2009年8月20日木曜日

紺ブレ(ネイビージャケット)



 商売柄、会合に出席する際には、スーツよりはブレザーの方が楽なので着る機会が多い。何種類かのブレザーを使い回して着ているが、そのうち最も古い、20年前に買ったDAKSのブレザーがさすがにくたびれてきて、袖やあちこちが破れてきてしまった。愛着もあるのだが、家内がみっともないということで、ここ1年ほど東京や大阪に行く折にあちこち探して来た。

 この歳になるとかっこいいというよりは楽なのがいいため、着てみて楽なもの、楽なものばかり探してきた。結論としてはナチョナルショルダーで肩のパッドが入っていないもの、ウエストが絞られていないもの、肩が立体裁断で少し前身ごろのものが楽であった。

 以前、Cantarelliというイタリアの大手既製服メーカーものが気に入っていたが、尼崎にあったNAKAGAWAという店がなくなったことと(最近復活した)、どうもこのメーカーは着心地がいいのだが、耐久性に欠け、扱いも荒いせいか、ところどころ糸がほつれてきている。若い時にあこがれていたブルックスブラザースもスーツはもっているが、中国製で値段の割には高い?あるいはブランド名が価格の半分かとも思った。同様に一着もっているJ-PRESSのブレザーもアメリカントラッドの伝統を守り、着心地は楽なのだが、これも私の金銭感覚からすれば質の割には高い気がする。

 そんなこんやで、悩んでいるうちにDAKSのブレザーのやぶれがさらに大きくなり、今年の夏には買わなくてはいけないことになった。インターネットで調べるとリングジャケットという大阪のメーカーの裁縫がよく、非常に評判が高い。帰省の折に一応見てみようということで、大阪梅田の阪急ナビオのメンズ館に行って来た。ところがこんなところにはめったに行かないせいか、まちがってリングジャケットの隣のBatakという店に入ってしまった。東京代官山の店で体にフィットして実に着心地がよい。私の場合、袖丈が長い場合が多いのだが、ここの服はセミオーダーになっているためジャストフィットにできそうである。一回りしてから隣のリングジャケットも覗いてみたが、ここも評判通り着心地が良い。ここらが潮時かと思ったが、どちらも7万円をこえ、ブレザーに7万円かと思うとさすがに躊躇して、またブルックスブラザースやJ-PRESSも覗いてみたが、同様な値段で裁縫など上記の服に比べてかなり劣る。

 リングジャケットの服を安く売っている大阪本町の船場センタービルのトラッドハウスフクスミも覗いてみようと船場に久しぶりに行った。船場はおじさんが昔店を出していたため30年以上前にはよく行ったのだが、久しぶりに行くと随分凋落した感じであった。道行くひともまばらでかっての盛況ぶりはない。

 このセンタービルの8号館にある小さな店がフクスミである。店内には所狭しとスーツとブレザーが置かれている。コンブレでいいのはないかと言うと年配の店主が出してきたのが、同店のオリジナルのMessengerというブランドジャケットである。よくできているし、着心地もよい、さらに値段が安く、上記ブランドの半分以下である。話しをしていると30年前のブルックスブラザースのブレザーを出してきてくれ、見せてくれた。ここで昔受託生産していたようである。こうなると値段に弱い私は春夏ものと秋冬ものの2着を買ってしまった。

後日、丁寧な梱包で自宅に送られて来たが、生地もよく、裏星といった手縫いの箇所もあり、袖の仕上げも丁寧で、縫製もしっかりしている。工場名は伏せているが、案外リングジャケットで作っているのではと思ってしまう。おしゃれな男性雑誌にも取り上げられないが、ブランド名にいっさいこだわらない人は一度行かれることをお勧めする。かってAVON HOUSEというメーカーが好きで、こづかいを貯めてハリスツイードのジャケットを買ったが、25年たってようやくこなれてきた。フクスミのハリスツイードジャケットもデイーテルがすごく、ほしい商品だ。
(http://www.rakuten.co.jp/fukusumi/394885/458756/)

*書いていて調べると、BATAKは英国スタイルにこだわるメーカー、リングジャケットはイタリアの服作りを追求する注目されている国内メーカーで、結局買ったのはもろアメリカントラッドで、おしゃれ好きの人からは笑われる話です。

2009年8月16日日曜日

高齢者が使うには難しすぎる




 大阪にいる母親は、韓国ドラマのファンで、毎日テレビで見るのを楽しみにしている。BS放送では最新の韓国ドラマを多く放送していることもあり、朝から晩まで新聞の番組表に印をつけて視聴している。

 たまの外出時には見れないこともあり、今年大阪に帰った時にハードディスク付きのレコーダーを買った。番組表をそのまま録画できて便利と思ったからだ。うちの家内も一週間分の韓国ドラマを予約して時間の空いている時に見ている。非常に簡単な操作で録画予約ができ、重宝している。

 ところが大阪の実家では電波障害もあり、ケーブルテレビで視聴している。この場合、レコーダーで録画予約する場合、まずケーブルテレビの番組表で録画したい番組を予約し、その後、レコーダーで日時、時間を設定して始めて録画できる。さらにその際には入力切り替えをしてコンポーネント1からビデオ1へと切り替えをしないといけないため、テレビ、レコーダー、ケーブルテレビの3つのリモコンを駆使しなくてはいけない。実に煩雑な操作を必要とする。

 ケーブルテレビの情報のひとつをまず選択して、その情報がラインを通じてレコーダーに送られる訳だが、その際にレコーダー側に、その時間にデーターが送られてくることを教えておかないといけないことになる。

 とてもじゃないが高齢な母親にこんな複雑な操作をできるわけはなく、月刊テレビガイドで録画したい番組をチェックしてもらい、兄に後で入れておいてもらうことにした。

 家電メーカーも随分昔から誰でも簡単に操作できるように工夫を重ねているようだが、なかなか解決しないようである。コンピューター技術というのは「属性」を選択していかないといけないため、来週のこの番組を録画したいと思っても、年月日や時間、放送局を指定しないとどうしようもない。簡便化しているとはいえ、一番組を録画するには、何種類かの属性を打ち込まないといけない。むしろ属性を打ち込むという点ではGコードという古いやり方の方が属性を数字で打ち込むだけなので簡単かもしれない。「新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性」(原丈人 PHP新書  この人も含めて1950年代生まれの慶応大卒の人には優秀なひとが多い)でも、前期デジタル時代、後期デジタル時代(ポストコンピューター)の次の時代としてネオアナログ革命がやってくると予想しているが、年配のひとも含めてあらゆるひとが簡単に機械を操作できるようになるためにはネオアナログ革命の到来が必要なのかもしれない。

 本来、コンピューター、家電分野で最も開発が待たれる自動翻訳機でも、googleの自動翻訳や色々な翻訳ソフトをみてもそれほど進歩はない。もし発音、聞き取りを備えた完全な翻訳機が完成できれば、世界中の多くのひとが機械を通じて話すことができ、語学学習の必要性もほとんどなくなるはずだ。立体テレビといった過去には夢のような機械も実現が可能になり、製品開発の決め手がどんな夢をもつかになっているが、未だに実現できないのがこの翻訳機である。

 おそらくは計算を主体とした2進法を原理としたコンピューターでは限界があり、それを超える新たな基礎的な発明が必要かもしれない。そういった点では医学の世界においても診断機器の発展はあっても診断そのものはまだ人間が必要だし、そのためには経験も必要であろう。

2009年8月4日火曜日

矯正治療の難しさ



 矯正治療は、本当に難しいと感じます。通常、歯を動かし、完成するまで最低でも1年半、その後も2、3年はみるので、少なくとも4、5年はかかることになります。当院でも1995年に開業しましたが、その当時の患者さんも多数いて、すでに14年たっていることになりますし、今後もさらに経過を見て行く必要があるでしょう。

 米作りは年に一回しか収穫できないので、20年のベテラン農家でも、20回しか米作りを経験していないとも言えます。気候や品種などによっても栽培方法は違いますし、土地の耕し方や肥料の種類や与え方なども毎年違うのかもしれません。

 矯正治療も不正咬合の種類や顎骨形態の差や発育状況によっても治療法は違ってきますし、さらに患者さんの年齢、性別や性格なども関係してきます。歯を動かすのは原理的には力をかければ動きますし、実際学術雑誌では数式を用いて歯の移動を計算する論文も多くあります。ただ現実的には、計算通りに歯が動くことはありません。同じ力、同じ方向に歯を動かそうとしても個人によって、その反応は違ってきますし、同じ個人でもそれまで動いていたのが急に動かなくこともあります。大臼歯という大きな奥歯と前歯を引っぱり合えば、普通に考えれば、根が小さな前歯が動くはずです。ところが前歯が全く動かず、奥歯だけが動くこともあります。相撲取りと子どもがロープを引っぱりあい、子どもが動かず、相撲取りのみが動くようなものです。数式ではあり得ないことです。

 かみ合わせというのは、長年その状態であったのですから、口の機能面からすれば今の状態が最も安定した状態です。それを矯正治療するということは一旦安定性を崩すことになります。その抵抗の仕方が個人によって変わってきますし、また矯正治療後の安定性も違ってきます。ある患者では、矯正治療をしてワイヤーを入れると、それこそあたかもそこに歯が動きたかっているかのように、どんどん並んでいきます。当然治療期間も早い。一方、ある患者さんでは、色々な方法を試してもいっこうに歯が意図したところに動いていきません。治療期間もかかりますし、どうしても治療後の後戻りも多い。特に悩まされるのは、かみ合わせが深い場合と舌機能の問題がある症例です。

 かみ合わせが深い患者さんの場合、咬む力が強いため、なかなかかみ合わせが浅くすることができませんし、舌機能に問題がある患者さんではゴムなどを使って咬ませても、また開いてきます。

 時折、昔矯正治療が終了した患者さんが何年もたって来ることがあります。口をみるまでいつもびくびくしている状況で、どれだけ後戻りしているか本当に怖いというのが実感です。多くの患者さんでは前歯がでこぼこしてきたと来られる訳ですが、ほとんどの場合、なんだこれだけしか戻っていないのかと逆にほっとします。簡単な再治療で治るためです。それでも治療後、10年、20年、30年たったらどうなるのか、未だ心配です。一度、鹿児島大学で治療した時の患者さんと15年ぶりに会ったときも,まず最初に見るのは口元です。きれいな笑顔を見ると本当にうれしく感じます。

 矯正治療を学んで25年以上たちますが、それでも本当に難しい仕事だと思います。