払う、あるいは治療前、中、後の三分割して払うシステムになっています。日本臨床矯正歯科医会でも、先生が万一、死亡することもあり、こうした分割徴収を勧めています。

 転医に関しては、返金も重要ですが、その後のスムーズな治療の継続も大事です。実際、転医しようと思っても、担当医から「転居先に知り合いの先生がいない。自分で探してください」と言われますが、素人の患者がなかなかいい先生を見つけることは難しいと思います。知っている先生がいなければ、HPで調べれば簡単に転居先の適切な矯正専門医が見つかるはずですので、担当医の怠慢でしょう。というか歯科医はあまり社会性がなく、全く面識のない先生にいきなり、電話をするのができないようです。先日も合宿先の弘前でワイヤーが外れたとの電話がありましたが、できましたら担当の先生から連絡してほしいと頼んだところ、それっきりでした。面識のない私に電話するのをためらったのでしょう。患者には悪いことをしたと反省しています。そのまま診療して、結果を後で担当医に報告すればよかったと思います。

 矯正歯科はエステなどと違い、医療であり、また治療期間がきわめて長いという特徴があり、特定商取引法の適用になるのはかなり大きな問題を含みます。エステ、パソコン教室、英会話などは、客の希望でクリーンオフすればそれで済みますが、矯正治療では装置が入っているため、中断しても、どこかで治療を必ず継続しなくてはいけません。こういった点では、同じ医療分野、美容整形では手術は単独で完結するため、治療の継続という流れは一般的ではありません。クリーンオフによる転医では、患者は新たな歯科医院を自分で探し、そこで新たな契約をすることになります。上述したような治療の継続ではなく、中断、新規となるわけです。当然、転医先の歯科医院では、治療段階にそった値引きということはありませんし、これまでの治療経過、資料を報告する義務もありません。結果的には、いくら返金があったとはいえ、かえって治療費が高くなり、治療期間も長くなることになります。できれば学会サイドできちんとした倫理規定、転医システムをつくって、会員(一般歯科医を含む)に周知してほしいところです。そして特定商取引法ではなく、倫理感、あるいは医院防衛(裁判、ネットでの評判)から普及してもらいたいと思います。システム自体は、すでに実績のある日本臨床矯正歯科医会のそれがありますので、それをたたき台として、厚労省、消費者庁、日本歯科医師会など関連団体と協議して、作れると思います。ただ大学病院が未だ返金システムがないようであれば、これは非常に問題がありますので、併せて早急に整備してほしいと思います。

 こうした問題は、美容整形では大きなトラブルとなっており、いくら学会で倫理規定を設けても、それに従わない先生もいますし、矯正歯科では学会に入会していない先生も多くいますので、最終的には矯正治療を受ける場合は、こういった点をよく考慮して、自己防衛をすることが最も大事と思われます。
転医に関しては次のことに注意してほしい。

1.      矯正治療は緊急性がないので、すぐに治療を開始しない。数件の歯科医院で相談し、納得して治療を始める。
2.      転医システム(紹介先、料金の返金)について、今のところ可能性はなくても、くわしく聞いておく。
3.      転医は治療責任、費用の点でもできるだけ避けるべきで、そうした点では高校2年生、3年生、あるいは大学3年生、4年生からの治療は、転医の可能性があるため、やめた方がよい。
4.      転医の可能性が少しでもある場合、舌側矯正、マウスピース矯正(インビザラインなど)など特殊な治療法は避けた方がよい。転医先が見つけにくい。
5.      検査資料(セファロ、パントモ、模型など)がきちんと揃っていない場合は、治療継続を拒否、新規患者として扱われる。また学会で認められていない拡大を主体とした床矯正治療や特殊な治療法(クイック矯正など)は、多くの矯正専門医は肯定していないので、これも同様である。

2015年7月22日水曜日

安全保障関連法案


 慰安婦問題で物議をおこしている関東学院大学の林博史教授の軍備放棄論を一部紹介します。長文ですが、社民党、日本共産党の論理に近いものです(http://www.magazine9.jp/interv/hayashi/hayashi.php)。


編集部
 戦争をするべきじゃない、というよりも、もはや「できない」社会になっているということですか。
 そう。安全保障の問題も、社会のあり方がまったく以前とは変わってしまってるんだということを前提にして考えないといけない。そうすると、理念として軍事力を放棄すべきかどうかということは別にしても、戦争は「できない」んだからしない、戦争をしてしまうとそれだけで人々に想像を絶する被害がでてしまう、そうするとそこで武力を持っていることに何の意味があるのかということになります。
 日本の場合でいえば、完全非武装までは行かないにしても、今の自衛隊のような強力な軍事力はいらない。せいぜい国境警備隊程度で、日本列島の外側で守るという選択肢はあり得るけど、そこを破られたらもう、手を挙げるほうがいい。そこで戦争を始めてしまったら、とんでもない犠牲が出るんですから。
編集部
 それが、犠牲を最小限に抑える現実的な手段じゃないかということですね。
 そうです。「軍隊を持たない」「非武装を貫くべきだ」などというと、なんだか非常に立派な人格者みたいだけど(笑)、そうじゃなくて、もっと自分のエゴで考えても、軍隊を持たないほうがかえっていい。自分の身が一番大事だからこそ、軍事力はないほうがいいんだということ。それが自分にとってもいいだけでなく、ほかの人々、ほかの国の人々にとってもいい。


 国境警備隊程度の軍備なら、北朝鮮、韓国、中国、台湾、ロシアなど日本の周囲の国から簡単に侵略されますので、防衛は放棄し、攻撃されたら、すぐに白旗を上げて降伏するということです。共産党、社民党の基本的なスタンスはこういったものです。国内が戦争となる国土戦の悲惨さは、沖縄、サイパンを見てもはっきりしており、国土戦にならないように防衛力を高め、抑止力としているのですが、こうした平和主義者は周辺の国と話せばわかる、外交でなんとかなるという善人論から組み立てています。ECとなって国境がなくなり、周辺国からの侵略の可能性が低い状況でも、欧米各国が依然として軍備を減らさない理由を全くわかっていません。一度、欧米の政治家の前でこの平和主義持論を披露してほしいものです。まず笑われます。

 安全保障関連法案についても、民主党の左派(社民党)と右派の整合性は全くなく、ただ反対という印象しかありません。こうした政党が再び政権をとれば、空想的平和主義に後退し、万が一の事態がおきた場合、管元首相のようにパニックになり、逆に自衛隊員を特攻隊のように扱う危険性が高いくらいです。緊急の事態は起こってほしくないが、起きた場合のシュミレーションをして法整備をしたのが、今回の法案です。国際紛争における欧米各国の常識的な対処法を、日本ができるようにしただけです。民主党は、最初この法案は徴兵制に繋がると反対していましたが、近代軍隊の常識をしらない素人で、こうした素人集団に国の防備を任せるのは危険だといった声が自衛隊、軍事専門家にあがったことから、すぐに撤回しました。反対の内容はこんなもので、左派の学者も同様です。こうした学者の反応は、ポーツマス条約後、ロシアへの強硬政策を表明した東大教授など七博士意見書を思い出します。この意見書を読んだ伊藤博文は「なまじ学のあるバカ程おそろしいものはない」と言っていますが、今回の法案に反対する学者、文化人の言動も同じようなもので、ここは政治家として世界情勢をよくみて、真剣に決めてほしいものです。民主党も、東日本大震災の混乱に乗じた中国、ロシア領空侵犯や韓国の竹島ヘリポート改修など、冷徹な国際関係を身にしみたと思いますが、政権を離れるとまた、昔の能天気な発想になっています。こうした軍事無知の政党が再び、政権をとれば、大震災の折、あの自衛隊、消防隊にむちゃな命令を出したように、竹槍で突っ込めと言い出しかねません。この法案に対する海外からの反応も、中国と韓国を除き、概ね賛成で、これで少しは日本も普通の国になったというものです。中国、韓国にしても、内心では、それほど反対していません。


 弘前の原子昭三先生は、教師時代、原水爆反対運動に熱心でしたが、どうも運動がアメリカの原水爆実験に反対するばかりで、ソビエト、中国の核実験には全く触れないのに疑問を持ち、運動から離れます。60年も前のことです。今の市民活動派は、日本の原子力発電所には反対するが、もっと危険な中国、韓国の発電所には全く声をあげません。同様に沖縄は、中国からの脅威には全く声をあげないのに、逆に強力な抑止力となっている米軍に反対します。韓国でも、朝鮮戦争は現在、休戦中でありながら、敵対国の中国、北朝鮮に同調し、味方のアメリカ、日本と敵対しています。どうもおかしなことです。

7/23 民主党の徴兵制復活の恐怖を煽るリーフレットは党内の常識派の意見で一旦差し止めになりましたが、その後、枝野幸男幹事長が強引に押切り、配布することになりました(”週刊オブイェクト”)。徴兵制の経済的な負担、近代戦の様相を全く理解しない民主党の一部の方が、合理性を無視して徴兵制を施行する可能性があるという識者もいます(”北大路機関”)。

2015年7月19日日曜日

弱虫ペダル

 昨今は、空前の自転車ブームで、弘前でもサイクルウェアーに身を固めた若者たちの姿を目にすることが多い、十年前まではマウンテンバイクが人気であったが、最近では圧倒的にロードレーサーが中心である。自転車には昔から興味があったので、ついどんな自転車か見てしまうが、多くはイタリア、アメリカの高級バイクで、おそらくは20万円以上のものである。今の若者は、自動車やバイクにはあまり興味がないようで、それらに比べると、自転車に20万円と思われるかもしれないが、ある意味、安い。こずかいを貯めて、念願の自転車を買い、部屋に持ち込み、毎日きれいにしているのだろう。気持ちはよくわかる。

 自転車の魅了は、走りもさることながら、構造が簡単なために、一通り工具を揃えると、かなり自分で分解、整備、改造ができることである。部品を買って、グレートアップできる楽しみもある。また走り、ことにロードレーサーの走りは、体験したものしかわからないが、通常のママチャリとは異次元の世界で、自分が風になったような高揚した気分になれる。50-100kmの近距離への走りは、風景の移り変わりを肌で感じることができ、さらに走破後の快い疲れ、かなりのダイエット効果もある。健康ブームにもってこいの趣味である。

 こうした自転車ブームのきっかけのひとつに、マンガ「弱虫ペダル」がある。アニメオタクの眼鏡っ子、少年が次第に自転車選手として成長する物語で、2008年から少年チャンピオンで連載され、現在、単行本で40巻になっている。これが非常に面白く、週に2巻ずつ、本屋で買ってきて読むのが楽しみとなっている。こうした子ども向けの漫画本を60歳近いおっさんが買うのは抵抗があるが、最近のマンガの中では最もおもしろい。累計で850万部売れたのは、うなずけるし、今後、海外ではますます人気となろう。自転車は欧米を中心に人気の高いスポーツで、第二の“キャプテン翼”になる可能性もある。そしてこうしたマンガで育った若者の中から、いずれツールドフランスで優勝するという夢のようなことが起こるかもしれない。おそらくマンガの方では、先に主人公はプロになりツールドフランスの山岳賞をとることでしょう。

 昔から自転車メーカーはヨーロッパが中心で、イタリアを筆頭に、フランス、イギリスもいい自転車をだすし、ドイツや北欧諸国も斬新な自転車を作っている。アメリカでも20,30年前から良い自転車を作り、ツールドフランスなどでも活躍した。一方、日本の自転車メーカーは長い間、暗黒時期にあって、一時、コガミヤタ、パナソニック、サンレンショウなどのメーカーが有名であったが、世界的なメーカーとしては育たなかった。本質的には日本人は、オートバイ同様に自転車でも世界を制覇できたかもしれないが、どうもママチャリが中心となってしまし、本格的なものに人気はなかった。ただ変速機、ブレーキ、ハブなど中心的な装備については、シマノという巨大な会社がある。数十年間までは競技自転車の装備といえば、圧倒的にカンパニョーロであったが、2030年前から、次々と革命的な新製品を開発し、それがプロ選手に使用されるにつれ、その性能の高さから、今は世界一のメーカーとなった。30年前にデェラエースという革命的な変速機が出たときに株を買おうとして結局、やめたが、未だに買っておけばよかったと悔やまれる。フレームについては、台湾が強い。イタリア製といっても多くのフレームは台湾で作られ、技術も高い。


 近くの雑貨屋の店の正面に、イタリアのレニャーノの古い自転車が置かれていた。ロードレーサーブームもさらに進み、古い自転車に乗る若者も現れてきた。昔のアルミのレニャーノの自転車も捨てようかと思ったが、少し整備してもう一度乗ろう。こうした流れが、一時のムードにならないように、行政も自転車専用道路の整備などに努めてほしい。

2015年7月16日木曜日

日本の歯科医療




 アメリカに住む日本人にとって、とりわけ心配なのは、病気になった場合である。医療費が高く、一旦病気になると信じられないくらい費用がかかるためである。とりわけ歯科については、かぶせていた歯が急にとれたり、痛くなったりするため、慌てることになる。虫歯で直した前歯の差し歯が急にうずいて、寝むれない。近くの歯科医に予約をとり、来院する。ざっと見た歯科医は、この歯は歯根の奥の方に膿みがたまっていて、まず歯根の治療をしてから、上の差し歯を作りなおすか、抜いてインプラントをするかと説明する。歯根の治療をする場合は、その専門医で治療してもらってから差し歯の治療をすると。

 そして見積もり金額が呈示される。検査の費用3万円、歯根の治療に10万円、差し歯に20万円の計33万円、あるいは抜歯に3万円、インプラントと上部構造に30万円の計33万円かかる。アメリカの民間保険では一般的に歯科は含まれないことが多いが、歯科を含めた高額な保険の場合でも、全額保険でカバーできず、この金額の半分くらいがカバーされる。1本、歯が痛くなるだけで、給料の大半がなくなる。これは大きな出費である。さらにいうと、こうした治療が日本の歯科医療に比べて格段に優れているかというと、疑問であり、アメリカでもピンからキリまでの先生があり、優れた先生のところでの治療はさらに高い。

 これに対して、日本では、歯根の治療をして差し歯を作り直す費用は、大体2、3万円くらいでアメリカの1/10くらいと考えて良い。日本の保険制度ではもともとの診療報償がアメリカに比べて安く、その1/3くらいで、さらに窓口支払いは、その3割となる。他の治療も概ね同じである。アメリカに比べて日本の歯科治療ははるかに安く、日本に住むアメリカ人はほとんど、この安さと治療内容に感激する。たったこれっぽっちの治療費でいいのか、だましていないかと逆に怪しまれる。また海外に住む日本人の中には、日本に帰省時にすべての歯科治療を完了させるという人も多い。

 日本ではこうした優れた保険制度が長年続いたため、そのありがたみが薄れている。一人の診療時間が短い、治療が乱暴である、サービスがなっていない、診療がへただといったクレームが多く、さらには安い診療費も払わない患者もいる。ハンバーガーが百円で買えるのに、ちょこっと治療しただけで、千円も取られる。何と高いんだ。明細書を調べて、こんな治療、検査はしていない、返金しろとせまる人もいると聞く。さらにはアマルガム(水銀)という奥歯に詰めているものを削ると、銀と勘違いしているのか、削ったアマルガムを返せとどなる人もいる。

 日本の医療は、多くの患者を沢山みて薄利多売により安い診療報酬で治療をしている。医者は金持ちだという人もいるだろうが、アメリカでは日本の患者の数分の一で同じ収入を得るのだから、よほど日本の医者の方が忙しく、肉体、精神的にはきつい。歯科にいたっては、歯科医数が増加して、患者が減り、薄利多売ができないため、収入が減り、今や歯科医師(勤務医)の年収は450-800万円となっている。月収で30-50万円、初任給は15-25万円くらいで、開業医でも年収は1000万円くらいである。朝9時から夜9時まで働き、これである。ラーメン店でも年収1000万円の越える店主は多い。歯科医の場合、6年間の歯科大学の授業料、生活費などが5000万円、そして開業資金としてはビル開業でも3000万円以上かかる。こうした出費があって、なお開業、勤務後の収入がこうなのである。こうした状況をアメリカ人に言えば、クレージと言われる。
 
 一部の歯科医を除く、多くの歯科医はこうした状況にも関わらず、非常にレベルの高い治療を提供している。確かに高級フランス料理店の味、サービスはできなくとも、庶民が日常食べる食堂よりははるかに安くて、いいサービスをしている。最近では、社会保障の行き届いたヨーロッパも医療費高騰に悩み、歯科の負担率(日本では20%)を上げたり、保険が適用できない治療を増やした。ドイツなどでも、もともとの診療報酬自体が日本より高く、さらに専門医制度があるため、前に述べた歯根の治療などは専門医に回され、費用も10万円以上かかる(アメリカ並み)。デンマークも18歳以上の歯科治療は保険がきかず、イギリス、フランスも同様で、最近では安い東欧に治療に行くひとも多い。おそらく先進国の中では日本の医療費が最も安いのではないだろうか。そうした意味では、日本の歯科医療は、かなりお得な治療と言えよう。是非こうした現状は理解しておいた上で、日本の歯科医療について考えてほしいし、そのありがたみを是非とも守ってほしい。