2021年5月26日水曜日

矯正治療を勧めにくい患者さん

 




1.     軽度の不正咬合

わずかな歯のデコボコや出っ歯を主訴として来院される患者さんがいます。最初、診察してどこが問題なのかと思い、患者さんに聞くと前歯のわずかなズレ、ねじれ、出っ歯を気にされる方がいます。ブラケットをつけて治すのは本当に簡単なのですが、今後十年のことを考えると後戻りが心配です。上の歯並びは比較的安定しますが、下の前歯については上の前歯が被っていること、奥歯で噛む力が歯を前方に動かす力となること、20歳過ぎても下顎のわずかな成長、形態変化が起こることなどから、下の前歯はデコボコになりやすく、矯正していなくても年齢とともに少しずつデコボコしてきます。それゆえ元々の不正度が50(100点満点)の場合は、矯正治療後に95点になり、保定終了後5年度、80点くらいなら矯正治療した価値はありますが、元々が90点の場合は、95点にしても容易に90点になります。

 

2.     本人に治療の希望がない場合

そもそも治療は本人が治したいという希望があってするものですが、子供の場合は親の気持ち、子供の歯並びを良くしたいということから始める場合が多いようです。小学生くらいであれば、親の管理で何とかなりますが、中高校生になるとあくまで歯磨きやゴム掛けなどは本人まかせとなります。ひどいケースになると、矯正装置を入れても歯磨きをきちんとしてくれないため、多数の虫歯ができた症例もあります。また指定されたゴムをきちんと使ってくれないため治療がうまくいかないこともあります。それゆえ、マルチブラケット装置に治療をする場合は、必ず患者さん本人に治療の覚悟を聞き、あまり治療に積極的でなければ治療はしません。矯正治療の場合は、緊急性はありませんので、成人になってからも治療はできるからです。

 

3.     治療計画を自分で立てる人

こちらは矯正歯科の専門医で40年近い経験と知識があります。ただ患者さんによってはこちらの治療方針を信用せず、自分で調べてきた治療法を求める人がいます。矯正治療には色々な方法があり、どれがベストという方法はないのですが、それでも専門医試験官などを経験するとある程度、治療法は収束していきます。拡大装置やインビザラインなどによる非抜歯治療は、口元の出ている日本人、アジア人では適用は少なく、個人的な意見ですが、適用は20-40%程度と思われます。また成人患者さんの場合、かみ合わせの逆の反対咬合では半分くらいが外科矯正の適用で、逆の上顎前突では10%が外科矯正の適用と思われます。歯は抜きたくない、手術もしたくない、こうした患者さんは、5名の矯正歯科医から抜歯が必要と言われても、抜歯が必要ないという一般歯科医で矯正治療を受けたりします。もちろんうまく治療はできません。

 

矯正治療は、緊急性がないので、いろんな歯科医院で話を聞く、インターネットで情報を集めるのは大事なことです。ただ生体を扱うだけに必ずしも100%満足のいく結果は得られず、私のところでも、非常にうまく仕上がったのは20%、まあまあというのが60%ですが、うまく仕上がらなかったというのが20%くらいあります。もちろんこの“うまくいかなかった”という状態は先生によりますが、この割合は多くの矯正歯科医の偽らざらない感覚です。例えば前歯を中に入れるような力系をしていても、前歯がほとんど入らずに奥歯ばかりが前にいく症例があります。舌を前歯に強く当てる癖がそうしているのですが、治療するまでわかりません。また歯が骨と引っ付く骨性癒着が起こることがあります。全く歯が動きません。矯正治療はこうしたリスクがあることを十分に理解していただく必要があります。


5/22の朝の文化放送で、横浜市長の林文子さんが”須藤かく”のことを取り上げてくれました。「横濱流儀 ハマスタイル」という6.7分の番組ですが、要領よくまとめて、わかりやすい内容になっています。5/27まで聞くことができますので、興味のある方はお聞きください。

https://radiko.jp/#!/ts/QRR/20210522065000


 


2021年5月15日土曜日

歯科のOEM製品





OEMとは、Original Equipment Manufacturerの略で、他社ブランド製品の製造、あるいはその製品企業を意味する。生産を委託する会社は、委託側が提供する図面や詳細スペックに従って自社の生産設備を使って生産する。製品は委託会社のブランドで販売する。

 

軽自動車では一般的で、スズキやダイハツの軽自動車が名前を変えて、マツダやトヨタで販売されている。歯科でも、昔はナカニシのハンドピースが他社ブランドで売られ、矯正歯科ではヒューフレディのプライヤーがユニテックの名前を入れて売られていた。こうしたOEMの製品は、デザインそのものも変えたりするので、元々の製造会社がわかりにくく。てっきり販売会社が製造しているように思える。このことが後々ユーザーの問題になる。

 

一つの例として、当院で使っている顎運動測定器のアルクスディグマIIという顎運動測定装置である。元々はドイツのZebrisというメーカーのOEMで、KavoおよびSAM社にOEMとして供給されていた。ソフトや本体にKavoなどの名前が入っただけの、ほぼ同じ製品である。現在、アルクスディグマIIはまだ販売されているが、製造元のZebrisでは三年前にすでに製造を中止している。Zebris社の顎運動測定器はその後も開発が進み、2013年からアナログーデジタルのWinJawシステムに移行し、その後、2015年からはデジタルーデジタルのシステムに、さらに2017年からはBluetoothを使ったワイヤレスに、2019年からはフルデジタルシステム、そして2021年からは超音波ではない、光学式のものに変わっている。世代でいうとカボのアルクスディグマIIは第2世代にあたるが、最新のZebrisの顎運動測定装置は第7世代となる。5世代前のものとなる。おそらくかなり前に、Kavo社がZebris社にOEM製品を依頼、生産し、その在庫をいまだに売っているのだろう。

 

こうしたOEM製品の問題点は、故障した場合、どこが直すかという点である。以前、ナカニシのOEMのタービンの場合、基本的にはOEM先で直してもらうのが原則で、オサダやGCなどのユニットメーカが修理を行っていた。ところが簡単な修理であれば、OEM先のユニットメーカで修理できるが、本格的な修理となるとお手上げとなり、修理不可能となる。もちろんOEM先のナカニシでは修理可能であっても、OEMの契約のせいか、そういうことができない。おそらくそうした保障費を引いた安い値段でOEM契約をしてまとめた台数を注文したせいであろう。

 

先日のブログで述べたが、当院のアルクスディグマが壊れ、修理できず、フェイスボー本体の交換となった。フェイスボー自体はマーカー(センサー)と基板、配線となっているが、Kavo社ではファイスボー自体を分解する修理技術がなく、本体交換となった。具体的に言えば、フェイスボーの上下の二つの部分が特殊な方法で止められ、それをはずせないのである。フェイスボーの内部が見られないので、たとえ断線であっても、フェイスボー本体の交換となる。おそらくは在庫製品の部品と共食いと思われが、少なくともいわゆる修理はしていない。もちろんZebris社に持っていけば修理が可能で、断線が原因であれば、安い値段で修理できるし、4つのマーカーが全て壊れることはなく、そのマーカーが故障すればそれを交換だけで済む。

 

軽自動車のOEMの修理はどうなっているかというと、同じく、基本的にはOEM先で修理するのが原則で、例えば、ダイハツのOEMであってもトヨタで修理する。もちろんむずかしい修理は製造元のダイハツに送ることもあるが、基本的にはOEMであってもトヨタの看板を背負っているので、修理はできません、あるいは分解もしないで、エンジンごと交換しましょうなどとは言わない。最近でこそ、歯科製品でもOEMは減っており、ユニットメーカもあえて自社のタービンにこだわらず、最初からナカニシと明記しているし、カボ社の滅菌器、スティティム900SciCan社のものとし、修理もSciCan社が行う。



* 動画はZebrisの最新型顎運動測定器で、七世代の光学式のもので、かなり小さくなっている。


 

2021年5月11日火曜日

学歴と資格


 以前、東奥義塾の朝礼で、生徒の皆さんに学歴についてお話ししたことがあります。社会人講話というもので、前半は東奥義塾の歴史などを、後半では就職するためにはいい大学に入ることを勧めた内容でした。私自身、歯科医をしていますが、この職業は学歴がほとんど関係せず、患者さん自身、かかりつけの歯科医がどこの大学を出たかほとんど知らないと思います。医師の場合も、大学病院や大きな病院に勤める場合は学歴が関係しますが、個人開業となると、これもまた患者はその医院の先生がどこの大学を卒業したか知らないし、あまり興味がないと思います。たとえ、日本で最も入学の難しい東京大学医学部卒業の先生であっても、患者からすれば、全くそうした学歴には関心がありません。すなわち医師、歯科医、薬剤師、看護師など資格が必要な職業では、学歴以上に資格が重視されるのです。

 

 一方、資格が必要でない、一般会社の場合は、学歴が重視されるでしょうか。実際、会社に入ると学歴よりは実務能力、仕事で評価されます。どこの大学を卒業したかよりはどれだけ仕事ができるかを評価します。ただ会社に入るためにはある程度の学歴が必要となります。以前、ソニーは大学欄を空欄にして採用試験を行いましたが、結果的に採用した新入社員は例年以上に有名大学に偏っていたため、次の年からやめたようです。面積や筆記試験で採用するのは非常に難しく、勢い採用担当者からすれば、ある程度有名大学の卒業性の中から採用を決めた方が優秀な社員を得ることができると考えています。そのため学歴不要論が言われ始めて2030年以上経ちますが、いまだに就職では学歴が重視されています。

 

 実際、住友商事や東京海上などの有名企業に入る人を見るとほとんどは東京大学、一橋大学や早稲田大学など有名大学卒業者です。これは批判があっても厳然とした事実であり、欧米なども同様な傾向があります。アメリカなどは日本のような一斉の就職試験などはなく、学歴など無関係のように見えますが、日本と同じように有名企業に入るには有名大学を卒業していないと難しいようです。これは世界中の事実です。国立大学以外の私立大学で言えば、関東では早稲田大、慶応大、国際基督大、上智大、立教大、明治大、法政大、青山学院大、中央大、津田塾大、関西で言えば同志社大、関西学院大、立命館大、関西大くらいが、これに該当します。これ以外の大学となると、いわゆる有名企業に入るのは難しくなります。テレビの“ドラゴン桜”では、東大に入るため、落ちこぼれの高校生が懸命に努力しますが、早稲田、慶応、上智大学を除けば上記の大学は高校三年間を計画的に勉強すれば、大抵の高校生は合格できるレベルと思います。3年間、1時間余計に勉強する、あるいは少し集中力を高めるだけで十分に入学できると思います。こうした事実を早い時期から高校生に、はっきりと示すことは大事なことです。ストレートすぎて話にくいのですが、それでもしっかり伝えておく必要があります。

 なぜ、いい大学に入って、一流企業に勤めるのか、簡単に言えば、その方が楽に稼げるからである。もちろん才能と熱意のある若者は自分で起業して会社を作った方が良いのですが、それほどの才能なければ、一流企業の方が明らかに楽をしてサラリーが高いのは事実です。学校の教育者というのは、こうしたリアルな現実に蓋をして綺麗事で喋る傾向がありますし、高校生は高校生で、実際の社会の現実に目を向けません。進学校の生徒が有名大学に多く入学するのは、そうしたことを先生が教えなくても生徒自身が知っているからです。進学校の生徒の親も有名大学、一流企業出身者が多く、家庭でも当たり前のことになっています。一方地方の公立高校や私立高校では、こうしたリアルな現実を生徒たち自身がわからず、また教師、親も本音でしゃべりません。親が金がないので大学に行けないと嘆く生徒に限って、無理してつまらない大学に行くものです。一流大学も四流大学も授業料はほぼ同じなのですから、金がないのであれば、一流大学に行くべきですし、その方が育友会の奨学金も取りやすくなります。


 逆に資格取得は、資格が重要なため、出来るだけ、安くて、短く、簡単に取得できる方法を探すべきで、そうした情報も高校の教師は持ってほしいものです。事務職は希望者が多いのですが、左官、大工や自動車整備工になる若者は少なく、給与もよくなっています。昔のような怖い棟梁もおらず、優しく指導してくれので、勉強が苦手でも、根気のある生徒はこうした仕事も高校中に体験させ、資格をとる学校に行かせるのも教師の仕事と思います。

 親の中には、高校生になれば、親の言うことは聞かないと、全て、進路も含めて子供任せにする親がいます。高校生は人生の現実を何も知らないのです。親でなくても、大人がはっきりと社会、人生の現実を子供達に話すことは大事だと思います。


 

2021年5月8日土曜日

ユニセックス化による人類滅亡

 



 私が生まれたのは昭和31年(1956)で、当時はまだまだ男女差が大きく、男の子は青や緑、女の子は赤やピンクの服を着ていた。大人の女性も含めて、パンツ姿の女性はほとんどおらず、スカート、ワンピース、着物姿の人がほとんどで、ようやく女性のパンツ姿が登場するのは、1970年頃で、ジーンズやパンタロンなどのパンツ姿の女性もこのころから多くなった。

 

 小学生の低学年の頃は別として、男女が一緒に遊ぶことはなく、遊びの種類も違っていたし、教室でそれほど会話することもなかった。子供心にも男女は異なる、別物であると強く信じていた。この考えは長く続き、大人になっても、40歳くらいになってもまだまだ男女は違うという感覚は強く、いい意味では女の人は男性より綺麗好きで、優しいと思っていた。また男性より嘘をつかない、クリーンなイメージを持っていて、特に政治家では男性よりは女性の方がよほどましだと思っていた。

 

 ところが、ところがである。ここ10年前くらいから、部屋を全くかたづけない、ゴミ部屋の若い女性や、男性秘書を口汚く罵る女性政治家、運転の荒い女性を見るにつれ、こうしたフェミニズム的な女性感が急速に消失していった。先日も、近くの弘前中央郵便局の障害者用駐車場に平気で止めている車を注意したところ、中年の女の人から“私は障害者よ”とかなり強い剣幕で怒られ、謝る羽目になった。ただよく考えれば、走って郵便局に行ったことから、少なくとも歩行障害はなく、障害者用駐車場に止める資格はない。またこちらが歩道を歩いているのに突っ込んでくる恐怖のドライバーは女性であることが多い。

 

 こうした男女差がなくなった要因としては、共稼ぎ率が高くなったことがまず、挙げられる。以前は男性が働き、女性は家にいる専業主婦のケースが多く、男女の役割分担が明確であった。ところが最近では多くの家庭で夫婦共に働くことが当たり前になり、料理、掃除、洗濯などの家事も夫婦で分担することも多い。つまり社会生活上で男女の役割に差がなくなり、さらに給与においても夫婦で差がなく、家でも立場上に優劣がなくなった。

 

 こうした流れは、これまで女性的、男性的と言われるものが必要なくなり、ファッションにおいてもユニセックス化が進んでいる。ジーンズ、T—シャツ、スニーカというユニセックスファッションがもはや全く違和感がなく、同様に男性が美容院に行くのも、化粧をするのも普通になってきた。こうした男女のユニセックス化は、単にファッションだけにとどまらず、一つはLGBTQなどのいろんな生き方の肯定に繋がっている。さらにフランスなどでは化粧、ブラジャーを全くしない女性が増え、子供を産みたいが、結婚しない女性も多い。こうした流れは、今後も急速に進み、男女共に同じ服、靴、化粧はせず、髪型は同じになる可能性がある。そうなると唯一の違いは性器の有無だけとなり、単純な確率から言えば、カップルは男—男、女—女、男—女の3種類で、その割合も1/3ずつとなる。例えば、男女共に坊主頭に同じ衣の僧侶の世界を想像してみよう。もちろん尼さんは化粧もせず、灰色や茶色の法衣も男女同じである。生まれた時からこうした世界にいた場合、果たして正常な性欲が出るのだろうか。性欲は大脳皮質が司り、外的刺激がその引き金となるが、ユニセックス化により外的刺激そのものがなくなると性欲自体起こらなくなる可能性がある。案外、人類全滅のシナリオは、こうした男女の性差がなくなることがその要因になるかもしれない。ちょっと怖い話である。




2021年5月5日水曜日

クインテッセンスの症例報告

 


 クインテッセンスという歯科雑誌がある。矯正専門で開業しているが、一般歯科の流れを知るために、開業当初から、すでに20年以上、購入している。この雑誌の特徴は、アメリカ型の高度の、違う言い方をすれば金のかかった歯科治療を紹介していることだ。補綴、エンド、外科の専門家による論文も参考になる反面、矯正歯科に関してはあまり矯正専門医の論文が登場せず、むしろ一般歯科医の矯正に関する論文が出てくる。少し専門家からすれば問題のある論文がある。

 

 昔から一番興味があるのは症例報告で、ある患者さんの治療、全ての歯を直す全顎治療が多いのだが、詳細に紹介されている。いろんな治療がなされているが、多くは矯正治療が含まれ、下の歯列のでこぼこを直す治療が取り入れられている。すなわち下の歯にブラケットをつけてワイヤーを入れてでこぼこを直している。一番簡単な治療なのでせいぜい半年くらいで治る。簡単に直せるので、全部の歯をきれいにするのであれば、ついでに下の前歯のでこぼこをなくすというのは悪いことではない。

 

ただ無料でしているわけではなく、有料、それも数万円単位の額ではなく、数十万円以上とっている場合もあろう。クインテッセンスにはそうした治療費は一切書かれていない。下の第一大臼歯から反対の第一大臼歯までの12本の歯にブラケットをつけるのに15分、ワイヤー交換は5分、6ヶ月では完全に終了できる。マルチブラケットによる矯正治療の中では最も簡単で手間がかからない。

矯正専門医から見ると、クインテッセンスの症例報告のような中高年の患者に、矯正治療を行うのは勧めない。というのは非常に後戻りが多く、それを防ぐためには舌側から固定式の保定装置が必要となる。中高年でいえば、生涯、固定式の保定装置を入れておくのが良いのかという議論が出よう。クインテッセンスの症例では、おそらく数十万円の費用をかけて矯正治療をしていると思われるが、そうした費用をかけて矯正治療をする必要性は、ほとんどの矯正歯科医は肯定しないし、エビデンス的にも肯定されていない。まあ、手間もかからないから、おまけでタダで矯正治療するのであれば、悪くはないが、費用をかけてする必要性は全くない。以前、あるスタディーグループで、こうした症例の演者に質問したところ“患者は矯正治療を希望した”という。これは全く詭弁であり、患者は治療に対する専門的な知識は持ちえず、演者が矯正治療を勧めた結果、患者が受け入れたと思う。たとえば“これだけ金をかけて矯正治療しても意味はありませんよ”といって誰が治療を希望するだろうか。ましてや数十万円の矯正治療費を追加しようとすれば、きっと“矯正治療をして下の前歯を綺麗に並べれば、歯周疾患の予防になります。十分な価値があります”くらいのことは言っているだろう。説明を受けた場合は、それを証明する論文の提示を求めよう。まず論文はなく、こうした説明を平気でする先生は多分、勉強はしていない。

 60歳以上の患者になれば、目標はいかに一生自分の歯で食べられるかであり、同時に社会心理的には審美性も求められが、それ以上にできるだけ歯に侵襲の少ない治療法が必要となる。昔、尊敬する一般歯科医がいて、彼の治療計画は、患者の口腔内の10年後、20年先を読んで、この歯は一時的な治療をして、逆にこの歯を他の歯がなくなった時に重要なので、自費でもきちんと直すという。多くの歯はテンポラリーという一時的な治療をして12年してから自費の補綴物に替える方法をとっていた。慎重に少しずつ進めていた。もちろん傾斜歯の直立などの矯正治療は必要に応じてやっていたが、単純な歯の整列はしなかった。

 矯正治療は基本的には患者の希望により始まり、歯科医から勧められて治療するものではない。なぜなら一部の不正咬合、顎変形症や口蓋裂を除けば、矯正治療による機能的改善は少なく、確実にエビデンスがあるのは、自己評価の改善、つまり自信を持って笑顔になり、積極的になったという社会心理的な改善である。これは患者本人が気にならなければ矯正治療は必要ないことになり、歯科医から指摘されて初めてわかるものではない。50歳以上の患者にこちらから勧めて下顎前歯のでこぼこを改善する矯正治療は、あまり意味がないと思える。うちの患者が東京の歯科医院で奥歯の虫歯の治療を行なったが、補綴治療に関して、自費と保険治療について説明があった。その説明書を見せてもらったが、保険の治療を銀歯の治療として否定し、ファイバーコア、セラミックの治療を勧めていた。その治療方針自体は否定しないが、そこの歯科医院のH Pを見るとドクターはほとんど若手の歯科医師であった。少なくとも彼らの経験上から長期の予後からセラミック治療を勧めたわけではなさそうである。私の奥歯には24Kの金のインレーとクラウンがすでに40年以上入っているが、個人的な経験から金よりセラミックの方が機能的に優れているとは思わない。



2021年5月3日月曜日

Kavo アルクスディグマII 故障

ゼブリス(Zebris)の新しい顎運動測定器 軽いて、ソフトも見やすい

 顎変形症患者の検査には筋電計測と顎運動計測が必要である。このうち顎運動計については、当院では25年前から機械的な測定器(アキシオグラフ)、次はシロナソ、そしてサフォンビジトレーナー、そして今は操作が簡単で利用者も多いカボのアルクスディグマIIという機種を2年前から使っている。超音波によって顎の位置とその軌跡を測定する装置で、測定の失敗が少なく、測定時間も少ない。

 

 個人的にはカボという会社には少し不信感があったので、購入には躊躇した。ただ値引きも可能であったので、設定にムラがあったサフォンビジトレーナーから切り替えた。年間、顎変形症の患者数は15名ほどで、この2年間で約30名の測定を行なった。先日、測定をしようとすると捜査途中で止まるため、修理に出し、代替え品を送ってもらった。ところがこの代替え品も動かず、コンピュータごと装置一式みてもらったところ、コンピュータが勝手のアップデートをして、それが終了していなかったことが原因であった。さらに装置の一部が故障していて、それを交換しなくてはいけないということだった。その見積もりがきて驚いたのは金額で交換費用などを含めて20万円以上する。かなり高いが、メーカーに言わせると使用頻度による故障という。2年間で30名、つまり30回の使用で、壊れたのである。衛生士も私にそんなひどい取り扱いはしていないと憤慨していた。

 

 このメーカーに不信感があるのは、歯科用ユニット(機器)故障修理のために、保守契約を勧めている点である。通常の電気製品やアップルケアーのような故障修理保証制度の中には高いと思うものがあるが、このカボの保守契約は年間、10-20万円くらいで、べらぼうに高い(故障交換部品代は別)。20年使うとなると総計で200-400万円、ほぼユニット代に相当する。ちなみに私が愛用するアメリカのA-decの歯科用ユニット500300という機種は、それぞれ20年、10年使っているが、これまでの点検料や修理部品代、全てを足しても20-30万円くらいである。さらにカボの小型製品、今回の顎運動測定器についても保守契約があり、交換部品代を除いて年間10万円の保守料がかる。それでも医療機器であるので、常に安全な状態で提供するのに費用はかかるのはある意味理解できる。ただ二つの点で問題を有する。

 

1.     エコの観点から

 このメーカーも含めて海外メーカー(主にドイツ)は、機器の修理をするより新品に交換を勧める。修理のために海外の送るのは手間と郵送費がかかるために、その機器を廃棄して新しいものに交換する。この方法は日本支店に本格的な修理部門を設ける必要がなく、経営の効率化ができる。アルクスディグマIIは、ドイツのZebris社が開発販売している装置のOEMであり、それも新型のデジタルJAWシステムではなく、旧型をカボで販売している。もちろんZebris自体には修理部門があるが、私のようなケースでは、地域の歯科商店から東京のカボジャパンに、そしてドイツのカボ、さらにZebris社への修理のための転送を嫌ったこともあるかもしれない。またOEM製品についてはOEM先での修理となるのかもしれない。単純な配線切れであればそれを繋ぐだけで、あるいは部品の一部を交換できる製品を、ユニットごと交換することはエコ的にも大きな問題を呈し、こうした使い捨ての考えは今やそぐわなくなっている。日本で製品を売るなら、それを国内でも確実に修理できるような体制をとるべきであろう。

 

2.     企業の姿勢

 環境問題から、できるだけ故障の少ない製品を企業は目指すべきであり、

30回の使用で故障するような製品に堂々と修理費、交換費を請求する会社には製品に対する信頼は少ない。私の診療所では乾熱滅菌機としてアメリカのDentoronixDDS5000という機種を20年以上使っているが、一度故障して動かなかったことがある。もちろんアメリカまで発送することはできないため、購入先で問い合わせると、ある工場に修理を依頼しているとのことで、そこに送ると安価で修理して送られてきた。日本の歯科機器の会社の多くは自社に修理担当部門を持ち、送れば大抵修理できるようなシステムになっているが、海外のメーカーはどうだろうか。A-dec場合は、ユニットについては故障するところは長年の経験からわかっており、故障の症状を電話で伝えると修理部品が送られてくる。A-decの六角レンチセットを使ってその部品を外して交換する。部品代は驚くほど安い。ほとんどの箇所が容易に分解修理できるような構造となっているし、詳しい説明書もついている。これがこのメーカーの信頼の高い点である。長期の使用を目指すなら、まず故障しても簡単に直せるような設計にするのも大事であろう。

 

ポストコロナは、これまでの消費拡大型の社会ではなく、愛着のあるものを大事に修理し、長く使っていく社会であり、特に医療関係の会社では、短期の利益を追うのではなく、長期の会社継続を基本とした信頼される経営が大事である。カボという会社は、信頼のドイツを代表するような企業であり、昔は車でいうとベンツのような存在で、その製品は故障の少ない安心のものであったが、こうした信頼より経営を重視する会社になったことが悲しい。

PS:DCアダプターが修理交換の過程で紛失したので、カボに値段を聞くと25000円とのこと。通常のアダプターはアマゾンで1500円くらいで売っているので、世界で最高に高いアダプターであろう。また実際に装置自体を分解して故障箇所を探したわけではないようだ。


 

2021年5月2日日曜日

おいしいダイバーシティー

 



 “おいしいダイバーシティー”(横山真也著)を読みました。主としてイスラム圏からの観光客への対応を述べた本で、アジアにもインドネシアなどイスラム教徒の多い国があり、そこからの観光客への、主として食を中心にした対応は早急に必要と感じました。この本の中には日本のGDP1990年ごろからほとんど変化していないのに対して、欧米では3倍くらいに、中国では7倍くらいになっていることを示す図がありました。また2019の世界能力ランキングでは日本は世界35位、アジアではシンガポール、香港、台湾、マレーシア、カタール、サウジアラビア、UAE、韓国より下です。さらに世界の企業時価総額ランキングで1989年では10位以内に8社あったが、2019年には42位のトヨタが最高で、ここ20-30年の日本の凋落を嘆いています。そしてその原因として移民の少なさ、移民に対する環境整備の不備を訴えています。

 

 確かにジャパンアズナンバーワンと言っていた1990年に比べると、 日本の世界的な評価は小さくなっており、GDPの低下もその通りです。ただ日本に住む外国人は不満に感じているでしょうか。日本に長年住む外国人では、賃金も上がらず、物価も上がらない日本はどうかという話題が多いようです。結論としては、毎年物価が上がり、給料も上がる母国より、給料も上がらないが物価も上がらない日本の方が住みよいとなるようです。各国の消費者物価の推移を見ると、1990年を100とすると日本は2019年でも変化はないのですが、アメリカは170、ドイツは140、世界平均で270になっています。実際にアメリカでは、2008年から住居費で35%、病院診療代で70%高くなっています。おそらく給料もこれ以上の増え方をしないと生活は厳しいでしょう。さらに年金も物価スライド制になっていればいいのですが、そうではなく、貯金も年々、目減りしていきます。

 

 私のところでの矯正治療費も開業して26年になりますが、全く変わっていません。もちろん、使っている製品の多くは輸入品なので、かなり値上りしていますが、テナント代も変わりませんし、人件費も通常の昇給の範囲で、値上げする要因がありません。おそらく他の業種においても、値上げがしにくい状況が続いているのでしょう。ただ日本を除く、他のほとんどの国がインフレ傾向があり、物価が上がっていることを考えれば、日本だけ、物価が上がらないというのはもはや限界にきているかもしれません。

 一方、外国から見ると、日本は本当にお得な国になっています。30年前まで、日本は他の国に比べても物価の高い国で、欧米から来た観光客も日本の食事や宿泊代の高さを嘆いていましたが、今や物価の上昇していない日本は世界から見れば相対的に安い国となり、特に欧米の人から見れば美味しいランチが1000円以下で食べられる国であり、その安さに驚くようです。またアジアの人々から見ると、30年前の賃金や物価から見ると日本は自分たちの国の3から10倍くらい高く、とても日本へ観光旅行する余裕もなかったのですが、近年、中国、タイ、ベトナムなどの経済発展により、この格差はかなり少なくなってきました。最近の統計では、上海の平均年収は160万円くらいで、日本のほぼ半分くらいになっています。中国のお金持ちにすれば、日本旅行はコスパの高く、何度も来たい所のようです。

 

 周囲の国の経済発展に伴い、日本観光の相対的なお得感はますます増加していくため、コロナ騒ぎが終われば、また多くの外国人観光客が来るようになるでしょう。




2021年5月1日土曜日

手洗いコーナーの加温自動水栓

加温自動栓




自動水栓 キングジムのアルコールディスペンサーも良い




小型電気温水器


従来型のレバー式水栓



 コロナ感染の追加対策費用として25万円をもらえることになり、前回は、診療室の滅菌消毒コーナーの改築費に使ったが、今回は、水まわりに使うことにした。診療所の水まわりというと、当院の場合は、スタッフルーム(技工)、歯磨きコーナー、滅菌消毒コーナー、診療室の手洗いコーナー、歯科用ユニット、トイレとなる。

 

 メインの二台の歯科用ユニットはアメリカのA-dec社のもので、これはボトル供給型で、3リットルのボトルからタービン、スリーウエイシリンジなどの水が供給される。ボトルに次亜塩素酸などをいれて、ユニット内部もきれいにできる。水は浄水器で作ったきれいな水を使用しているため、タービンの故障がほとんどなくなった。

 

 青森のような寒いところでは、冬になると水道が凍結することがあるために、毎晩、大家さんに頼んで、水道の元栓を閉めるようにしている。朝、解除してもらうが、水道管が古いせいか、最初の30秒くらいは茶色、錆が入った汚い水が出る。さらにでている水はびっくりするほど冷たい。そのため、スタッフルーム、滅菌消毒コーナー、手洗いコーナーには小型電気温水器が設置している。これは電気ポットを水道栓の下に設置したようなもので、水がここで温められ、貯えられる。動作中は常にお湯が温められ、水と配合されて蛇口から暖かいお湯が出る。最大60度程度のお湯が出る。灯油やガスの給湯機があれば、そこから給水すれば良かったのだが、ビル自体がオール電化で、また大型の電気給湯器を設置する場所がなかったので、3つの水道栓、それぞれにこの小型電気温水器を設置した。ただ水栓はレバー式にしたので、手を洗う場合も、いちいちレバーを上げ下げしなくてはいけないので、感染対策としては問題があった。

 

 当初は、この蛇口のみをタッチレスにしようと考えたが、面白い商品があるのを発見した。加温自動栓というもので、必要な時にだけ必要な水温まで瞬間的に加温して供給するもので、簡単にいうと水道管そのものを瞬間に加温して蛇口から暖かい水が出す。さずがに最高温度で30度くらいですが、手洗いに限定すればちょうどよい温度である。何しろ省エネがすごくて、従来の小型電気温水器に比べて電気代は-92%、節水は-90%となる。実際に使ってみると最初の2、3秒は冷たいが、その後は少し暖かい水が出て、当たり前だが手を離すとすぐに止水するため、水量はかなり少ない。またこれまで小型電気温水器のタンクの部分がなくなったので、かなりコンパクトになった。

 

 ただ欠点としては、水量、水温を調整できないので、主として手洗いに限定されることと、機器、設置費用が高く(20万円以上)、今回も補助金がなければ、断念したであろう。それでも企業などの洗面所に設置されるケースが多いのだろう、注文しても入荷には時間がかかった。コロナ時代、手洗いの普及に伴い人気商品となっているのだろう。まだ真冬日での使用経験はないため、瞬間的加温能力についてはまだ実証できていない。凍りそうな冷たい水を、瞬時に温めてくれるか、来年の厳寒時期、1月、2月にその実力がわかる。その時にまた報告したい。